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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
特別章 冒険しましょう。
132/163

アドベンティア編 戦士集う前夜の集会

登場人物が増えましたが、覚えなくても大丈夫です。

その怪物の前では

勇者でも足がすくむだろう


運良く生き残ったとしても

心も魂も失くしたように 二度と立ち上がることはできはしない


それを知って挑む お前は

神の冒涜者か はたまた竜殺しの英雄か





竜、(ロン)、ナーガ、リンドワーム、ズメイ、アジュダヤ、レビアタン、アペプ、ケツァルコアトル、ククルカン、サーペント……つまるところドラゴンである。


世界中の神話や伝承に、必ずと言ってよいほど語られる超生物の名称だ。

伝えるべきことは無数にあるというのに、なぜか人間は何千年も語り継いできたのだ。なぜか…ではない、そこには当然理由がある。


はっきり言おう、ドラゴンは存在する!


「悪」の象徴とされ、時には悪魔と同一視されることも多い生物だが、有名なところで言えば、キリスト教における七つの大罪のうち、最も苛烈な憤怒を象徴する生物がドラゴンである。人を殺し、村を焼き払い、果ては世界まで壊すと言われる悪名に恐れを抱かない人間はいない。


そんな超生物を相手に、竜殺しの名誉(ドラゴンスレイヤー)を求めて挑むバカがいる。

雨の降る夜の酒場に、百二十人の冒険者達が自慢の武器を携えて勢ぞろいした。かくいう私も、その一人だ。


「集まってもらって悪いが、諸君、今日は酒は無しだ。アドベンティアに住む全ての冒険者の中で、この120人が最強だと断言しよう。俺達でドラゴンを狩るッ」


座長を務めるのは、いつもの如く≪英雄≫キーンだ。

普段はジョークを飛ばすユーモアな雰囲気を纏った彼だが、今日は最初から真剣なようだ。その表情は緊張とともに熱を伝播させ、静かな闘志が酒場の空気に満ちていくのが分かった。


「まずは、今日までに集まったドラゴンの情報を周知するぞ。風の精霊に()()遭遇した冒険者によると、ドラゴンは邪神の眷属にして、火の精霊を喰らったという。」


この情報の提供者は、私の隣に立っている長身痩躯なフランス紳士だ。

ジルは風の精霊に関する情報を秘匿していたのだが、私がドラゴンに関する情報だけでも開示するようにお願いしたのだ。彼はその申し出を快く引き受けてくれ、ジファールから得た情報をキーン達に開示することになった。


「全長約30m、一対の翼で短時間なら空を飛べる。かつては全身から炎を噴き、通った地面が溶けて流れるほどだったという。ボーイング旅客機よりも小っせえじゃねえか、舐めんなって話だな!」


冒険者たちの間から、引きつった笑い声が聞こえる。それも無理はない。

旅客機を見たこと無い人間はいないだろうが、それを戦う相手として想定できる人間もいないだろうさ。


「それなら吾輩も、しがみついた経験がありますな。」


隣の男がぽつりと呟くのが聞こえる。

いちいち私の常識を壊しにくるが、気にしないことにする。

私は、お前のことを普通の人間と一括りにして考えるのは諦めているのだ。


キーンの話は続く。

この辺は既にジファールから聞かされているので、話の大部分は聞き流してしまう。

私の興味は、どちらかというと酒場に集う百二十人の顔ぶれである。全員が最前線、もしくはその一歩手前まで至っている一流の冒険者たちだ。



「だが、ドラゴンは年老い、全身から噴く炎は消えた。喜べお前ら!皺枯れたドラゴンを墓にぶちこめるぞ!お前らは世界一の馬鹿野郎だが、一騎当千の凄腕でもある。さあ、長く話しちまったが、作戦を伝えるぞ。名前を呼ぶからPTを組んでくれ。」


ようやく作戦の話になったようだ。


「第一部隊から順に呼んでいくぞ。それぞれに役割を振っているから、確認してくれ。」


役割について、先にまとめておこうか。

今から編成されるのは、総勢十六名からなる主攻部隊だ。ドラゴンと直接対峙する最も危険な役回りであり、全員が普段から前衛職についている猛者である。


隊長:基本三人組のリーダー。全体の連携、撤退判断などを下す役目だ。

(杭):ドラゴンの動きを止めるための杭を打つ役目。元々槍使いが担う。

(盾):杭や剣役を守るための盾。

(剣):ドラゴンの急所を攻撃する役。武器は剣以外でも良い。

(槌):杭を深く打ち込む役。



“第一部隊” 頭部担当

隊長:エリス・グリーン(剣)、アルヴァル・エーリクソン(盾)、レオニード・ヴァレンコ(盾)

隊長はイギリス人女性のエリス・グリーン、26歳。明晰な頭脳と、素早い剣捌きが特徴的だ。

アルヴァルとレオニードは、二人とも北欧出身の巨漢。テーブル大ほどの巨大な盾を持ち、二人合わせて≪鉄壁兄弟≫の異名を持っている。実際に兄弟なのかは、誰も知らない。


「最も攻撃が激しいと予想される頭部に、鉄壁兄弟か。攻撃を凌ぎつつ、エリスが顔面の急所を狙う構成のようだな。」


そう、ジルに話しかけてみる。

私よりも、なにかと情報を持っているため、こういう時に重宝するのだ。


「なるほど。エリス嬢は英国人独特の味覚センスを持っている上、残り二人は酒で舌を焼くのが趣味。第一部隊には料理は任せられませんなぁ。」


「……なぁ、ジル。あたしはそんなこと聞いていないし、お前のせいで睨まれてしまったじゃないか!」


ジルは過度なフランス愛国主義の持ち主で、イギリス、ドイツ、ロシアなどの国を露骨に嫌っているふしがある。

戦争に負けてばかりのフランス史に憤慨してもしょうがないだろうに。世界史が大好きと言っている帆世さんと会ったら、どんな会話になるんだろうか。バカな私では、その手の会話は理解できないだろうが…はぁ。


「第二部隊は前脚担当だ。」


“第二部隊” 前脚担当

隊長:ルーカ・ディ・チェッリ(盾)、カリム・アルマスード(杭)、カヴィー・アフシャール(槌)

ルーカという名前を聞いて、心臓が少し跳ねる。脳裏に浮かんだ二十歳の青年と比べると、第二部隊の隊長は壮年である。傭兵出身の経歴を持ち、ダンジョン攻略では目立たないながらいぶし銀の活躍といった評価だ。カリムは中東出身で、カヴィーはペルシャ人。あまりしゃべったことは無いが、クエストの成功率でいえばトップクラスの冒険者だ。


「時に、マリ殿は想い人はいらっしゃるのですか?ご結婚はされていないと訊いておりますが。」


先ほどよりも小さな声で、ジル。

数瞬前に浮かんだ顔を、頭を振って追い出す。この男、妖怪の類か?


「急に何の話だっ そんなものは居ない!」


「そうですか。命賭けとなる戦いを前に、どうやら吾輩の心は冷静では無かったのかもしれません。」


口ではそういうが、その灰色の瞳は一切の揺れを見せることは無く、真っすぐ私の目を見ている。

この瞳を前に、多少の嘘など通じないだろう。そこまで気張って嘘をつくのも、性格に合わない。


「はぁ…あたしだって女を捨てた覚えはないよっ。ただ、今は剣の研鑽に励みたいんだ。私の理想とする人は、本当に足が速いからな。…あ、それも想い人ともいえるな。」


「フフフ…突然失礼しました。吾輩が風となり、その背を全力で押すことを約束いたしましょう。」


やめろ、お前が風になると木の上まで飛ばされてしまいそうだ。

話している間にも、次々に名前は呼ばれていく。


“第三部隊” 後脚担当

隊長:テン・シェン・ユイ(剣)、ユン・ボミ(剣)、チャイ・メンナン(杭)

アジア系の三人組で、テン隊長とユン氏は双剣の使い手だ。極めて攻撃力の高い構成で、狙うのはドラゴンの脚の腱だろう。


“第四部隊” 尻尾担当

隊長:マーカス・リード(盾)、ザック・バーナム(剣)、イーサン・グライムス(剣)

第四部隊は、武器構成が非常に特異的だ。隊長のマーカスが持つのは通常の盾ではなく、腹部に備え付けられた分厚い鉄板のような鎧と、両腕に括り付けられた二枚のバックラーである。その役目は、尻尾の先端の攻撃をあえて受け止め、自身が重りとなって尻尾を拘束するというもの。

そして剣役の二人は、巨大な斧と、チェーンソーという組み合わせだ。つまり、他のPTがドラゴンの足止めを目標とする中で、彼らだけは部位切断を目的としているのだ。

尻尾は不測の攻撃を招くし、特に今回のドラゴン相手では早々に切断する必要があるのだ。



「そして、第五部隊ッ こいつは特殊だが、二人で担当してもらう!」



“第五部隊” 両翼担当

隊長:ジル・レトリック(杭+剣)、椿真理(剣)

私達のことだ。ドラゴンが飛んでしまっては、そもそもまともな戦闘にすらならない。

私とジルの機動力を活かして、なるべく早く両翼を機能させないようにすることが目的である。


「翼担当か。明日はよろしく頼む。」


ジルの冒険者としての資質は異常と言っても良い。正確無比な投石をはじめ、いったい幾つあるのか分からないほど多彩な手札を持っているのだ。ちなみに、杖術と空手も相当な腕前で、最前線を攻略している剣士と勝負しても引けをとらない。


不安なのはむしろ私の方だった。

ジルとジファールのおかげで、空中でもある程度動けるようにはなったが、どこまで戦えるか想像がつかない。コンビで動く以上、私の行動がジルにも危険をもたらしてしまう可能性だってあるのだ。


気を引き締めてジルに言うと、にこりと微笑が返ってきた。


「ウィ。なんと、このジル・レトリック、たった一つだけ自慢できることがあるのです。」


「……これ、聞かないとダメかなあ? 聞かなくても喋るんだろうけど…」


「吾輩生まれた時から今まで、美しい女性からの頼まれごとであれば、必ず成功する魔法にかけられているのです。」


映画の俳優だって、こんなセリフをいう人はいないだろう。

それを自信たっぷりに、ただの事実を語っているといった表情で口にできる男なのだ。


「そ、そうか。あたしがもう少し容姿が整っていれば良かったんだが、明日は気合で頑張ってくれ。」


「ウィ。マリ殿のおかげで、毎日ベスト記録を塗り替えております。」


おかしいな。

出会った当初は、もう少し会話がまともだった気がするんだけどな、、、。


キーンが細かく私達の役回りを説明してくれているというのに、ジルのせいで集中できたもんじゃない。簡単に言えば、両翼を狙った遊撃部隊ということになる。地に近い他の部隊と違って、ある程度独自の動きを強いられる点に注意しておかなければならない。


最後に、第六部隊。


“第六部隊” 指揮担当+攻撃担当

隊長:≪英雄≫キーン(剣)、≪キング≫グリッド(剣)

この二人は、誰もが認めるトップ冒険者である。彼らが全体の士気を取りながら、ドラゴン自体にダメージを与えていくことになる。



そして、残る百四人が後方支援だ。

その内訳としては、

四人:即時交代役

第一から第四部隊の周辺に待機し、ドラゴンの攻撃が届かない距離を保つ。主攻の誰かが怪我をした場合に、速やかに交代して穴を埋める役目だ。


十人:物資運搬役

総勢百二十人のレイド戦において、物資の運搬は極めて重要である。杭役には新しい杭を補給し、壊れた武器や盾があれば即座に届ける。歩けないほどけがをした人が居れば、ドラゴンの攻撃を掻い潜って仲間を安全エリアへ運ぶことも役目だ。


十人:医療班

最前線付近まで攻略できる医療役は、本当に数が限られている。大怪我が想定される環境で、自分の身を守りながら、冒険者の命を守る重要な役目だ。

できれば、人類にとっても貴重な戦力である彼らの、運動機能を損なわないように回復させたい。しかし、時には何かを犠牲にしてでも命を救う決断が必要な場面だってあるのだ。そうした判断と技術を兼ね備えた人材が、この十人である。


三十人:ワイヤー役

筋力自慢、怪力揃いで構成された三十人。戦闘技量では主攻に劣る部分はあるかもしれないが、力の一点を見れば最前線級をはる男達だ。

主攻が食い止めたドラゴンに、杭を使いながらワイヤーで縛って拘束する。旅客機サイズのドラゴンと綱引きできると豪語するパワー部隊だ。


五十人:遠距離攻撃役

これは、一番人数を確保しやすかった部隊と言える。

弓や銃を好む冒険者は非常に多く、距離を開けての攻撃手段は多彩だ。グリッドの準備したライフルや、ロケットランチャー、機関銃などがある。

ただし、問題は多い。とにかく扱いの難しい部隊と言える。どういうことかというと、こんな感じだ。


・機関銃などの大きな武器は、ダンジョンに運搬することが難しい。

・最初に遠距離攻撃をすれば、気が付いたドラゴンが医療班などの後方支援部隊に襲い掛かる可能性もある。

・主攻がドラゴンと戦っている間、遠距離から攻撃をしようとすれば仲間に当たってしまう。


結果、ドラゴンを逃がさないように、大きく外側を取り囲むのが役目となった。

追い込み役ともいえる。



「この作戦は、ドラゴンを地面に押さえつけるための作戦だ! 第五部隊が両翼を破壊するか、ワイヤー部隊が完全にドラゴンを縛り上げた時には全員が武器を持って襲い掛かる。そのつもりで、各自自慢の武器を磨いておいてくれ!」


各自が役目通り動くのは、前半戦のみ。

機を見て、全員で襲い掛かるという実に冒険者じみた作戦である。



――【クエスト:禍炎の残響に終焉を】 開始します――





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