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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第四章 気に食わない運命は捻じ曲げましょう。
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森中狙撃戦 其の1

「ルカ、そっちの宿から近いんだったな。急げ、こっちはもう動ける」


『了解、今向かっています!』


通話が切れると、レオンはニコの飛行機鍵をひょいと指に引っかけ、外へと歩を進めた。


──五分後、ダンジョンゲート前。


「来たか」


レオンの声に応えるように、軽い足音が石畳を鳴らす。姿を現したのは、装備を整えたルカだった。顔はどこか晴れやかで、しかし決意に満ちた光が宿っている。


「おう、なんか雰囲気変わったか?」


「……なんでもないですよ。そんなことより、真理さんが囚われてるって、本当なんですか」


「確定じゃねぇ。だが、キーンとグリッドが動いてるのも間違いねえ。真理の姿も“それらしき人物”が魔王城で確認されてる。...かなり細い線だが、全部が繋がってやがる。」


ルカは唇を噛み締め、拳を固く握った。


「キーンたちの噂、リザさんから聞きました。かなりの数の女性が毒牙にかけられているかもしれません。でも、まさか……。真理さんが捕まるとは思えない……!」


「怒るのはあとにしろ。今は動くぞ」


レオンは躊躇い無くダンジョンゲートに飛び込んだ。ルカも後に続くと、その先には、青々とした草原地帯が広がっていた。風が吹き抜け、遠くには木造の小屋がぽつんと立っている。


「飛行機はあそこだ。急ぐぞ、ルカ!」


「はい!」


二人は草原を駆け抜けた。魔物の気配はない。恐らく、キーンたちが意図的にこの区画を封鎖しているのだろう。

もしくは序盤ゆえに、モンスターが駆逐されているのかもしれない。


「ここだ」


木の扉には蝶番が付けられていたが、関係ねぇとばかりにレオンが蹴り飛ばして開ける。

すかさず部屋の隅々に視線を投げ、誰もいないことを確認した。その所作に無駄はなく、さすがはデルタフォースのトップチームに属しているだけはある。(※現在はリーメン・ハウンズ)


「……これ、軍用機がなぜ?」


中には、ほこりを被ったセスナ機が一機、覆いをかけられて眠っていた。だが、通常の小型機とは異なる、鋭角な機首、耐熱コーティングされた機体、そして横に装備された簡易兵装ユニット。


「ニコの奴、こんなもん作ってたとはな。足も速え、使えるぜ」


レオンは操縦席に飛び乗ると、手際よくエンジンを始動させる。冷たい機体に炎が吹き込まれ、プロペラが回転を始めた。


「乗れ、ルカ。行き先は、魔王城……の手前の森。グリッドが根城にしている館に行く。」


プロペラの唸りと共に、セスナは草原から跳ねるように浮き上がった。


「ルカ、後部座席にしがみついてろ。揺れるぞ」


「はい!」


風を切り裂きながら、機体は加速していく。セスナは一般の旅客用とは異なり、まるで軍用ヘリのような加速力を持っていた。ニコが丹精込めて改造した機体だけのことはある。


やがて、遠くに黒色の巨城が見えてきた。そこから飛びだった小さな点が空に浮かび上がり、その数はざっと十を超えている。


「チッ……旋回するぞ」


レオンは舌打ち一つ。冷静に操縦桿を切り、機体を左旋回させた。元より魔王城へ直接向かうつもりはなかった。飛行機はあくまで“足”であり、“武器”ではないのだ。


「森に隠す。あの館までは歩きだ」


「了解!」


機体は低空飛行に移行し、木々が密集するエリアに差し掛かる。枝葉をかすめながら、地面すれすれに着陸。衝撃を抑えつつも、二度目の出撃も可能な絶妙な位置に止めた。


機体が止まるや否や、レオンはすぐさま動き出す。大量の落ち葉と枝を集め、手際よく機体を偽装した。


「少なくとも空からは見えねぇだろ。」


「マップ的には、グリッドの館まで森の中を直進して5km程ですね 」


そのときだった。


一点の光。非常に微細で、巧妙に隠されているが、確かに人工的な反射光が視界に一瞬だけ掠めた。自然界には存在しえない、光学系のレンズが太陽光を僅かに跳ね返した輝きは、レオンが最も良く知る種類の光である。


──狙撃手。


「伏せろ、ルカ!!」


反射的に、レオンはルカの頭を掴み、地面に押し倒す。そのまま身体ごと引きずり、太い木の幹の影に隠れる。


「……ッ!」


直後、

ぴちゅっ──


風のざわめきに合わせて、弾丸が木々の合間を縫って通り過ぎた。

葉の一枚がふわりと宙に舞い、静かに地面へ落ちる。


「狙撃ですか!?」


「だな。 この俺相手に狙撃たぁ、後悔させてやるぜ」


レオンは低く息を吐き、わずかに身体を沈めた。

ルカをかばうように後退しながら、背中に固定していた長物へと右手を伸ばす。


“Orsis CT20” ロシア製の新型高精度スナイパーライフルだ。

有効射程距離2500m、軽くて頑丈なジュラルミン合金を使用しており、砲身の製造誤差0.002mmという病的なまでな精密さを誇っている。狙撃手の照準を極めて高い精度で反映する最高のスナイパーライフルである。


「敵は移動し始めてんな……だが。」


レオンは照準を微調整する。

チラリと見えた反射光の位置から、周辺の地形を舐めるように見渡し、ある一点に照準を絞る。


ズガン──


Orsis CT20から吐き出された弾丸は、草木に阻まれた視界の奥へと消え、何か硬いものを撃ち抜く鈍い音が返ってきた。


「……多分、当たったな。ルカ、見に行くぞ」


そう言ってレオンはスコープを覗いたまま立ち上がり、銃を背負った。

代わりに腰のハンドガンとナイフを引き抜き、動きながら周囲を警戒する。


「はい!どんな敵なんですか?」


「姿は見えなかったが、優秀な狙撃手だ。おそらく軍出身だな。狙撃距離400m、近接戦闘ならこっちに分があるだろうが油断するな。」


「分かりました。」


ルカは剣を引き抜き、盾を構えながら隣を並走する。

素直に返事はするが、顔にははっきりとした疑問の色が浮かんでいた。


「敵が見えなかったのに、狙撃は成功したんですか?」


「仕留めた感触は無かったが、無傷で逃がしたとも思えん。」


「えっと、何を撃ったんですか?」


「狙撃後にすぐ移動するのは訓練された証。軍部出身だと予測すると、理論的に次の行動が染み付いているからな。そこに照準を合わせるだけだ。」


レオンが行ったのは、狙撃手の習性を逆手にとった“偏向狙撃”の究極系だった。狙撃とは相手の行動や心理を視る能力が問われる。


「狙撃手って凄いですね……」


「血の跡があればラッキー、死体があればパーフェクトだな。」


草をかき分け、レオンが足を止めた。


そこには、散乱したM24 ESRのパーツがあった。バイポッド、マズルブレーキ、スコープの一部。

レオンの狙撃は、確かにHitしていたが、運悪く装備の一部を吹き飛ばしただけに留まったようだ。


「M24ESRか。この型はアメリカ陸軍でよく見る物だな。まだ近くに居るかもしれないから探すぞ。」




ーーーー



(やべぇ野郎が来やがったな……誰だ?)


ギャリースーツに身を包み、《ファントムショット》ネブラ・ガンロックは息を潜めていた。

逃げきれないと判断し、それなら敵の情報を探ることにしたのだ。


(この街じゃ見た事ねえな。俺が名前を知らないってことは……どっかの特殊部隊だろ!くそがッ)


ゆっくりと、ギャリースーツ越しに地面を撫でるように這う。足跡を作らず、体温を遮断するようにして、倒木の影で視線を切りながらジリジリ後退する。


(あのガキ、腰巾着じゃなかったのかよ。最前線組と同じような圧があるじゃねえか。グリッドめ、一体何に狙われてやがる?)


ネブラは近接戦闘を完全に諦めた。

移動し、隠れ、狙撃する。 その基本に徹して、まずはどちらか一人を殺そうと思っていた。


──その時だった。


ズバンッ!!!


乾いた音が、木霊する。

それはレオンどころか、ネブラの意識にも無かった第三者による狙撃であった。


視線の先で、レオンの左腹部のアーマーが爆ぜるように裂け、鮮血が宙に散った。


(……この銃声、セルジュかッ!?)


アドベンティアには凄腕の狙撃手が三人いる。

《ファントムショット》ネブラ・ガンロック。

《狩猟帳》B・B・ロバート。

《夜撃の詩人》セルジュ・ファーニエ。


彼らとは味方として何度もモンスター狩りに参加しているし、銃声を聞き間違えることはない。


(チャンスだッッ!!)


ネブラは大胆に立ち上がった。

身を晒し、M24 ESRを構える。

照準は、膝をついたレオンの背中。今なら、確実に仕留められる。


「──死ねッ!!」


ぴしゅっ。


引き金を絞る。

消音されたはずのM24から、かすかな音が走ったその直後──


ズバンッッッ!!!


ネブラの手元が爆発したような衝撃。

スコープが砕け、腕に熱い衝撃が走る。


「──がッ、あああああああッ!!」


反射的に地面に飛び込み、バランスを崩したまま斜面を転がり落ちる。M24 ESRの銃身だけは、意地でも離さなかった。


(あのやろぉぉおおお!! 何考えてやがるッッッ!!!)


怒声にもならない怒りを喉奥で噛み砕きながら、ネブラはそのまま斜面を転げ落ちた。

ごろごろと地面を滑り、岩に肩をぶつけ、ギャリースーツが枝に裂かれていく。


撃ったのはセルジュ。《夜撃の詩人》セルジュ・ファーニエ。

射撃だけが彼の世界。朝も昼も夜も森に潜み、片時もライフルを離さず生きていた。そんな彼のテリトリーで、世界最高峰の狙撃戦が始まったのだ。


「す、凄い狙撃だったなあ。ぼ、僕も混ぜてよ♪」



ーーーー



ルカはレオンのすぐ背後に付き、盾を構えながら周囲を警戒していた。落ち葉の音ひとつ、枝の軋みひとつにも過敏になり、目と耳を総動員して気配を探る。


「多分だが、敵は逃げずにこっちを見てるはずだ。遠くには行ってないとおもうぜ」


「わかりました!」


ルカは小さく頷いた。

敵の姿は見えない。だが、レオンの直感と理屈は信頼に値する。


(近接戦闘なら俺がやらなきゃ。絶対に見つけてやるぞ。)


そう思った、その直後だった。


──ズバンッ!!


バキンッ!!


金属が砕ける音とともに、レオンの体がのけぞった。

左腹部のアーマーが破裂するように爆ぜ、紅い飛沫が宙に舞った。


「がはっ!」


鈍い呻きとともに、レオンが膝をつく。


「レオンさんっ!!」


叫びながら、ルカは咄嗟に駆け寄る。

その視界の隅、レオンが撃たれた反対方向

つまり、自分たちの背後から、何かが動いた。


(なんで、そっちに……!?)


ギャリースーツに身を包み、草陰から立ち上がる一人の男。迷彩が剥がれ、銃口がこちらを向いている。


《ファントムショット》ネブラ・ガンロック。

先ほどまで姿が見えなかったはずの狙撃手が、今まさにレオンを狙っていた。


「くそっ──!」


ルカはレオンの背中へ滑り込むように飛び込んだ。

盾を構え、咄嗟に身を挺して覆う。


ぴしゅっ!


乾いた破裂音が微かに聞こえる。

瞬間、盾に何かがぶつかり、鉄板を揺らす振動が走った。

跳弾音。強烈な衝撃。だが、盾が確かに受け止めた。


(……間に合ったッ!)


「レオンさんっ!!」


「ぐふ……頭を下げて、木陰に…」


「はい!!」


呻きながらも、レオンの声はまだはっきりしていた。

よかった!意識はある!


ルカは素早く姿勢を落とし、レオンの肩を支える。

同時にもう一発の銃声が聞こえ、ネブラが絶叫しながら斜面を滑落していく。


「もう一人いたのか……なんで見えなかった…」


レオンは、悔しさを噛み殺しながら、必死に脳を回していた。腹部の痛みなんかどうでもいい。狙撃戦で遅れを取ったことが、この男のプライドに触ったのだ。


「そうか…!スコープを使わずに狙撃しやがったんだ。シモ・ヘイヘでも400-500mだぞくそが!」


一部の狙撃手には、太陽の反射を嫌ってスコープを外す者がいた。白い死神として知られる、世界でも最も有名な狙撃手シモ・ヘイヘなんかがそれである。


レオンが受けた腹部の弾道を考えると、南東から目測600mほど離れている。そんな距離をスコープを使わず狙撃できる敵がいたのだ。

何故ネブラが撃たれたのかは、全く分からないが、今は考えないこととする。


「どいつもこいつも!上等だ。世界最高のスナイパーが、このレオン・ヴァスケスだと叩き込んでやるぜ」


天狗になった鼻を折られること。

それがレオン・ヴァスケスの真価を発揮する時である。


レオンwith Orsis CT20

→金髪のイケメン。ルカよりも男らしく、FFクラウド的なイケメン。


ネブラwith M24 ESR

→スキンヘッドに、年齢を感じさせる皺と傷跡。太い首と肩幅。the 軍人。


セルジュwith Howa M1500

→目を隠す長い癖っ毛。黒髪。実はぱっちり目で、お姉様から好かれそうな顔。

自己表現:射撃

他者理解:射撃


Howa M1500は、日本製の名銃。

シンプルな形状で取り回しがよく、精巧かつ堅牢な作り。パーツに頼らないセルジュにとって、お気に入りである。

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