表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第一章 顔合わせから始めましょう。
13/163

巫女の希望

1話に画像載せました。


「私は、早く戻らなければ。」


 

緋色の巫女服を着た女が小さく呟く。光にかざせば茶色く透ける美しい髪が、今は埃でくすんでいる。


はぁ……


たった一日で、何度目のため息だろう。

胸の奥に巣くう焦燥感が、まるで熱を持った鉄球のように重くのしかかる。

喉を詰まらせるような焦りが、思考を絡めとり、まともな判断を奪っていく。


——けれど、ただ戻るだけでは駄目。


「エゼキエルは論外、例の鬼に言葉が通じる気がしない。残るはリアーナと……」


ぐるぐると同じ考えが回り続け、出口のない迷路にはまり込む。

何かないのか。

【邂逅】なんてイレギュラー、私の知識にはない!


そんな時——


森の奥で、炎が爆ぜる。


遠く、木々の間に揺らめく赤光。

森を焼き尽くすほどの規模ではないが、見間違えるはずもない。

あれは、森に棲まうリアーナが顕現させる太古の焔だ。


リアーナと誰かが戦っている。


「……っ!」


衝動的に駆け出した。リアーナは会話が通じる数少ない人間だ。彼女の世界では、知識欲が何よりも優先される。目的さえ合致すれば、協力出来る可能性はある。


リアーナは確かにそこにいた。痩せた体に、曲がった高い鼻。知っている姿だ。

だが、彼女と相対する 二つの影は……誰ッ!?


少女と、巨漢の侍を凝視する。


リアーナの繰り出す焔を掻い潜って、超速の動きで翻弄する少女。

氷の鎧を一刀で斬り捨てた侍。


気づけば、私は彼らから 目を離せなくなっていた。話しかけることもできず、自身に不可視の結界をはって後をついていく。


焚火を囲み、食事をする二人の姿。久しく見ることができなかった、人間の楽しそうな姿に胸が熱くなる。

そうかと思うと、ふと立ち上がり、組み手を始める二人。


肉眼で捉えるのも難しい超速の攻防。

疾駆する少女のステップ、迎え撃つ巨漢の剛腕。

打ち込まれる拳と蹴り、空気を裂く鋭い刃の煌めき——。


驚異的な身体能力と技術もそうだが、それ以上に、精神が異常なまでに安定していた。


これほどの力を持ちながら、彼らは狂っていない。


多くの者は、突然手にした超常の力に酔い、暴走する。枢機卿エゼキエルが悪い例だ。

他者を傷つける戦闘を嫌う者は、容赦なく振るわれる暴力を前に誰も守ることができない。私のことだね、と一人唇を噛む。


そうして人類は滅びを繰り返してきたのだ。滅んでは繰り返される救いのない話。


しかし、この二人は違う。少なくとも、今の二人は安定している。


リアーナを容赦なく討ち倒しながらも、その目には狂気も、興奮も残していない。

ただ逃げるのではなく、現実を等身大に受け止め、最大限の努力を果たすことも両立している。


「…………。」


——彼らなら。


この二人になら、賭ける価値があるかもしれない。

それは 確かな希望だった。


どんなに小さくとも、希望さえあれば人は立ち、歩くことができる。


だが——


他人の希望を背負わせるのは、残酷な行為だ。私が一番よく知っているじゃないか。


それを、会ったこともない二人に投げつけようとしている。

身勝手だとわかっていながらも、それしか方法がない。


ごめんなさい。


——もう、あなた達しかいないの。


意を決し、私は結界を解いた。

静かに、湖畔へ歩み出る。


そして——


「……そこの方、私の話を聞いてもらえないでしょうか。」


月明かりが差す湖岸で、男の後ろ姿に問いかける。



--------------------------------------------------------------------------------------------


月明かりの下、湖岸を歩く。

冷たい夜風が頬を撫で、波が静かに砂を舐める音が耳に心地いい。


夜の湖畔は昼間よりもずっと静かで、草むらで跳ねる小動物の音すら鮮明に聞こえる。というか、兎らしき生き物が、一足で5m近く跳躍して逃げていく。


(´・ω・`)やっぱ地球じゃないんスかねえ…。魚より肉が食べたい気分だけど、捕まえるには苦労しそうッス。


ずぶ濡れになったぽよちゃんに、拠点を追い出されてしまった。


『いい、索敵とマッピングをしてきてほしいの。歩くだけで自動的にマップ更新されるから。それから、ぜっっったいに一人で戦闘しないこと!』


追い出された際の、ぽよちゃんのオーダーを思い出す。

戦いに関しては自信があるこもじだったが、とりあえず敵を見つけたら戦うなということだった。

ぽよちゃん相手に上手く反論できたことがないし、言う通りにしよう。


相変わらず姉御肌なんだから…と20歳ほど年下のぽよちゃんに対して頭をかくこもじ。


(´・ω・`)とはいえ、このあたりに人の気配なんて無いんスよね。


そう言って、ぶらりと湖岸を散歩を継続する。

月明かりが水面に反射し、時折大きな魚影を浮かばせる。ちょっと水棲生物は怖い。


 その時——


「……そこの方、私の話を聞いてもらえないでしょうか。」


背後から、柔らかくも張り詰めた声がした。


ゾクリと、背筋に戦慄が走る。こもじは即座に振り向いた。先ほど通った時には誰もいなかったはずの場所に、人がいる。


緋色の巫女服を纏い、服から見える肌がやけに白く薄く感じる女。

年齢は……30代ほどか。だが、表情には疲れと焦燥がにじんでいる。

まるで、何かに追われ、切羽詰まった人間のそれだ。


目を離せば崩れてしまいそうな、儚い見た目。しかし、生物として遥かに格が上であることも感じ取っていた。あらゆる挙動を見逃さないよう、こもじは目を細める。


「話を、聞いていただきたいのです。」


女が繰り返す。その真意は——。


(´・ω・`)うす。行きましょうか



こもじははっきりとそう答える。何かを守るために、覚悟を決めている女の目を見て、そう決めた。


(ぽよ姐さん怒るかなあ…)


こもじは、儚い美女を連れて拠点に戻る。血の気を感じさせない、透き通るような横顔は、どこか人ならざる気配を醸すようだった。

彼女に会うための邂逅。しかし、彼女が出会ったのはおかしな二人組だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
文書だけて伝わる臨場感。またキャラクターも、想像しやすく大好きな小説です
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ