食後の運動
「水の精霊ウンディーネは、人間と結ばれることで人間の体を得ることができると言われている。」
エギルでも、その唄の解釈は難しいようだ。
眉間に皺をよせ、険しい顔をしている。
「村を襲っているやつがいて、それと戦うためにウンディーネに頼ったってことじゃないの?」
「そういう事だろうなァ…」
だとすると、この唄は不十分だ。
結局その敵がどうなったのか、村人は救われたのか、物語には続きがあるはずだ。あの吟遊詩人の唄声に含まれていた感情…それは突き詰めると悔恨だったように感じた。
人の気配のしない草原、跋扈しているモンスターの数々。
この物語にハッピーエンドは準備されていないのかもしれない。
「帆世さん、どうやらここが壁みたいです。」
ミーシャが刀の鞘で、何もない空間をコツコツと叩く。
草原の獣道も無くなり、岩場の隙間に小さな泉が見えたところで、第十六層の果てに辿り着いたみたいだ。大きな戦闘も無かったので、そのまま第十七層に進むことにする。
師匠の情報によると、ここも大した敵はいない。
――進化の箱庭第十七層 水祠の迂路――
小さな泉のそばに着地する。泉から溢れた水が、苔むした岩の隙間から流れている。
地下からわき出した水は冷たく透き通っており、魚の影も見え隠れしている。手ですくって一口飲む。
「美味しい水ね。」
(´・ω・`)じゃあ、今日はここで野宿っすかね~
「たしかに、ちょうどいいですね!」
まだ初日のお昼ではあるが、休める時に休むのもとても大切なことだ。まだ行ける、はもう行けないがダンジョン攻略の鉄則。
夜に備えて、拠点を整えなければいけない。五人でテキパキと手分けをして、野宿のための準備を始めることにした。
もはや慣れた作業ではあるが、その時々で環境に応じた準備が必要なのだ。
日が高いうちに地面の苔をはがして、日光の当たる岩の上に敷く。その隣には湿った薪を同様に並べていく。夜までに乾かしておきましょうってことね!
「皆さーん。汚れた靴や外套、洗ってきますよー!」
「おう、悪ぃなミーシャ。」
泥で汚れた装備や、一日履いていた靴下などをミーシャが回収する。
泉を汚さないように、流れ出た小川で一つ一つ洗って乾かす。特に靴下は直接足に触れるため、洗えるタイミングを逃してはいけない。こういう細かい衛生が、病気だけでなくストレスを予防してくれるのだ。これでも(前世)看護師だからね、PTの体調管理は私の管轄だ。
そして、私は手頃な木の棒を探し、その先端を十字に割る。15㎝ほどの深さで小枝をかまして固定し、割れた四本の先端をナイフで削ってモリを作る。
先端を四又にすることで、魚を捕らえる時に逃げられにくいからだ。もし貴方が1人でいる場合は、釣り等の罠を仕掛けることをおすすめするわ。
今日は人手が十分に足りているし、いっぱい捕まえたいので直接モリで突くことにする。魚が隠れていそうな岩影を確認し、魚が見えた瞬間に神速の突きを放つ。
「ピュ~♪」
ヒットした魚を太陽にかざすように持ち上げると、それを見ていたエギルが短く口笛をふいた。
V( ๑❛ᴗ❛๑ )いえーい。ピースサインで答え、次の獲物を探す。その傍ら、水辺に生えている食べられそうな植物を小さく齧って毒味。柔らかい葉っぱで、変な味がしない物を集めていく。
狩りのついでに、拠点周辺を何周か巡り、モンスターを排除する。数体のミズクグリを仕留めた他、大きな魚風のミズクグリ(亜種?)を発見した。
魚型ミズクグリは、すぐに逃げてしまったため討伐には至っていない。
まだ日も明るいが、早めの夕食を摂ることにした。
私が突いた魚は、イワナによく似ている。大きさは20-30cm、背中に灰色の水玉模様が特徴的だ。モリが体を貫通していてもかなり強い力で暴れる等、私たちが一般的に知っているイワナと比べると元気が良すぎるが。
( ๑❛ᴗ❛๑ )んまんま
(´・ω・`)うまうま
魚は内臓を抜いて、炭火でじっくりと焼きあげた。味付けは簡単に塩だけ。それでもカリッとした外皮と、しっとりジューシーな白身が絶品だ。
(´・ω・`)命をいただいてるって感じがするっすねえ
「まさにそんな感じだなぁ」
これは魂に関わる話かもしれない。
高階層で取れる動物からは、それがモンスターでなくとも魂の経験値として私たちに還元されている気がする。
成長するほどに、より高階層なエリアで食材を得ることができる。同時に、成長するほどに味覚や嗅覚が鋭くなり、食材の旨味を的確に感じられるようになる。
「そういえば、モンスターとそうじゃない生物って、何か区別をしてるんですか?」
魚を一匹食べ終え、唇についた脂を舐める。指についた脂も…ぺろっとする前にミーシャが拭いてくれる。そして熱過ぎない程度に温められている魚を渡してくれた。
流れるような所作に、私も自然に体を任せている。私がお水飲みたいなーと思った瞬間、お水の入ったコップを手渡されるような感じだ。
ミーシャの恐ろしいところは、その行動に私が驚いたりしないように自然と行うところであり、全て阿吽の呼吸とでも言うようなタイミングなのだ。
( ๑❛ᴗ❛๑ )ミーシャの事で頭いっぱいになってたぽよ。
ルカの質問に答えられるのは、アクシノムの情報庫に部分的ながらアクセスできる私しかいない。
「んとねー、ルカが言うようにモンスターと一般生物の区別は実際にあるのよ。モンスターは、人間に露骨に敵対意識を持った物ね。二種類あって、アクシノムが試練として作ったモンスターと、あとは異界から私たちの世界に干渉をしてきている物ね。逆に敵対意識が無い生物は、そのまま生態系に属してるわ。」
ミズクグリやドブガラネズミなんかは、アクシノム(から権利を分与されてる源流世界システム)によって作られた物。
悪魔、モーグ、ヴェル=ロゴスは異界からの干渉だ。そうした干渉を、対応出来そうな世界線に分散させることでアクシノムは管理世界全体を守っていることになる。
(´・ω・`)ふーん
こもじは、あんまり興味なさそう。
世界に関する話はスケールが大きい割に、実感はあまりない。そんなこと言われても、目の前に来た敵を斬ればいいんでしょ、みたいに思うのも理解出来る。
「はー、美味しかった。まだ明るいけど、しばらく自由時間でいいわ~」
寝床には乾いた苔のクッションを敷き詰める。これで外套を毛布代わりに使えば、天然の高級ベッドの完成だ。
(´・ω・`)暗くなるまで、刀振って来るっす
「あ、じゃあ俺も一緒に!」
こもじとルカが、刀を片手に立ち上がった。
たしかに、今日は疲れてないし、攻略の合間にスキルを鍛錬するのは大事だ。
「じゃー、ペア決めて実戦形式で組手しない?観戦する人は、客観的に意見言う感じで。」
ただ刀を振っても、今更筋トレにもならないだろう。ゆくゆくは5人全員で連携訓練をしたいが、まずはその一歩目。お互いの力量を知るための組手を、色んな組み合わせでやってみるのがいい。
(´・ω・`)おー、いいすね。ペアどうやってきめますか?
「今後色んな組み合わせでやるとして、今日は立候補でいいわよー。」
誰かやりたい人~
声をかけると、まさかの全員が手を挙げた。
最初に立ち上がったこもじとルカ、さらにエギルやミーシャもやる気満々といった顔だ。
( ๑❛ᴗ❛๑ )ぽよたん困っちんぐ。
「うーん、じゃあ各自やりたい事と指名聞くわ。とりあえずこもじから」
組手と言っても色んなルールがある。それぞれ鍛えたい項目や、戦いたい相手を聞いてマッチングさせようと思った。
(´・ω・`)俺は武器有りでも、無しでもいいっすよ。ポジション的にはエギルとが1番いいっすかね。
続いて、指名を受けたエギル。
「俺ぁこの団じゃ新入りだからよ。全員と手合わせしてぇと思ってるぜ。武器は斧とナイフが得意だが、手合わせで怪我させたくはねぇな。」
ふむふむ。続いてルカ。
「俺は剣を練習したいです!剣術でいうと、こもじさんか帆世さんかと思ってます!大抵の怪我でしたら、ヒールを使えるので任せてください!」
ルカも剣を修行中だった。
それなら確かに、私やこもじが訓練をつけてあげるのがいいかもしれない。
そして、ミーシャ。
「ベルフェリアを使わず、木刀での組手がいいです。エギルさんと帆世さんとは何度かしているので、こもじさんかルカさんと組手出来たらと思います。」
なるほどー。面白いことに、こもじが全員から指名されている。モテモテか?許せんぽよ。
私は、まあ誰が相手でもそこそこ組手出来ると思うので希望は特になし。
全員の希望を考えると、とりあえず今日の組手は…
木刀こもじvsミーシャ&ルカ
に決めた。
「こもじは木刀で、ミーシャとルカはペアになって真剣使っていいわ。ミーシャには私の黒鐘貸してあげるね。」
(´・ω・`)おおー。楽しそうっすね!
こもじはテンションが上がっているようす。ふんす!と木刀を作るための木を探しに行った。
一方で、最年少ペアは緊張している様子だ。
「二人とも頑張れよぉ!俺ぁ観戦だな。」
「ええ、一緒に観戦しましょ。うちのルーキーちゃん達の成長を見たいわ。」
岩が少なく、広くなっている場所に移動する。ミーシャとルカが連携や作戦を相談している間に、私とエギルで地面に落ちている小石を除去した。
石に足を取られて、というのも大事だが、今日はそういったノイズは無い方がいいだろう。
(´・ω・`)ふんふんふーん。良い棒見つけたっす
長めの木の棒を、ぶんぶん振り回しながらこもじが帰ってきた。この漢に本気を出させると、棒の一振で終わってしまう。
「こもじは、最初の1分は攻撃禁止で。二人の攻撃を捌くだけにしてー。」
(´・ω・`)ほいほい
「二人は全力でやっちゃっていいわ。ルカのレリックは禁止にするわね。私も、最初に組手したのがこもじだったのよ。」
邂逅イベントの最中、リアーナと戦った後に組手をしたのを思い出す。リアーナも強かったなあ……湖のほとりで行った組手は、今思えば随分と荒削りなものだった。
うん。私も後でこもじにリベンジしよっと。
準備が整ったので、いざ開始ッ!
「「こもじさん、よろしくお願いします!」」
(´・ω・`)よろしくお願いしますっす
三者ぺこりとお辞儀をして刀を構える。
ここで三人のスキルをおさらいしよう。
(´・ω・`)
こいつは言わずと知れた、我がPT最強の近接戦闘家だ。近接戦闘Lv5と神刀の型Lv5を両立している。それ以外にも瞬歩Lv2と蠢蛇左盾Lv1といった防御系スキルも抑えている。なにより剛力無双といった素の肉体に身体強化Lv5も加わって手が付けられないことになっている。
ルカ
ラウガルフェルト鉱石を使い、国宝榊原老師が打った鋼竜の刀を持っている。
短期間だが濃密な特訓と、従来のフェンシングの才能が上手く掛け合わさり剣術Lv1が生えている。瞬歩Lv3も忘れられない。
ミーシャ
第六層のリーダーとしてのモンスター討伐、エギルとの特訓により近接戦闘Lv1を獲得していた。また、最近は銀爪ベルフェリアをよく使っており、剣術Lv1も生えている。
通常の人間が人生を賭して鍛錬に励み、達人と言われるようになってスキルLv1が生えてくるのだ。そう考えるとミーシャもルカも成長が早い。
「こう考えると、ほんと二人とも成長が早いわ~。若い才能ってやつかしら?」
一緒にステータスを確認していたエギルに話を振ってみる。
「二人とも命賭けて戦った経験が効いてるぜ。実戦に出たかどうか、もっと言やぁ仲間を目の前で殺された経験があるかどうかはでけぇ違いになる。」
さすがは、最強ヴァイキングを率いたリーダーだ。言うことに重みがある。
二人とも相当に辛い経験をしている。精神時間だとまた変わるが、暦で言えば各々の悲劇からまだ4ヶ月くらいか。心の傷が痛む度に、それを糧として訓練に励んでいるのだ。
「守れなかった命ってのがある奴ぁ、戦ってる時もマジで向き合うからな。それに、あの二人はお前さんが良い目標になってんじゃねえかな」
「ふふふ、みんなのお姉ちゃんとして気合いが入るわ。エギルも甘えていいのよ。」
「ハッハ そんなとこをヴァイキングの連中に見られたらたまったもんじゃないぜ」
エギルと話ながらだが、既に三人は激しい打ち合いをしていた。
攻撃の主体はルカ。
夢想無限流の仕込み通り、正道を行く剣筋でこもじに打ち込んでいく。ヴァチカンの頃と比べると全体的にがっしりと筋肉がついてきており、重たい刀もブレることなく振ることができていた。
そして、ミーシャの刀はかなり独特だ。ルカが弾かれたタイミング、空振りしたタイミングなどにぴたりと合わせて隙を潰している。一撃に重みは無いが、軌道を途中で変えることすらある柔らかい剣筋である。
単純に手数が多いルカの剣と、その間合いに完全に合わせたミーシャの剣が絶え間なくこもじに浴びせられていた。
「ミーシャがうめぇな…ありゃ真似できる奴中々いねえだろ」
「剣というより、人を見て動いてる感じね。彼女の見所は、多分もう少し先よ。」
そして、二本の真剣…特にどちらも国宝級の価値がある刀を木の棒一本で凌いでいるのがこもじだ。
もちろん正面から打ち合えば、木の棒が切断されることは必至。さらに一人にかまけると、第二の刃が襲ってくるだろう。
こもじの使っているのは、受け流しと弾きである。ギリギリまで引き付けた刀を、ぬるりと滑るように受け流し、攻撃手の二の手を封じている。また、ミーシャの柔らかい太刀筋に対しては、剣の腹を強く叩いて弾き飛ばしていた。
大きな体のくせに、かすり傷ひとつ付けないまま一分が過ぎようとしていた。
(´・ω・`)そろそろ一分すよ
「ハァ…ここからですね!ハァ」
ルカが元気よく応じるが、息があがりはじめている。
(´・ω・`)ていっ
ルカの振り下ろした刀を、こもじの木刀が絡めとる。刀の腹に吸い付くように木刀を這わせ、横から力を入れてぐるりと滑らかに一周。
「や…ッベ!」
木刀が刀の下に潜り込んだところで、急に何かが爆発したような音とともに、ルカの手から刀が弾き飛ばされた。
ていっ、じゃないねん。
「なんじゃありゃ!」
「“巻き”の技術に、“太刀飛ばし”を合わせてるのよ。」
思わずエギルが立ち上がって声を漏らす。
刀を巻き込むように操り、相手を丸腰にしてしまう基本にして奥義ともなる技術。
(´・ω・`)ほいっと一人目
丸腰になったルカに対して、こもじの木刀はむしろ加速している。一分がすぎたと同時の攻撃が、ルカの体に直撃する…
その直前に、ミーシャが割って入った。
「うまい!」
こもじとルカの間に体を滑りこませ、空間を潰しながら刀で木刀を受ける。やや乱暴な割り込みに、ルカが突き飛ばされるが
ルカが突き飛ばされた先には、先程弾かれた刀が落ちていた。刀を拾い上げ、再び二対一の構図に状況を戻すことに成功した。
(´・ω・`)どっこいしょー
しかし、それだけで動きを止めることはできない。
強制的に受けることしか出来ない角度で、木刀が凄まじい速度で振られる。
「…くッ すみません飛びます」
辛うじて受けたミーシャだが、体重差と筋力差により、受け自体が成立させて貰えない。一手で体勢を崩され、押し切られそうになる。
――【瞬歩】――
完全に押される前に、ミーシャの体が消えた。
瞬歩による0.5秒間の消失。短い転移を挟んでの緊急回避だ。
(´・ω・`)ならこっちを
残されたルカに向かって、強烈な横なぎが放たれる。ここまでミーシャの防御があって、なんとか組手が成立していた。こもじにかかれば、0.5秒の間に一人落とせるといった判断だ。
しかし、その木刀は予想に反して空を斬る。
――【瞬歩】――
木刀が直撃する寸前で、ルカも瞬歩を使ったのだ。
今までこもじがやってきた、受け流しによる武器の空振り。特に強振りを躱されたことで、こもじの足が一歩動かされた。
その一瞬、先ほどの0.5秒がやってくる。虚空から現れたミーシャが、振り抜かれた木刀に黒鐘を喰いこませて切断。刃を翻して、さらに二の太刀を狙う。
「せぇぇえい!」
ミーシャ気合一閃。ここまで静かに戦っていた彼女が吠えた。
木刀を破壊され、丸腰になったこもじに黒い刃が迫る。それだけではない。
すっと背後に、ルカが転移して刀を振り上げていた。ミーシャの咆哮は、ルカの存在を隠すためのものでもあったのだ。
(´・ω・`)あわわ――【強者の風格】――
二人の刃が迫る中、こもじが腰を落として大地を踏み抜く。
そして全身から殺気と闘気を練り合わせたようなオーラが迸り、質量をともなったソレが周囲に叩きつけられる。コンマ0.01秒の停止、太刀筋というより攻撃の意識、そのポイントがずらされた。
それからは、本当に極小の時間での出来事だ。
背後にいたルカの胸倉に手が伸び、掴んだ瞬間に強烈に引っ張られる。ミーシャの斬撃を回避したまま、ルカと正面から向かい合う形となった。
ルカの体が真横に回転して飛ばされる。おそらく柔道的な崩しで足払いがかけられたのだ。これで、ルカは落ちた。
振り返えりざまに、今度はミーシャの胸に手を伸ばす。
( ๑❛ᴗ❛๑ )ぶちころすぞ……
(´・ω・`)ゾクッ
その手が引っ込んだ。
その隙をついて、正中に振り下ろされる黒鐘。
人(´・ω・`)えいっ
その黒鐘を、素手で挟み込むこもじ。
挟んだ瞬間に手首の力で刀を倒し、ミーシャに触れることも無いまま投げ飛ばした。
どっぼーん
軽い身体が羽のように宙を舞い、夕日を受けて幻想的な輝きを魅せる泉に墜落した。
「勝負ありだな。」
「ミーシャちゃあああああ」
泉の中心から、女神が顔を出す。
白金色の髪と、長い睫毛が透明な水滴を纏って輝く。
ああ、女神さまっ。私が落としたのはとってもキュートなミーシャちゃんです。
「えへへ…手合わせありがとうございました!」
びっくりした。
女神さまかと思ったらミーシャちゃんだった。ずぶ濡れになりながら、ぺこりと一礼をして泉から出てくる。
ちょうど同じ頃、茂みに飛ばされたルカが、頭に葉っぱをつけて出てきた。
「フー、手合わせありがとうございました!」
(´・ω・`)ありがとうございましたっす
濡れたミーシャを火の傍に座らせ、頭を拭きながら総評を述べていく。
普段はミーシャに拭いてもらってばかりだし、今日は私が拭いてあげるの。いいの、じっとしてなさい。かわちいねえ。
なんだっけ。ああ、総評だ。
「とりあえず、こもじに白星ひとつね。どうだった?」
(´・ω・`)二人ともかなりの腕でびっくりしたっす。
腕を組んで、うんうんと頷くこもじ。
手放しの称賛に、ルカは照れて頬をかいている。
「いい試合だったわ。続いてエギル、見ててどうだったかしら。」
「そうさなあ…全員の技量が高ぇ。俺達ぁ力まかせに斧を振るような戦い方だったんで、確立された技術体系みてぇなもんに驚かされるな。底知れねえこもじに対して、二人ともよくやってたぜ。」
エギルは満面の笑みで拍手を送っていた。
実際に観戦している時から楽しそうだったし、PTメンバーの技術や連携を見れたこともプラスだろう。
そして、私からも感想を述べる。
「こもじは、オーダー通りに相手してくれてたわね。剣も体術も私から言うことは無いわ。」
(〃◜ω◝ 〃)ゞでへへ
「でも、二人の瞬歩には反応遅れてたでしょ。瞬歩自体も練習不足なんじゃないのぉ~?」
(´・ω・`)…すん…
「ルカは、正道といった剣の基本ができていたわ。相当真面目に鍛えてるのが伝わったわ。最後の瞬歩もタイミングはバッチリよ。ただ、基本通りすぎてこもじには動きが完全に読まれてたわね。基本を守りながら、そこに自分なりの味を出していくようにしましょう。」
「はい!ありがとうございます!」
ルカがノートに書き込んでいる。
いつも通り、打てば響く返事が心地よい。こういう姿勢だから、皆ルカに色々教えたくなるのだ。
「ミーシャちゃんは、誰かに合わせて動くのが上手すぎるくらい上手よ。特に防御は、今後も仲間の命を救ってくれると思う。気になったのは、前半もう少し積極的に攻める姿勢を出した方が良いわね。サポートに注力するのは正解なんだけど、そういう意思が相手に透けて見えたら効果が半減するわ。サポートに回る時や、逃げる時ほど苛烈に攻める気だけでも相手に見せて、心理を誘導するのがコツよ。」
「ありがとうございます!組手して良かったです。」
ミーシャちゃんは、あとで一緒に組手しようね。
あっそういう意味じゃなくて、あうあう。
「二人からの感想も教えて。」
「俺は、やっぱりミーシャに何回も助けられました 。事前に決めていた連携も、俺がミスって出来ていない所が多かったです。実際に刀を使っての組手、今後もお願いできたら嬉しいです!」
「私は、こもじさんの剣を全然押し込めなかったです。普段、ベルフェリアの力で戦っていたんだと実感しました。実際の組手でしか分からないことや、皆さんからの助言から学べることが多いです。」
火を囲んで、さらに細かい感想戦が始まる。
ウィンドウによって記録した映像を使いながら、こもじの剣術解説や、ミーシャとルカが何を考えて行動していたかを言語化して整理する。
エギルとルカは、かなり理論派な一面を見せた。合理的かつ人体の構造に則った論を展開。詰将棋のように相手を追い詰める道筋を考える事ができるし、そもそもの勝利条件を考えながら動くこともできる。課題としては、思考を挟む分どうしても行動にラグが生じる可能性がある。
一方でこもじとミーシャは感覚的な戦いをしているらしい。何となく直感で動けるのは、実戦の場では思考するよりコンマ何秒か早く動けるため強い。その分、広い視野での戦略的な組み立てが弱点にもなり得る。今のように味方との連携を重視して、味方の動きに合わせられるようにしていけば大丈夫だろう。
そうこうしているうちに日は沈み、夜の時間がやってきた。
濡れていたせいで、肌が冷たくなっているミーシャを連れて先に寝床に入る。ちゃんと女性用と男性用で二つの拠点ができていた。
岩に木を立てかけて壁とし、上から苔と葉っぱを大量に乗せて屋根にする。
二つの拠点の真ん中に焚き火があり、岩に熱が反射して暖かい。
「さ、ミーシャ服を脱いで。朝には乾くわ。」
「ありがとうございます。」
二人でふわふわの苔のベッドに入り、上から外套をかけて毛布代わりにする。ミーシャの身体を抱き寄せ、ひんやりとした体を二人の熱で温める。
(しずか様…♡)
(なぁに ミーシャ♡)
おやすみのキスですって。
ミーシャとのおやすみのキスは、一回はじめると十分以上続く。なんだろう、何故か体が動かないのだ。
最近気がついたが、この時のミーシャは神気の扱いが尋常ではなく上手い。膨大な気を生みだして、口を通して私に流し込んでくる。
私自身は、どうも神気を生み出すのが苦手なようだ。ミーシャを通じて気を扱い、そうしているといつまで経っても息をしなくても苦しくは無い。
あと、キスしている間、背中や頭を撫でてくれる。
私の方が年上なはずなんだけど、夜のミーシャに勝つことはできない。
ミーシャの愛で脳みそがぼんやりとしていき、体はなんでも受け入れる準備を整える。これはミーシャ中毒の初期症状。
末期症状になると、気を失う。だいたい気がつけば朝になっているのだ。
そんな初期症状の脳みそが、理性をあらかた捨てようとしていた頃、泉の中から小さな唄が聞こえていた。
はなしかけた そのひとの
やさしいこえに こいをした
どこへいくのと みずがとう
おおくのひとに てをひかれて
(しずか様……♡)
( ๑❛ᴗ❛๑ )これが…恋…
閑話休題が終わり、いざ攻略に!
と素直に書けないのがぽよちゃん。
省略してもいいのですが、一日一日の出来事を記録するタイプなのです。
ストーリーも頑張って進めます。




