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【代表】は貴方です 其の1

1話が始まる前日譚です。

7話から続きですので、飛ばしても構いません。

【場面が過去に変わっております。7話まで飛ばして読んでも問題ありません。】





時は1か月ほど遡り、とある企業の社長室にて世界は枝分かれした。








「社長! 社長! 大丈夫ですか!?」


 荒々しい声が近くで響いている。

 頭が重い。喧しい声の方向に意識を向けようとするが、まとまらない。思考が霧のように拡散し、今何をすべきかすら定まらない。


「緊急要請だ! 健康管理室の産業医どもを呼んでこい! 直ちに救急車も手配しろ!」


 聞き慣れた声だ。幹部の中西——俺が社長を務めるヘスティアHD、その社長室に出入りできる数少ない幹部の一人。

そう、ヘスティアHD。親父の代では中堅の運送会社に過ぎなかったが、2024年問題をきっかけに業界の統合を推し進め巨大化したんだ。今では他業種も取り込み、ちょうど新規事業の……意識を集中させると記憶が形になって集まってくる。少しづつ置かれた状況がわかってきた。


(……俺は、倒れているのか?)


 覚醒しきらない脳を無理やり動かし、現状を整理する。

 どうやら俺は、社長室で倒れているらしい。意識はあるが、返答できなければ気絶していると勘違いされても仕方がないか。


 だが、それ以上に——。

脳の奥深くから、膨大な情報の奔流が押し寄せている。

 視界の外で、中西の指示に従い、秘書やスタッフたちが慌ただしく動いているのがわかる。だが、今の俺には彼らの声は届いていない。

 脳が異常なほど活性化している。まるで脳みそ全体が()()()()()()()()()ように、知覚できる範囲が広がっていく。

 知覚できる範囲とは自分の記憶の中だ。「知っているはずのない情報」が、まるで最初から知っていたかのように脳内に鎮座している。


(これは……何だ?)


 まるで、「脳の記憶のタンス」の隣に、突如として巨大な倉庫、いや図書館のような情報のつまった箱が建てられたような感覚だった。


真人鷹平(まひとようへい)は人類の【代表】である》


(——は?冗談じゃ、ないな)


 何のことかわからない。現実味はまるでないが、事実であることは理解させられている。

 ちょっとでも意識を向けると無限に感じる情報の渦に飲み込まれるようだ…


(いいか、まずはアウトラインを示せ。専門用語を使うな。……部下にも言い聞かせているだろ、)


 普段自分が部下に言っていることだが、何の皮肉か自分の脳みそに言っているんだから眩暈がする。いや、目もあけられていない。


《代表とは、おおいなる情報体によって選ばれた者である》

《目的は、人類の進化である》

《代表は、大いなる情報体と交信する権利を有した人間である》


 打てば響くような即レスである。

(人類の進化……? 代表?)

 ……まだ慣れたとは言い難いが、これは明らかに通常の情報の取得ではない。

 明確には言葉にできないが、次第に頭の中の情報が形を帯びて認識できるようになってきた。

訳が分からないが、とにかく早く動けと言われている気がする。


 俺は、散り散りになりそうな意識をかき集めて声を絞り出した。


「……中、西…」


 虫の鳴くほどの小さな声だったが、中西が飛ぶように振り返る。


「社長! 意識が……! すぐに医者を——」


「人払いだ。戦略室の諸葛(もろくず)、システム開発の斎藤を呼べ。緊急で、だ。」


 木下が一瞬、怪訝な顔をする。しかし動けない俺に変わって矢継ぎ早に指示をとばす。


「わかりました。すぐに呼びます。病院へはいかがいたしますか?」


 俺はゆっくりと身を起こし、今後の行動を告げる。


 中西の運転する車に揺られながら、脳みそがようやく冷却されてきたのを感じる。相変わらず脳内に巨大な情報が居座っているが、これなら会話も問題ないだろう。()()()()()()()()()()()


―社長、着きました。 

都内にある本社から、高速を飛ばして3時間ほど。俺は中西を連れて別荘に来ていた。周囲に人気が無いことを改めて確認し、口を開く。


『ここに呼んだ理由は…』


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