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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
特別章 冒険しましょう。
137/163

アドベンティア編 不屈の由来※

本日頂いたQ&A


Q.ジルは結局いい人?

A.生粋のフェミニスト


Q.魔法って何だっけ?

A.アクシノムの情報庫へアクセスする特別な鍵。アクセスすることでその現象を引き出すことができる。


Q.ジルの魔法はすごいの?

A.魔法をスリッドに組み込んで使うなんて、縄跳びの紐に筆結んで写経するようなもの。

私とジルは、DDDに来ていた。あっ、DDDじゃ分かんないな。


すまない、DDDとはダスティ・ダイヤモンド・ダガーという酒場の名前だ。店主がダンジョンに入った際、ダイヤモンド・ダガーというレアアイテムを入手したことが名前の由来になっている 。


ちなみに、ダイヤモンド・ダガーを入手するまでは、ダスティ・ドリンカーズ(小汚い酒飲み達)という酷い名前だったという。


たしかに、ここには毎日やってきて飲んだくれている冒険者が何人もいる。


「ワーオ! Queen Mary だ!」


「Hey ダスティ!Queenにビールを出してくれ!」


DDDの扉を開けると、昼間っから酒を飲んでいる冒険者たちがワッと盛り上がっていた。


私がいつも座る席が開けられ、注文もしていないのに、キンキンに冷えたビールが注がれる。


「いつもすまない。ただ、その呼び方はやめておくれよ。恥ずかしいじゃないか」


Queen Maryとは、恥ずかしい話だが、私の呼び名として急に広まった名前だ。真理という名前が、Maryになったのは分かる。

Queenの方は、出処が不明だ。ドラゴン討伐の一件で、仲良くなった第二輸送隊の面々を中心に急に呼び始めた名前なのだ。


「フフフ 良いじゃありませんか。 Queen Mary、彼らのニュアンスではメアリーの姉御さん、といった一種の尊敬なのですよ。」


ジルが解説してくれる。

無双無限流道場でも、攻略都市コモジニアでも、椿姐さんと呼んで慕ってくれる人達がいた。そのアメリカ版ができてしまったようだ。


「それにしても、Queenは大袈裟がすぎる!」


「いえいえ、似合っておりますとも。実はQueen Maryという映画がありまして、スコットランド女王メアリーがフランスに嫁いだ時のお話です。まさにマリ殿にぴったりなニックネームでありましょう!」


目の前のフランス人が揚々と語っているが、私はフランスに嫁ぐ気はないぞ。それに、公認バカップルみたいなニックネームを呼ばれていると知って、顔が熱くなるのを感じる。


(おい!あいつらは、それを知ってて呼んでいるのか?)


小声でジルを問い質す。


「まさか。彼らがそれを知れば、吾輩とて無事ではいられないでしょう。それくらいマリ殿は人気があるのです!」


いつも以上に楽しそうな顔だ。

その表情を見て、私のニックネームを広めた張本人が誰であるのかわかった。発案者ですらあるかもしれない。


「はぁ、まあそれはどうでもいい。それよりも、私たちは二人とも“ドラゴンスレイヤー”は付かなかったな。」


私のステータスを見せる。


【椿真理】

主な称号:[不屈の心]、[竜の禍縁]

所属クラン:夢想無限流

主な保有武器:鋼竜の刀

固有武器:蒼翔のブーツ南風ノトス

身体強化Lv3

保有スキル:回避Lv2、夢想無限流Lv1、背水の集中



かいつまんで説明すると


竜の禍縁という称号は、今のところ扱いに困っている。街から出ようとすると、心臓が灼熱に燃える感覚があり、この地で成すべきことを成せと言われているようだった。


身体強化は、進化の箱庭第十層イシュカマズを倒した時にLv2。アドベンティアでドラゴンを倒した時にLv3に上がっていた。


回避、背水の集中、夢想無限流のスキルは、すべてドラゴンと戦った時に発現に至っている。

特に夢想無限流の発現が嬉しかった。現在夢想無限流が発現している門下生は4人。日本に数千人という夢想無限流剣術において、本当に上澄みの剣士のみが至っている境地である。


師匠である柳生隼厳先生は、夢想無限流柳生隼厳というスキル名になっていて、もはや唯一無二の存在なのだ。剣の腕など、私では到底比較にならない。


ちなみに、竜の爪は日本に輸送してもらった。刀を作るなら、やはり知っている職人にお願いしたい。



「前から気になっていたのですが、[不屈の心]という称号……なにかきっかけがあるのですか?」


ジルが、思いもよらない角度から質問を投げてきた。

そうか、そこが気になるのか。


「うーん、ステータスを見れるようになった時から付いていた称号だ。だから詳しいことは分からないが、私の幼少期に原因があるのかもしれない。」



思い出すのは、白い壁に可愛いキャラクターのシールがいっぱい貼られた病院の一室だ。壁紙の継ぎ目に並んだシールは、そのどれもが少しだけ色褪せていて、長い間子供たちを見守っていることを教えてくれた。


私は、癌だった。


当時5歳だった私には、詳しいことは分からなかった。私を産んだ母も、若くして癌で亡くなってしまったことを考えると、遺伝性の癌だったのかもしれない。


「医師も看護師も本当に優しくてな。あたしがグズっている時は、いつも抱っこしてくれていたんだ。そうじゃない時は、忙しそうだったけどな。」


癌の治療は、その大半が点滴だった。抗がん剤が投与されると、その日から2-3日は吐気で一切食事が喉を通らなかったんだ。


それだけじゃなくて、口内炎がキツかったな~。ほら、疲れているとプチっとできるだろ?


あれが20も30もできてな。唾を飲み込むだけで口の中に電気の流れる熱湯を入れられた気分だったよ。


4人部屋だったんだが、仲良くなった子達はどんどんいなくなっていくのも寂しかった。両親は、“〇〇ちゃんは元気に退院して行ったよ!真理ちゃんもすぐよくなるよ!” と言っていたが、本当はほとんどの子供たちが亡くなっていると、幼心に気がついていた。


ま、そんな生活が私の当たり前だったんだ。物心ついた時から病院にいたからな、それがどれくらい辛いのかもよくわかっていなかった。


それに気を病んでしまったのは両親だった。母が病気と心労に倒れたんだ。母の記憶はほとんど残っていないんだけど、そのどれもが謝りながら泣いている顔なんだ。


そんな両親を見て、私が頑張らなきゃと決心した。

私の体重限度いっぱいの投薬をすることに決め、医師と両親に対して「治るまで絶対に生きる!」と宣言したんだ。


そこからは強烈な副作用と戦う毎日だった。


結果的には、ほら、こうして元気になってるだろ?


その時の体験が、なんか辛いことがあっても頑張ろうって思えるようになったきっかけなんじゃないかな。



「辛いことを聞いてしまいました。」

ジルがしんみりと言う。


「ズビ……っ うぅぅ……マスターッ 一番強ぇ酒持ってきてくれ!!」

話を何となく聞いていた冒険者たちも、鼻水と涙でテーブルを濡らしていた。

そういう話をするつもりじゃなかったんだが、隠しているわけでもないし、丁度良い機会だったのかもしれない。


「いやいや、あたしも湿っぽい話をしてすまない。まあ、そのおかげで今があるんだ。両親には感謝しているよ。」


「ええ、ええ。マリ殿を見ていれば分かります。」


「ところで、ジル。お前のステータスはどうなんだ?」


何度も一緒にダンジョンに挑んでいるが、未だにジルの底が見えない。

ドラゴンスレイヤーこそ付いていないが、ドラゴンに最も致命的なダメージを与えたのはジルだろう。


「吾輩の事でしたら、なんなりと。」

「ですが、奇術師の手の内は皆には見せられませんな。」


私だけにウィンドウが表示される。


【ジル・レトリック】

主な称号:[千名万貌の奇術師]、[無拍の投擲]

所属クラン:無し

主な保有武器:竜骨ステッキ、竜翼のスーツ

固有武器:時編みフロンド、怪盗の玩具箱、蒼翔のブーツ北風ボレアス

身体強化Lv2

保有スキル:スリングショットLv6、ミスディレクションLv6、ステイト(怪盗)オブ()ハンド(指先)Lv6、空手Lv2、杖術Lv2、エアリアル・カリグラフィLv1



「やはり……なんというか、すごいな」


ぱっと見るだけでは、その詳細や具体を知ることは出来ない。それでも、尋常ならざるステータスという事はわかった


「フフフ マリ殿でしたら、何でも解説いたしますぞ。」


ジルは、まるで子供が秘密の宝箱を見せるように、実に楽しそうに教えてくれる。


時編みフロンド

投石をするために使うスリングのことで、ジルの自作らしい。ダンジョンで入手した素材を組み合わせることで、魔法を発動することができる。


怪盗の玩具箱

アイテムを無尽蔵に収納出来る特殊な箱。ただし箱からアイテムを取り出すところを見られると、そのアイテムは消滅する。


ステイト・オブ・ハンド

手先がめっちゃ器用。


エアリアル・カリグラフィ

空中に文字を描くことが出来る技術。



「吾輩の時編みフロンドには幾つもの特別な宝石が使われています。このフロンドを回転させるとき、宝石の動く軌道を使って魔法陣を描き、特異な効果を発動することができるのです。」


それは、時をズラして攻撃する投石技法。


フロンド(スリング)とは、投石するための紐状の武器であり、ぐるぐると振り回すことで遠心力を使って石を投げるのだ。


その円状軌道を巧みに操ることで、空中に魔法陣を描く。その魔法陣の効果が、時止めである。


投げ終わったはずの石礫がその場に留まり、ジルの任意のタイミングで発射されるトリックショットとなるのだ。一体幾つのスキルと技術を重ね合わせたら実現できるのか、呆れるほどに工夫を凝らした攻撃手段だ。


「少なくとも、あたしには到底真似できそうにない技術だとわかったよ。」


「フフフ タネを明かしてこそ観客を楽しませるのが一流の奇術師と言えましょう。」


「なあ、ついでに何か手品みせてみなよ。あたし、一度目の前で手品見たかったんだよ。」


これは純粋な興味だ。

ジルが稀代の奇術師であることに、今更異論などない。ただ、あらゆる身体能力が上がった冒険者を相手にトリックが成立するのか気になった。


「ウィ。マリ殿のお願いとあらば、このジル・レトリックにお任せあれっ」


ジルが立ち上がって、仰々しくお辞儀をする。


「なんだなんだ!」「ジルが手品するってよ!」

「やれやれー!」


外野も集まってくる。

酒が入った陽気な男達が、私達のテーブルの周りをぐるりと取り囲むように群がった。


「レディース&ジェントルメン!吾輩の手品を見破った御方には、ささやかながら景品を差し上げますぞ!」


「うおー!」「ぴゅ~っ さすが最前線組だぜ!」

「何をくれるってんだよー!?」


盛り上がる観客。


「景品は、そちらの彼が持っていますよ。」


ジルが野次馬の1人を指さす。

なんと、その男の振り上げた手には、キラキラと輝くダイヤモンド・ダガーが握られていた。


「うおお!?」


持っていた本人が驚いている。

いつの間に持たされたのか、それはジルにしか分からない。


「あっ てめぇ俺のじゃねえか!?」


厨房にいた店主が、慌ててそのダイヤモンド・ダガーを野次馬の手からひったくった。


「おっと失敬。そちらは店主の大事なナイフでございました。この手がつい。」


そういうと、今度はジルが自分の手首をえいっと引っ張る。すると手首が外れてテーブルの上をトコトコ歩き始めたではないか!


「Oh My God!what's!?」


観客が頭を抱えて眺めるなか、一周歩いたジルの手首が、すっぽり元の位置に戻った。


「やや、吾輩の手はどうにも手癖が悪くて困りますな。お詫びに、ダンジョンで手に入れた魔法の指輪を景品にしましょう。」


そういって取り出したのは、淡く金色に輝く指輪。


「この指輪は、サファリ・リング。付けていると動物に好かれ、時々お話出来る指輪です。」


「なにそれ、かわちい...」「俺ァ犬が大好きなんだ!頼む、それを譲ってくれ!」「絶対に見破ってやるぜえええ!」


男たちのやる気がうなぎのぼりだ。

ゴリゴリの筋肉男が、乙女の目をして指輪を狙っている。

机の中央に指輪をおき、次々と見事な手品が披露された。その一挙手一投足を誰もが追いかける中、トリックを見破れた人はいない。


気がつけば酒場のほとんど全員が集まっており、大賑わいだった。


「続きまして、こちらのカードをご覧下さい。」


ジルが取り出したのは、一枚のトランプカード。

ペラッペラのそれを、手首のスナップを効かせて空中に投げた。


するとトランプカードがクルクルと回転したまま、観客たちの目の前をゆっくりと滑るように飛んでいく。ジルが手を開くと、カードがくるりと方向を変えてジルの手元に戻っていった。


「それ!!!俺知ってるぞ!!!」


元気よく、一人の観客が指を指す!


「中に磁石が入ってるんだ!見せてみなッ」


そう言ってジルの手からカードをひったくり、勝ち誇った顔で、力を入れてカードを擦り始めた。


「おおお……カードが二枚くっついていたぞ!?」


観客が言うように、カードがピッタリと二枚貼り合わせてあり、その間から何かが出てきた。


「へっへっへ……えぇぇえぇ!?」


なんと、そのカードの中から出てきたのは、たった今トリックを見破ったと豪語する男の写真だった!

勝ち誇った男は意味不明な現象と恥ずかしさでぐにゃぐにゃに歪み、なんとも変な顔を晒して席に尻もちをついた。


\\\ドッ/// ワッハッハッハ

スゲ━━━ヽ(゜Д゜)ノ━━━!!!!


観客は大盛り上がり。

ほんとに、どうやって仕込んでいるんだろうか。


「さて、そろそろ最後のトリック。おーっと目を離していた隙に、景品の指輪が無くなってしまいましたぞ!最初に見つけた方に、指輪を進呈いたしましょう!」


短いshowは、佳境を迎えた。


気がつくと、皆が囲んでいた机の上から指輪が忽然と姿を消している。

全員が机の下、床、果ては他人の服のポケットを調べはじめた。


……男たちがお互いの全身をまさぐりあっているのだが、これは見ていて良いものなのか?


ないぞないぞ!

どこに行きやがった!?


宝探しという実に冒険者風の手品に観客が興じている中、酒場の隅っこで壁を向いて酒を飲んでいた男が、ぽつりと呟いた。


その呟きは観客のどよめきにかき消されたように見えたが、


「むむ!そこの御仁、今なんと?」


聞き取れたのは、ジルただ一人。

ジルが反応したことで、観客の視線が一気に壁際の男に集まった。


「なんだ、ありゃ飲んだくれのアークじゃないか」

「いっつも飲んでるんだよな」


その男は、ある種有名な酒場の名物……

というかダンジョンにもろくに参加せず、毎日この酒場で酒を飲んでいるだけの男だ。本当に毎日いついっても同じ格好で酒を飲んでいることから、アドベンティア七不思議のひとつに数えられているとかいないとか。


そのアークが、めんどくさそうに、コップに注がれた酒を飲んでこう言った。


「そこの姐ーちゃんの手を見てみな。探し物ならそこにあるだろうぜぇ」


全員の視線が、今度は私に集まる。


「あたし!?」


驚いて手を見ると、私の右手の薬指に、黄金色の指輪がしっかりとハマっていた。サイズもピッタリ。


「これは驚きましたな。」


ジルが、本当に驚いた顔をしている。


「ええと……と、とりあえずこの指輪は景品なんだよな!?」


慌てて指輪を外そうとすると、アークがそれを遮って言う。


「~ったく、俺ぁ指輪なんざいらねぇよ。キザな野郎が姐ーちゃんにプレゼントしたんだろうさ。ヒック……景品ってならよぉ俺の話を聞いてくれねえかい」


酒飲みのアーク。

またの名を見つけ屋のアーク。


彼は自分で動くことはなく、ただ酒場にいる人の探し物を見つけることで金を貰っていた。


そんな彼の持ちかけた話とは?

椿ちゃんの母は、心労と癌で亡くなっています。その後を追うように父も逝ってしまいました。


退院した椿ちゃんは、縁のあった柳生先生の道場で育てられ、立派に逞しく剣の道に励むことになりました。


もしかすると、看護師の帆世ちゃんに憧れの気持ちがあるのも、その体験があるからかも?

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