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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第三章 少しは進化の箱庭を進めましょう。
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閑話休題 先人の言葉

タララッタッタ〜ン♪


「7月31日。時刻はまもなく12時00分。夏も真っ盛り、みなさんいかがお過ごしでしょうか?

この時間は“今月のニュースUCMC”をお届けします!

今月も嬉しいニュースが目白押しでした!さっそく振り返っていきましょう。

本日のゲストはこの方!UCMC情報統括戦略室より、諸葛隼人さんです。よろしくお願いいたします!」


「いや~ハハハッ どうぞよろしくお願いします。私の苗字、もろくず、ではなく、しょかつと呼んでほしいものです。」


「大変失礼いたしました。諸葛さん、本日はご多忙のところ、ご出演ありがとうございます。では、さっそく参りましょう。一つ目のニュースは、こちらッ」


「7月初頭、“進化の箱庭”に挑んでいたクラン≪英雄の戦場≫が無事帰還しました。このクランといえば、今最も名が知られている人物――そう、帆世静香さんがリーダーを務めています。

今回の攻略階層はなんと第15層!前回は夢想無限流剣術の柳生隼厳十段と二人で第十層を攻略したばかり、彼女は本当に話題が尽きませんね。諸葛さんは、この点、どう思われますか?」


「リーダーの帆世さんね、私も何度かお会いしてるんですよ。世間では色々と噂も尽きない人ですが、実際に会うとびっくりするほどフレンドリーな女性です。それに、私どもUCMCの仕事のうち、かなり大部分を彼女に助けてもらっていると言ってもいい。うん……先日の3日間ぶっ通し会議なんか…彼女は一睡もせずに会議に参加していましたからね。」


「そうなんですね~、しかし帆世さんに直接会えるというのは、UCMCの役得とも言えるかもしれませんね!」


「ええ、我々UCMCは常に人材募集しておりますからっ。それに、英雄の戦場ですが、今回新たにメンバーが増えました。これ、言ってもいいのかな?」


「なんと、確かにクリア者が五名いらっしゃいましたが…その詳細は憶測の域をでておりませんでした。メンバーについてご存知なんでしょうか!?ぜひ、教えてください!」


「私が勝手に言ったって、後で帆世ちゃんに怒られない?? リーダーの帆世ちゃんは改めて言う必要ないし、もう一人のこもじさんも有名だね。ヴァチカンの教皇庁でも有名なサンティス家…今は大変だけど…そこの御曹司ルーカ氏、とっても礼儀正しい好青年って感じだったね。」


「ふむふむ、この三名は私達も知っている方でした。あと二名、クランに新たな人が加入したのでしょうか!?」


「そうなんだよ。一人はエギル氏という方で、背が高くて。なんていうの?昔の映画俳優だけどキアヌ・リーヴス氏にどことなく凄味が似てるね。もう一人は、ミーシャ氏という女性で、彼女に手出したら帆世ちゃんが本気で怒るから絶対にダメだよ。今後も大活躍してくれるから、注目!」


「ありがとうございます~!二人についての情報は、このラジオで独占公開という形になりました!今後、クラン英雄の戦場について特集を組みますのでどうぞお楽しみに~!」



ザッザーン ちゃぷちゃぷ

規則正しい波の音に耳を傾けていると、艦内にラジオが流れ始めた。ニュースUCMCが流れるということは、もうお昼だ。そろそろ魚を捕まえに行った三人が帰ってくる頃だろう。


『こちら船長室、エギル。三人ともちぃとばかし、遠出してるようだ。迎えに船を出すぜ。』


ラジオにのっかるように、エギルから案内が入る。どうやら遠くまで行ってしまった三人を迎えに行くらしい。ドレングルスキップ号の重厚なエンジン音が響き、ゆっくりと船が動き始めた。私は黙々と作業を続けながら、再びラジオに耳を傾ける。


アナウンサー風の落ち着いた女性の声と、諸葛さんの明朗な声がBGMに丁度良い。

ちょくちょく諸葛さんはメディアに露出しているが、あの地獄みたいに忙しいUCMCから抜け出す口実にしているんじゃないだろうか?

まあ、人々の関心を集め、人類の顔を未来に向けさせる重要な仕事ともいえる。人心掌握や情報戦略に手広く長けているUCMCの知将のすることだ、無駄ではないんだろう。



「続いてはアメリカからの話題。6月に“アドベンティア”と呼ばれるダンジョンが誕生したことで、デトロイトが一躍“冒険者の街”として注目を集めています。

世界中から人々が集まり、いまや冒険者の一大ブーム。7月も、アドベンティア内に新たなダンジョンが発生したとの報告があります。」


「いや~……政府関係者やUCMC関係者はデトロイトに入れてもらえないので、我々としては複雑な気持ちですね。ダンジョンと行き来ができる構造に、酒場や宿屋、貿易業、武器商人と様々な業界から人が集中しています。しかし、やはり花形なのは、直接ダンジョンに挑む冒険者ですね。ダンジョンでとれた物は高値で買い取られ、また挑むことでスキルを習得する人も多いと聞きます。さながら、現代のゴールドラッシュですね。」


「我々日本人は、滅多に行くことができないですね。スキル習得とお伺いしましたが、英雄の戦場メンバーのような方がアメリカにもいるんでしょうか?」


「鋭い質問ですねぇ。現在UCMCでは一部の前線攻略者のスキルを公開しています。アドベンティアは情報があまりないんですが、≪英雄≫キーン氏、≪キング≫グリッド氏、≪奇術師≫ジル・レトリック氏あたりが有名になってきていますね。日本人からは、夢想無限流剣術に属している椿真理さんが活躍されているようです。」


「ジル・レトリック氏は、ダンジョン挑戦中に配信をしたことで、一躍有名になりましたね。それ以降の配信はありませんが、なんというか強烈な方でした。そして、日本人でも活躍されてる方がいるというのは良いですね!私も、最近はジムに行き始めたんです。いざという時、体が動かないとだめですからね。では、ここでCMです。」




シャラララララ♪


――朝、目覚めた瞬間から、もう特別。

ミルクのぬくもり、ハチミツのやさしさ、そして、満開の花々の香りに包まれて。


あなたの髪が、一番好きな香りであるために。

指通りなめらか、ふんわり、ほのかに香る。

触れたくなる、惹きつけられる髪へ。


「女の髪は、強さの証♡」


ミシャシリーズ。今なら帆世静香のサインが当たる!!



(´・ω・`)ドタドタドタ


「あら、おつかれさまー!」


ドレングルスキップ号で飛ばすこと15分くらいか。

かなり沖まで来たが、ようやくこもじ達三人をピックアップできたようだ。こもじが1mを超える青い魚を持って甲板に上がってきた。

少し遅れて、ミーシャとルカが甲板に上がってくる。


「はぁはぁ…つっかれたー。俺、もう泳げないです。」


ルカがそのまま大の字になって寝転がる。さんさんと降り注ぐ陽光の下、温かくて気持ちがいいよね。

今いる地点、直線距離でも25-30kmはある。おそらく無限の体力を持っているこもじに振り回されて、超遠距離水泳をしていたんだろう。


特にルカは、四肢に重りをつけての特訓をしていた。くたくたに疲れるのも納得である。


「帆世さん、お迎えに来ていただきありがとうございます。何をされてたんですか?」


「お礼はエギルに言っておき~。私はねー、蛇ちゃんたちの強化中。あ、料理にこれも使ってみて、美味しいから!」


海から上がったミーシャが、きらきらと水滴を輝かせて私のもとに来た。

内心で可愛いのコーラスが巻き起こるが、大人なので内心だけでとどめる。

これからお昼ご飯だが、ちょうど使い終わった魚をミーシャに手渡した。一見すると岩にしか見えないが、れっきとした魚である。


「これ、昨日捕まえていた魚ですよね。」


「オニダルマオコゼ。毒のある背びれは切り取ってるから、もう安全だよ。」


挿絵(By みてみん)


オニダルマオコゼとは、異形の顔とごつごつした体が特徴的な毒魚だ。

世界一危険な魚とも称され、背びれには鋭い棘が何本も隠されていて、その針の根本には毒がつまった袋が備わっている。驚くべきことに、この毒は様々な成分を混ぜ合わせた()()()となっている。


有名な毒蛇ハブの数十倍であると言われており、一匹のオニダルマオコゼから取れる毒は、マウス3万匹弱を死に至らしめる。

もしオニダルマオコゼに刺された場合、どうなるのか。


刺された瞬間、患部を拳銃で撃ち抜かれたような衝撃が走り、骨を金槌で直接叩かれているような疼痛に見舞われる。その痛みは想像を絶するもので、痛みを誤魔化すために患部を本気で叩きつけたい衝動に襲われ、筋肉はがくがくと痙攣を始める。


ものの15分でリンパ腺を通じて痛みが広がり、腋の下や股関節が特に痛み始める。

数時間で患部がぱんぱんに腫れあがり、その日は何をしても寝ることはできない。少しでも体を動かすと、全身から冷や汗が噴き出る。熱湯につけると多少痛みが和らぐが、その後冷めると痛みがさらに増す。

徐々に発熱し始め、体は食べ物を受け付けず、下痢症状が出ることもある。


「かなり強ぇ毒なんだな。見たこともねえ。」


「あ、エギルさん。お迎えに来ていただき、ありがとうございました。」


ミーシャにオニダルマオコゼについて説明していると、エギルが船長室から降りてきた。

温かい海にいる魚なので、たしかにミーシャやエギルは見たことがないだろう。


「そうなんだよー。この毒を蛇ちゃんに食べてもらってるんだよね。毎日一種類、毒を食べさせてみてるんだー。」


「前々から聞こうと思ってたんだがよぉ、その蛇生きてんのか?」


「千蛇螺の籠手、っていう防具の一種なんだけど。魂が宿ってて動くんだよねー。こもじも同じ装備持ってるんだけど、私の蛇ちゃんとは性格が違うみたい。」


UCMCに頼んでいた物というのは、このような珍しい毒生物だ。世界中から取り寄せた生きた毒生物を、少しずつ蛇ちゃんに食べさせ、その毒を体内で高めてもらっていた。


今では、スキルレベルも上がっていて、かなり成果が出たと言える。このようにスキルの中には、修行とは別ベクトルの強化方法もあるということだ。



ラジオが続く。


「いやぁさすがはリーメンハウンズの皆さんでした。続きまして、先日、またまた英雄の戦場が活躍しました!七月使徒、波濤の魔螺貝ナウティリオンを沖縄南部慶良間諸島で討伐しました。諸葛さん、波濤の魔螺貝ナウティリオンとは、どういう使徒だったのでしょうか?」


「使徒というのは、最近の呼び方ですね。先月は南アフリカで人口50万人の都市が壊滅した痛ましい出来事がありました。この時の使徒は帆世さんと、リーメンハウンズのレオン氏によって討伐されました。このように使徒とは、単独で都市が壊滅するだけの被害を出す可能性があり、中には軍隊では対処できないようなケースもあります。」


「うんうん。ですから、現在世界中で都市を壁で囲む工事が進められているんですよね。」


「その通りです。話を戻しますと、波濤の魔螺貝ナウティリオンは、大変不思議な力を有した貝です。この貝が生息している海域では、我々人間も、さらには機械であっても、方向感覚が狂ってしまいます。実際に慶良間諸島では多くの魚が方向感覚を失って絶命しているのが発見されました。」


「具体的にはどのような被害が出るのでしょうか?」


「バミューダトライアングルという話をご存知でしょうか。多くの飛行機や船が消失してしまうという、呪われた海域の話です。このナウティリオンが生息すると、バミューダトライアングルのような現象が起きると考えられています。なにより恐ろしいのが、ナウティリオンは繁殖し、世界中に散らばっていくことです。」


「世界中で、船や飛行機が機能しなくなるかもしれない…ということですね。」


「そういうことです。非常に硬い殻をもち、さらには使役する魚によって自由に移動することができるのです。そのため、既存の軍隊では対処することができませんでした。」


「そのような事情があったのですね。本当に恐ろしい…」


「そこで、UCMCは英雄の戦場へ依頼。見事討伐に成功しました。迅速に使徒の存在を探知した海上自衛隊、円滑に避難を進めていただいた慶良間諸島周辺の方々、そして英雄の戦場の五人。本当に多くの方に助けられ、こうして人類は安全な海を使徒から守ることができたのです。」


「未曽有の危機に直面しても、こうして人類が手を取り合うことで、対処できるということですね。ああっと!!たった今、ニュース速報です!

クラン≪夢想無限流剣術≫から柳生隼厳十段率いる十名が、進化の箱庭から帰還しました!なんと…なんと!! 攻略階層は第三十層です!」


「うわ、私の元にも連絡が来ました。これから緊急会議です!すみませんが、ここで失礼させていただきますが、朗報ですね!素晴らしい!」


「UCMC情報統括戦略室、諸葛隼人さんでした。ありがとうございましたー!って、もういない!

引き続き、情報が入り次第速報を流させていただきます。」



ラジオを流し聴きしていると、とんでもニュースが流れてきた。

さすがにスタジオも騒然。


(´・ω・`)師匠やべー。俺ぁ師匠と一緒じゃなくてよかったっす。


「三十層って、師匠達ぶっ通しで進化の箱庭に挑んでたんだ。前回十層でバイバイしたのに、追い抜かれちゃったね。」


私達の十五層は、はっきり言ってイレギュラーケース。その後うだうだしながら沖縄に来て、使徒討伐したついでに水中訓練に励んでいた。

その間、約一か月ほど師匠達は進化の箱庭にずっと挑んでいたようである。


「さすが、剣聖様…それでも十名って多いですね。」


(´・ω・`)夢想無限流のほとんどが進化の箱庭に挑戦してるっすからねー。多分、師匠ががんがん進んで、誰も師匠を止められないまま走らされたんだと。


「あ、師匠がコメントするってよ!聞いて聞いて」


今や全員が甲板に集合し、ラジオに聞き入っていた。



『儂が、夢想無限流剣術 柳生隼厳である。』


師匠が喋り始めた。普段の飄々とした雰囲気ではなく、対外的な威厳のこもった声だ。


『三十層まで進み、こうして帰還したのは、儂らの情報を公開するためじゃ。早晩、再び進化の箱庭に挑む。故に、心ある者、武を志す者、戦に生を見出す者よ。皆、儂らの後をついてくるがよい。夢想無限流は、全てを斬り拓き、先で待つ。儂らが死なば、その屍は道標になるじゃろう。』


短いが、力のこもった言葉だった。

南国の太陽の下にいるというのに、背筋がゾクゾクと震えてくる。


「たはは。私達もそろそろ征かなきゃね。」


「どこまでも、お供します。」


ミーシャたん、かわちいね。


「エギル。待たせたわね。次の攻略で、エギルの目的である黒色のトロールを討伐する。」


「応。アイツは、まだどこかで生きてやがる。俺の家族を殺したクソ猿、血の誓いを果たさせてもらう。」


ぽよちゃんPTは復讐には寛容だ。

絶対に赦さないという意志、その想いを少しずつ皆で背負って、この長い道を歩んでいけたらいい。


それに先人がせっかく斬り拓いてくれた道があるのだ。その道が見えなくなる前に、後続である私達が踏みならし、万人が通れるように舗装していかねばならない。


先人を孤立させるな。

後続に追い抜かれるな。



私達は、まだ深淵の入口に立っているにすぎない。

海の浅瀬でちゃぷちゃぷ遊んでいるにすぎない。



先へ、先へ。深く、深く。


急げよ帆世静香。

時間(タイムリミット)は、そう多くは残されていないのだから。








閑話休題 終了

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