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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第四章 気に食わない運命は捻じ曲げましょう。
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Operation:Break Box

「私は、どんな顔をしてアンタに話せばいいんだろうか?」


北欧の風は厳しく、岩だらけの土地は人を育むには乏しかった。

それでも、そこに暮らす者たちは、たくましく生きた。狭い谷間の農地と、豊かとは言えぬ漁場。家族を養うには足りず、男たちは次第に海へと目を向けるようになる。

――これが、ヴァイキングの始まりである。と言われている。


紀元8世紀の末、スカンディナヴィアに住む人々は、船を造り、海を越えた。理由はひとつではない。貧しさ、土地不足、政治的混乱、そして何より、彼らの造船技術と航海術がそれを可能にしたと考えられている。


やがて彼らは、沿岸を襲い、交易を結び、ときに定住し、異国の文化と交わっていく。

歴史に刻まれた事件といえば、西暦793年、ブリテン島の修道院が最初に襲われたのは、リンディスファーンのことである。そこから数世紀にわたり、ヴァイキングはヨーロッパの歴史の表も裏も走ることとなる。


9世紀から10世紀――まさにその最盛期に生きたのが、エギル・スカラグリームソンである……。

俺は...彼はアイスランドに生まれ、ノルウェー、イングランド、さらにはコンスタンティノープル(ビザンツ帝国)にまで旅をした。

詩人でありながら戦士。敵の首を跳ね、仲間のために詩を詠む。お...彼の人生は、ヴァイキングという存在の二面性「野蛮と叡智、暴力と文化」を象徴しているとされた。そのお陰だな、今でもエギルサーガとして1000年以上も褪せることなく語り継がれている。


エギルが生きた900年代、ヴァイキングは単なる海賊ではなく、各地に根を下ろし始めていた。

ノルマンディーでは「ノース人」のロロが公国を建て、キエフではルーシの商人が支配者となった。イングランドの王位さえ、一時はヴァイキングの手に渡る。その繁栄は、造船、剣技、交易、さらには詩や法律の伝統に支えられたものだった。


だが、永遠に続く栄光など存在しない。


11世紀に入るころ、ヴァイキングたちの航海は次第に止んでいく。キリスト教の浸透によって、かつての神々は忘れられ、戦士の文化は変化を余儀なくされる。また、イングランドやフランスなど、かつての標的となった諸国が防備を固め、簡単には攻め入れなくなった。

王たちは中央集権の国家を築き、戦士たちは領主や兵士となり、もはや「ヴァイキング」と呼ばれることもなくなっていった。


ヴァイキングの時代は、衰退したのではなく、姿を変えて吸収されていったと考える人もいる。


それでもなお、海の向こうを見つめ、運命を切り拓こうとした彼らの精神は、現代の北欧に根付いている。

そして、詩人エギルの名を知る者にとって、ヴァイキングとはただの過去の戦士ではない。

それは、魂に宿る航海の記憶であり、自らの名を刻むために戦い、語り、歌う者たちのことなのだ。



「なるほど。非常に勉強になる。」


ここは京都大学歴史文化学教授室の隣、空調の行き届いた来賓用応接間である。


(´・ω・`)ほむほむ。


真剣な顔で話を聞いていたエギルが、少し寂しげな満足感を漂わせて頷いた。その横には、ちゃっかりこもじも同席している。


「参考になったのなら、良かった...正直紛い物の私なんかより、アンタの見聞きした生の人生こそが本物なのだろう」


そう言うのは、先程まで「西洋史学 ヴァイキングの興亡」についての第一人者エギル・スカラグリームスソン教授である。


「何を言うか。これまでの話、俺よりも遥かに俺達のことを理解している。どんな人生を歩んできたのか、良ければ続けて教えてくれ。」


異なる世界線より連れてこられたエギルが、この「源流世界で生きたエギルの転生者」であるエギルと顔を見合わせているのだ。


「私は、生まれてしばらく記憶が戻らなかった。この体に流れる熱き血潮に反して、私の心は空虚そのものだったのだ。」


源流世界のエギルは、史実通り生き、史実通り死んだ。その類稀なる魂は、当然のように転生を果たす。


だが、自我をゆっくり形成する通常の人間と比べて、既に確立した自我がある前世持ちはそれなりに苦悩を持つものだ。

完成された器に、満たされるはずの中身が全く伴わなかったのである。やりたいこと、やるべきこと、英雄の魂を引き継いだ者としての使命を見つけることができなかったのだ。


「私は、ヴァイキング・エギルとしての記憶が戻るにつれ、彼を自分自身とは思うことが出来なかった。」


(´・ω・`)前世持ちが、苦労するというのはよく聞く話っすね。


「あぁ...両親とも上手く馴染めなくてな。結局私の居場所がどこにあるのか分からなくなって家を飛び出した。それからエギル本人について興味を抱くようになり、世界中に散らばったヴァイキングの子孫を訪ね、各地の伝承を復元し、時には当時の転生者を探して話を聞いたんだ。」


そう言って、源流世界のエギルがスーツの袖をまくった。歴史文化学の教授をしているとは思えないほど、その四肢は太く筋肉質で、目立つ傷痕が幾筋も残っている。


「……随分傷痕があるんだな。」


「ハハッ ヴァイキング達の気性は現代でも変わらずだったということだ。特に当時の転生者と衝突する事は多かった。」


「そうか。死を踏みしめる人生を送ったからな……敵にも仲間にも恨みは買っているだろう。すまなかった」


複雑な心境で、頭を下げるエギル。

恨みを抱かれている自覚は、エギルが思い出すだけで両手の指を何周するか分からない。ましてや彼が異世界に飛ばされなかった世界線では、より長く人生を歩んでいるはずだ。


「本人に謝られると変な気持ちだよ。そうだ、アンタは“首の詩”を既に詠んでいるかな?」


「エイリークの野郎に捕まった時のだな。さすがに忘れられねえな。」


エギルが敵対しているエイリーク王に捕まり、処刑される時に詠んだ詩のことだ。その即興で詠んだ詩が王の心を打ち、なんとその場で命を救われた事件が、伝説として語り継がれている。


「何年前の出来事か覚えているか?」


「……ろく...いや7年前だ。」


エギルが指を折って記憶を手繰る。


「そうか。ふふ、アンタ自分の年齢を知らんだろ?首の詩を詠んだのは西暦933年。つまりアンタが23歳の頃で……」


(´・ω・`)えっ そうすると、今30歳っすか!?


「私が人生を賭して作り上げたエギルの年表だ。間違いなく、今の年齢は30歳ということになるな。」


こもじも驚きである。メンバーの年齢はいまいち不明だったが、何となくの予想はあった。

ルカ&ミーシャはどちらも20歳。

帆世は26...27になったのか?くらいだが、正直いうとミーシャよりも年下に見える。

こもじが41歳で、エギルは同じくらいか少し上だとすら思っていた。


(´・ω・`)俺だけおじさんじゃん……


少なくない精神的ダメージを受けるこもじであった。


「本当によく調べている...。これからは、どうするつもりなんだ?」


年表をみて声を唸らせていたが、ふと源流世界のエギルを見て、その熱を燻らせた寂しげな表情に気がついた。


「どうするか、か……。正直言うと、からっぽだ。歴史学ですら、エギル・スカラグリームスソンという偉人に寄生して飯を食っている気分になる。今日ここにアンタを呼んだのは、俺の人生に明確な区切りをつけたかったからかもしれん。」


別段隠す気もなく、正直に胸の内を吐露した。

憧れであり、畏怖するエギル本人を目の前にしたことで、長年燻っていた負の感情が表に出てきてしまった。


「貴様のヴァルハラは、未だ見つからないようだな。」


「ヴァルハラに行きたかったよ。ここにいても、熱い血潮が冷め固まっていくようだ。」





ーーーー




(´・ω・`)自分と出逢うこともあるんすね~。俺ぁ前世とか覚えて無いんで気持ちは察せないっすけど


「今でも妙な気分だな。あいつは、俺と違って頭が良すぎる。ヴァイキングってのは船で生まれ、血を浴びて生きるようなもんだ。」


(´・ω・`)そういえば、他のヴァイキングの皆は元気っすかねえ


「アイツらなら、どこでも生きていけるさァ。さっきの話を聞いて、そう確信したが...仇とったことを知らせに行かねえとな」


ヴァイキングは滅亡したのではなく、各地に溶け込んで今なお生きている。第六層にいるヴァイキングも、現地の人々と交わり、あの地で生きていけると確信していた。


(´・ω・`)んじゃ、箱庭行くっすか?ぽよちゃん達帰ってくるまで先に進もうと思ってたんすけど


「ああ、箱庭に行こうか。新しい武器も貰っちまったし、ちったあクランに貢献してえ」


エギルがミスリル色に輝くタワーシールドを、コンコンと指で叩いた。


(´・ω・`)師匠が第五十層に到達してるっすからね。夢想無限流と合流すれば案内してくれるんじゃないかなあ


こもじとエギルが話しながら歩いていると、自然と人は遠ざかるのだが、堂々と道を歩いてくる三人がいた。


(´・ω・`)おっ 久しぶりっす~


「H~i♪ こもじさんご無沙汰してます!」


眩しい笑顔で手を振るのは、リーメン・ハウンズの紅一点。医療と隠密のエキスパートであるリリー・ベネットだ。

隣には百戦錬磨の隊長エリック・ハウザーと、黒光りする筋肉アイザック・モレノがいる。


「こもじくん、エギルくん、最近も大活躍じゃないか。また会えて嬉しいよ。」


エリック隊長と硬い握手をかわすと、グンッと空間が歪むほどの圧力がうまれる。


(´・ω・`)ふんっ


「フンッ!」


両者引かずの握手。二人の間で次なる一手が無数にシュミレートされ、ボルテージが上がっていく。


「じゃあ、俺も!……っとっとどわぁ!」


その二人に乗じて、アイザックが白い歯を見せて筋肉を膨らませ、エギルに握手を求めて一歩踏み出した。その瞬間、持ち上げた足をリリーが払い、バランスを崩して明後日の方向に突っ込んでいく。


「ちょっともー!話があるからこもじさん達を探してたんですよね!?」


リリーの言う通り、リーメン・ハウンズはこもじ達を探して京都大学まで来ていたのだ。ちなみに、レオンは帆世達の引率のためここには居ない。


(´・ω・`)話っすか?


「Yeah 単刀直入に言おう。我々三人と進化の箱庭に行かないか?」



ーーーー



「レオンが静香と一緒にアメリカへ行くことになったんだが、これは大きな問題だ。間違いなく、彼らは大きな問題を起こし、それを乗り越えて帰ってくる。」


エリック隊長が語り始めた。

静かに聞くこもじ。アイザックもリリーも納得している風に頷いているが、いまいち状況を飲み込めないエギルが疑問を口にする。


「アメリカに何か問題でもあるのか?」


「アドベンティアで暗い噂が幾つかあるが……多分そんな事は関係なくとも、静香達はやらかすさ。」


「Yes yes。俺たちゃよー、それでレオンに差を付けられちまうのが問題なんだぜ!」


アイザックが強く言い切った。実際入隊時から良きライバル関係であった彼らだが、レオンが無限回廊で新しい力を獲得したことで、戦闘面における差が出てきたのだ。


「これはアイザックの醜い嫉妬だがな。ハッハッハ」


「ちょ、隊長も焦ってたじゃないですか!?」


「俺は、まだケツの青いガキに負けたりはしない。」


その様子をみて、エギルも状況を察する。ようは、ここにいる五人全員が強くなりたいと思って方法を模索していたのだ。


(´・ω・`)師匠居ないうちに先に進みたいっす


「PTで足を引っ張りたくはねえな」


「“夢想無限流”“英雄の戦場”同盟を組んだクランに、我々が遅れをとる訳にはいかん。」


「レオンをぶっとばーす!」


「やれやれ……私も静香さんと一緒に行けばよかったかしら」


奇しくも、実にバランスの良い合同PTが出来上がった。

指揮官 エリック・ハウザー

タンク エギル・スカラグリームスソン

タンク&工兵 アイザック・モレノ

火力職 (´・ω・`)こもじ

医療職 リリー・ベネット


(´・ω・`)目指すは第五十層


「いいや、我々で第五十一層を踏もうじゃないか」


《リーメン・ハウンズから合同PTの申請がありました。承認しますか?》

[YES]/[NO]


ピピッ♪


《リーメン・ハウンズのPTへ加入しました。》


アメリカ遠征組に負けず劣らずの人類最強PTが結成された。リーメン・ハウンズが徹底した準備と作戦遂行の段取りを行い、こもじとエギルが重要な前衛を担う。


「Operation:Break Box 任務を開始するッ」


(´・ω・`)「「えいえいおー!」」






Operation:Break Box

進化の箱庭をガンガン攻略するぜ!(意訳)


アメリカ組

リーダー:帆世静香

副官:レオン・ヴァスケス

最大火力:ミーシャ

回復:ルカ

見守り役:柳生隼厳


進化の箱庭組

リーダー:エリック・ハウザー

工兵:アイザック・モレノ

最大火力:(´・ω・`)こもじ

回復:リリー・ベネット

タンク:エギル・スカラグリームスソン


どっちが強いですかね。

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