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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第三章 少しは進化の箱庭を進めましょう。
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復讐の総決算 其の3

『んもぉ~っ 最初から言ってよーん!』


エギルの説得は功を奏し、墨汁に染まったウンディーネの体から、悪しき闇が溶けて流れ出る。


そして姿を現したのは、うら若い普通の人間の女性にも見える、恋するウンディーネの真姿だった。ただ、その青く透き通った髪の毛は、人間には有り得ない色であり、水の精霊の名残を感じさせた。


( ๑❛ᴗ❛๑ )キャラ変すごいぽよなぁ……


先程まで、私の目の前で、漆黒の瞳を見開いて世界を呪っていたとは思えない変わり様である。良い意味でも悪い意味でも、直情的で情熱的な生き物なのかもしれない。


「精霊にまで会えるんですから、キリスト教はこの先厳しいですね...はぁ」


「まあまあ、ルカさん。人は皆、信じたいものを信じられたら良いと思いますよ。私は、誰に否定されようとも信仰を喪うことはありません。」


(´・ω・`)え~、ミーシャ達はアレ(( ๑❛ᴗ❛๑ ))信仰するのは辞めた方がいいと思うっすよ~。アレ(( ๑❛ᴗ❛๑ ))は神というより妖怪、怪異の類に見えるっすね


この戦いで一番の激戦は、実は対ウンディーネではなく、水鏡から出てきたこもじの鏡像との戦闘であった。こちらは城が崩れたり、仲間を巻き込まないように全力を出すことはできない。しかし、敵こもじはお構い無しに力を振るうのである。


そんな戦闘をしていた二人は、流石に無傷とは言えず、服もボロボロになっている。激戦で仲も深まったのか、普段よりも距離が近い二人。


結構なことだが、けしからん!

その間に体を滑り込ませる。


( ๑❛ᴗ❛๑ )こもじッそんなえっちな格好で何してるぽよか!


(´・ω・`)やめてっ 破れちゃう あ~れ~


はだけたこもじで遊んでると、エギルが全員に茶色い丸薬を一つづつ配った。


「食っとけ。トロールの肝と薬草を干して練った丸薬だ。傷の治りが早まる。」


受け取った丸薬を口の中で転がす。第六層の特産物である回復の丸薬だ。食べるのは、これが初めてである。ちょっと気になっていたのだ。

飴のように舐めてみるが、表面はザラついていて、少し苦い。肝も薬草もすり潰しているからか、表面が溶けるとねっとりとした食感にかわる。


奥歯で噛み締めると、味は一変。カァーっと口腔内に熱が広がり、びっくりして嚥下しちゃった。

すると全身が火照って汗が滲み、身体中にできた噛み傷の奥から肉が沸騰するように盛り上がって完治していく。


空っぽだった胃に、強烈な刺激が走り、反射的に唾液がじゅわっと染み出る。


「中々凄いわね。回復速度はルカのヒールと同じくらいあるけど...おいちくない。」


(´・ω・`)濃いエナドリを一気飲みした時みたいな感じっすねえ。


「ガッハッハ そんなにかぁ?俺ぁ嫌いな味じゃないんだがな」


緊急時に、この回復の丸薬を食べるのは大いにアリだ。しかし、余裕があるときなら、ルカの優しいヒールの光で癒されたいと思った。


それに、お腹空いたし、食べるなら美味しいものが良い。


チラリと見ると、ウンディーネがすごく嫌そうな顔でそれを見ている。


『ちょっとぉ~ そんなの食べない方がいいよぉ~』


ばっちい!とばかりに、舌を出して顔を顰めている。トロールの気配を感じ取っているのだろう。


「ウンディーネちゃん?そういえば、貴女は何を守っていたの?」


『そうだったわ。私の愛しのアランを紹介しなくっちゃ~!』


ウンディーネが、えいっと指で空間に弧を描く。

すると、先程まで暗く澱んでいた水が、今や春の小川のように澄んだ煌めきを放ち、幻想的な光景に変わっていた。


『水よ見届けて。私の願いとあの人の誓い。泡沫の縁を再びここに、結びて開け“運命の水門”』


ウンディーネの祈りに水が応え、白い泡がぽこぽこと湧き出たかと思うと、水を通じて階層の壁を越えた門が開かれた。


ガシャリ……


その門から這い出てきたのは、濃密な呪いの気配と、殺意を撒き散らした異形の甲冑である。足の先から頭まで、漆黒のオーラに包まれたその出で立ち、正しく師匠達が第二十層で死闘を繰り広げた不死の騎士であった。


私たちに緊張が走る。

刀を抜かないのは、ウンディーネが優しくも哀しい目をして、不死の騎士と抱き合っているからだ。


『ごめんねぇ……痛かったねぇ……』


ウンディーネの涙が零れる。

人の体を持っているウンディーネの涙は、結晶になることは無いが、呪いの甲冑に染み込んでいく。その涙浄化の水、正気に戻ったウンディーネの愛する想いが込められていた。


全身を漆黒のオーラで包んでいた騎士が、その頭の部分だけ闇が薄れ、やつれた青年の素顔が見えるようになってきた。


『ネリア...君なのかい?』


『アラン...私よ。』


抱き合う二人に、これ以上危険は感じなかった。ただ、呪いが晴れたのは顔の部分のみである。首より下は未だ不気味なオーラに包まれて青年の姿を覆い隠している。


「そいつぁ、元凶を殺さねえと取れんだろうぜ。否...もしかすると取れる日も来ねえかもしれねえ」


エギルが苦い顔で言う。

その声に、青年が私達の方へ顔を向けた。やつれているが、優しい顔をした青年である。


『貴方がたは?』


「黒いクソ猿を、ぶっ殺しに来たんだ。お前さんも一緒に行こうぜ。」


エギルが壁の瓦礫から、愛用のラウガルフェルト斧を拾って掲げた。


『アァ、あいつは、殺さなきゃ。』


青年、アランに眼光宿る。

アランの胸の中で、ウンディーネも同様に覚悟を決めていた。


復讐の総決算。

一切合切をまとめて、元凶をぶっ殺せば良いだけだ。


そのためには、まず二人を仲間に迎えないといけない。


「二人とも。仲間となるには、あることをして貰わないといけないの。」


ごくり。

誰かが唾を飲み込んだ。


『あること……ですか?』


アランがウンディーネを強く抱き締め、瞳にほんのりと警戒の色を滲ませて私を見る。いざとなれば、二人で戦いに身を投じる覚悟を固めているのかもしれない。


あなた達二人では、その黒いトロールに勝てなかったのでしょう?

闇に身を堕としたウンディーネは確かに強かった。しかし、冥府の泥を操るような戦闘を、今の清らかな姿をした彼女にできるとは思えない。


「そうよ。復讐を果たすためには、避けては通れない。貴方も信用できない人に、背中を預けたくはないでしょう。」


『キッ……』

『ちょ、ちょっとぉ~わたし達は裏切ったりしないわよぉ。さっきは急に襲ってごめんなさいなのよぉ~』


ゴロゴロと雷が遠く鳴っているような音がする。

それは決して遠くでは無いのだ。この空間に、確かに鳴り響いている。


「その条件とは!! 」


私の言葉が、狭い石畳の空間に響いた。

これは大切な問題なのだ。この条件が受け入れられなかったら、と思うと少し緊張してしまう。


私のクランメンバーにとっては、全く問題はない条件である。しかし、受け入れられない人が多いというのも、また事実なのだから。


私は意を決して、カバンに入れていたソレを取り出した。ずっしりと重たいソレを二人に突きつけ、決断を迫るッ



( ๑❛ᴗ❛๑ )まずは一緒にご飯たべましょう。キノコが生えたカエルなんだけど……


お腹がすいて、限界なのだから。


(´・ω・`)やっぱり~。


「同じ釜の飯を食う。やっぱり団長は分かってるぜぇ!」


エギルがにかっと笑った。

ヴァイキング団時代も、こうして仲間を同じご飯を囲むことで、家族同然の絆を作ってきたのだと思う。


「その団長ってなによ~。」


「人も多くなって来たからな。そう呼ばせてくれや。」


今一度、ウンディーネとアランに目を向ける。

二人とも笑って頷いてくれた。よかったー、カエルきもい!とか言われたら凹むとこだった。



じゃあ、早速ご飯にしましょう!


「エギルとこもじは、森に行って木を取ってきて。私達は城内を片付けるわ。」


綺麗な水の流れに錯覚しそうになるが、ここは小川ではなく古城の中である。

激戦のせいで壁は崩れ、床はボロボロに踏み壊されているのだ。城の中でまともに寛げそうな場所を探して、食事の準備をしなければいけない。


(´・ω・`)いってきまーす


こもじとエギルを見送り、アランとルカは崩れた石の撤去を始める。

私は捕まえたアマタケカエルの頭を落とし、皮を剥いで、内臓を出す。ウンディーネが隣で水を出してくれるので、カエルの解体はスムーズに進んだ。


「私はお茶を沸かすのに、葉っぱを探してきます。」


ミーシャが古城の庭に出て、使えそうな植物を探しに行った。お茶にできる植物というのは、思いの外たくさんある。


松の若葉や、イラクサの葉っぱ、よもぎや柿の新芽も美味しい。お湯にビタミンが溶けだし、自然の良い香りと共に美味しくいただける。


「帆世さーん!来てくださーい!」


待っていると、城外からミーシャの声が聞こえた。

私はミーシャの呼び声であれば、どれだけ遠くだろうと気がつける自信がある。


( ๑❛ᴗ❛๑ )シュバッ


古城の壁を瞬歩で通り抜け、最速最短のルートでミーシャを見つける。


「ミーシャたん、寂しくなった?うんうん、ぽよちゃんもだよ。」


すりすり。


「あはは ありがとうございます。綺麗な虹が出てるので、しずか様に見せたくって。」


そう言われて、ようやく気がついた。

何年ぶりか分からないほど続いたウンディーネの雨が上がり、天に昇った太陽が辺りを燦々と照らしている。

陽光が大気に舞う水滴に反射して、美しい虹の橋をかけていた。


(´・ω・`)わぁ きれい。


いつの間にか、こもじとエギルも帰ってきていた。

城内で作業をしている三人も呼び、全員でこの美しい光景を堪能する。


陰鬱とした森が鮮やかな緑に輝き、青く広い大空との間に挟まれた虹の橋。


( ๑❛ᴗ❛๑ )ぐぅ~コロコロ


(´・ω・`)……さ、ご飯にしますか


花より団子の方が美味しいんだからしょうがない。


こもじ達が取ってきた木に火をつけようとするが、なかなか上手くいかない。長年雨が止まない土地では、全ての植物が水を含んで湿っているのだ。


諦めてレーションを取り出そうとするこもじの手を制止する。諦めてはいかん。ぽよちゃんに任せなさい。


( ๑❛ᴗ❛๑ )魔法錬成 エンシェント・ラーヴァ


少し深く掘った穴の中に、極小の溶岩を顕現させ、その上に木を積み上げる。威力を下げる代わりに持続時間を伸ばした溶岩が、調理に必要な熱を放出しながら薪の水分を蒸発させていく。


火力が安定するまでの間に、お湯を沸かしてお茶して待つことにした。


ズズズ……


「美味しい……こんなお茶初めてのみました。」


恐らく、この中で最も舌の肥えたルカが絶賛する。

同様に、お茶を飲んだ全員が目を丸くした。入れた葉っぱの豊かな香りが鼻を通り抜け、口に含んだお茶がまろやかに舌に馴染む。


全く抵抗なくするりと飲み込んだ後に残るのは、スッキリとした爽快感だった。あらゆる飲み物の中で、私の中のランキングが塗り変わるのを感じた。


感動と驚きに固まっていると、えっへんと胸を張るウンディーネが目に入った。


「これ、ウンディーネちゃんの力?」


『うふふっ 水の精霊が、不味いお水を出すわけないじゃないのよぉ~ 』


試しに一口水を貰う。

冷たく透き通った水が、滑らかに舌を通り、ほんのりと甘い風味すらあった。


( ๑❛ᴗ❛๑ )おいちぃ……!


こんなに美味しい水なら、スープにしたら最高に美味しいんじゃないの!?


まさに天啓的閃き。


水分が飛んで、薪がぱちぱちと炎を上げていた。

その周辺に石を積んで竈をつくり、ウンディーネちゃんのお水をたっぷり入れた鍋をかけ、そこにキノコと野草とアマタケカエルの前足を投入する。


前足は、後脚と比べて肉付きが悪いのだが、出汁は十分に出るため有効活用だ。


そして、もう一つの鍋に透明な油を注ぐ。カグツルソウシシバナから採れた油は、サラサラとしていて美しい。

小さく削ったアマタケカエルの身が、じゅわじゅわと気泡を発しはじめたところで、水気を切ったキノコとカエルの後脚を油にいれた。


しゅわわわわ


軽ろやかな音と共に、食欲を掻き立てる香りが辺りに漂い始める。ウンディーネちゃんは、既にヨダレを垂らして料理に釘付けだ。


幸い、アマタケカエルは一匹で一抱えほどもある大きさ。その背中に生えているキノコも十分にある。


次々に素揚げが完成し、森で取ってきた大きな葉っぱの上に盛り付けられていく。


「『「いただきます」』」


いざ実食。

揚げ物は熱いうちに食べないとね。


まずはカエルの後脚を一口。ぷりぷりの食感で癖はなく、新鮮な鶏肉の刺身を食べているような味だ。軟骨もコリコリと楽しい食感である。後味に、今まで肉を食べて感じたことの無い旨味があることに気がついた。


なんだろう。

首を傾げながら、続いて小さめのキノコ、アマタケを口に運ぶ。


うまい!

先程食べた肉に感じていた旨味は、まさにこのキノコに詰まっている旨味だったのだ。

例えるなら、シイタケからあの独特な風味を消し去り、旨みだけを抽出して何倍にも凝縮させたような味わいである。さらにキノコであるにもかかわらず、じゅわっと染み出るのは肉汁の如く、脂の甘みが舌を唸らせる。だから、アマタケという名前だったのか。


『おいっしぃ~!』


『うまいッ うぅ……』


アランに至っては涙を流しながら、ガツガツと料理を食べている。

負けてはいられない。私たちも競うように料理を口に運び、スープを飲んで胃に流し込む。


スープもまた、絶品としか言いようがない。

水自体が美味しい上、アマタケとアマタケカエルの出汁が絶妙なマリアージュを完成させている。臭みや苦味など全くなく、透き通ったスープは上品なお吸い物に近しい味わいだ。


食後は、ウンディーネが作った水のベッドで横になる。何故か体が沈まない水のベッドは、動けばぽよんぽよんと楽しい触感で、眠れば体にフィットして包み込んでくれる。


太陽が沈み、私達はそれぞれ部屋を分けて休息をとった。隣の部屋から、ウンディーネとアランの声がかすかに聞こえてくる。


私の部屋はミーシャと一緒だ。

今日は思ったよりも激しい戦いになったことを思い返す。普段、特別なイベントを除いて、私は十分に安全だと思うまで準備することにしていた。



進化の箱庭も、毎月現れる使徒やダンジョンもそうだ。大切な仲間を欠けさせないように、勝てるマージンを十分に取って挑んでいるのである。


クランメンバーに瞬歩や、適界の祝福を与えたのも、その気持ちが無意識のうちに働いていたのかもしれない。


「はぁ……」


その安全マージンが、脅かされたのが今日の戦いだ。特殊な条件下だったとはいえ、思い返せば溜め息が漏れる。


なんとなく寝付けないでいると、後ろからそっと抱き締められた。この温かさが、私の心から冷たいなにかを取り除いてくれる。


「ミーシャ今日はありがとね」


「……しずか様は頑張りすぎですよ。」


静かな、しかし心地よい時間が流れる。


「そういえば、ミーシャの【顕現】ってすごいわね。」


今日、鏡像のこもじを食い止めることができたのは、ミーシャがベルフェルアの力を顕現させて戦ったおかげだ。最高位悪魔を顕現させるには、それこそキリスト教徒が数百人命を捧げる大規模な儀式を必要としていたはずだ。


「もっと強くなれるよう、頑張ります。」


「あはは 私も頑張らないとね 。ベルフェリアを使うのに条件はあるの?」


「はい。こちらを向いていただけますか?」


なぁに?

と振り返ると、至近距離にミーシャの顔があった。

かわちい。心臓がきゅんと黄色い悲鳴をあげる。


その顔がゆっくりと近付き、唇を重ねる。軽い口付けから、徐々に舌が絡み、全身が痺れるまで続いた。


薄い月光の下、ミーシャの美しい髪がさらりと揺れる。


「こうしていると、想いが募ってゆくのです。」


なんの話しだっけぇ……既に私の脳みそは理性的な思考を放棄し、感情の虜となっている。

ミーシャの上にのり、舌で、手で、肌でその存在を確かめるように重なりあう。



ミーシャは、いつもびっくりするほど従順だ。

こちらが攻撃の手を止めなければ、ミーシャはそれを全て受け止めてくれる。


であれば、意志さえはっきりと持てば、負けるはずがないッ



「ミーシャ……今日こそは私が…っ」


「ええ、来てください♡」



( ๑❛ᴗ❛๑ )まだ、ぽよのバトルフェーズは終了していないぜッ☆


( ๑❛ᴗ❛๑ )ずっとぽよのターンッ☆





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