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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第三章 少しは進化の箱庭を進めましょう。
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仮面の選定 其の2

船に天幕を張るな  

決して館の中で眠るな

敵が来るぞ 

ヴァイキングは剣を手に 盾の上で眠る

俺達の天幕は空だ


嵐が吹き荒れる時には

帆を高く揚げよ

嵐の王のお出ましだ


船よ 船よ

進め 進め


帆を下ろすより 海に沈もう

帆を下ろすのは

臆病者のやることだ



ガタゴト ガタゴト 錠のかけられた馬車が激しく揺れる。

その度にお尻が浮き、頭が木の壁にぶつかった。支えようと伸ばしたはずの腕は無く、額で衝撃を受け止める。


「いてて……そっか手が…」


耳と手を捧げた私が居るのは、嵐の中を進む馬車の中だった。嵐の風に乗って、聞こえない耳に唄が流れてきたような気がする。戦え、戦えと。


馬車が突然止まり、その衝撃で身体が床に叩きつけられる。歴戦の体は、ドラゴンに蹴られたって死にはしないだろうが、床に転がって平気な訳ではない。そもそも、なんで私は閉じ込められているんだろうか。


「むかつくぽよねえ。」


ガンガンと扉を蹴とばすも、びくともしない。

木でできた扉如きで、私の蹴りを受け止められるはずがないのにも関わらず、だ。

ここはエギルの夢の中、私がこの箱を出るには、なんというかエギルが居ないとダメなのかもしれない。ゲームでいう主人公が居ないときのモブキャラの役回りだ。


うーんと呟き、窓の無い外に意識を向ける。傾ける耳も無いわけだが、しばらくそうしていると視界がいつのまにか切り替わっていた。


「おぉ~これよこれ。夢ならではの。」


鳥のように空を飛び、緑の草原と青い海を見下ろす。視線が勝手に、砂浜に打ち上げられている男達をアップに映した。見るものが勝手に切り替わることも、ありえない角度で眺めていることも、それがおかしいと思えない現実感も、まさに夢のひと時という感じだ。


「ここはどこだ?」

「敵陣か…それとも味方の陣営か?」


砂浜に打ち上げられた男たちが喋っている。肩まで伸ばしたウェーブのかかった髪、顔半分を覆い隠す口髭、太陽を鈍く反射させるチェーンメイル。彼らはまさしくバルト海の海賊、ヴァイキングそのものであった。


とすると、彼がエギルかな。

その顔には髭が薄く、髪の毛の色も心なしか明るい。しかし目元はエギルにそっくりな男がいる。若いころのエギルを見つけることができたようだ。話しかけようにも、今の私には実体がない。


エギルは、海岸に並べられた男達の手を取ってなにやら語り掛けていた。


「この“ルーン”が、死者の旅路を守ってくれる。」


自らの首から丸い銀細工の装飾品を千切り、砂浜に横たわる死者の手にのせていた。その遺体の様子から見るに、溺死。昨夜の嵐が、彼らの船を転覆させてしまったらしい。


集まっている仲間たちが、エギルの手を止める。


「おい、エギル。何やってるんだ、それは…お前のルーンじゃねえか。」


「今はこいつの方が必要だ。」


仲間の静止を気にも留めず、死者の手に硬く握らせる。

その姿は、彼が仲間想いであることを良く示していた。


「お前が死んだら?」


「ハッ…預けておくのはくたばる時までさ。」

「ヨォシ、てめーら。海岸を離れるぞ。時期に潮が満ちて溺れちまう。」


彼らヴァイキング達は15人ほど。

エギルが見上げるのは、ほとんど垂直に切り立った崖だった。

そこを登ろうというエギルに、若い男達が異を唱える。


「正気か?」

「おいおい、戦士は登山家じゃねえぞ。俺は登らねえ。」

「へいエギル、親父さんが生きてたら嘆くぜ」


彼らヴァイキング達は、その全員がエギルに味方しているというわけではないらしい。

エギルが腰の剣に手を伸ばした時、それを遮って白髪で大柄な男が立ち上がった。


「よし、俺は行くぜ。ガキどもは海で遊んでな。なあ、エギル。」


二人が崖に手をかけると、渋々と全員が崖を登り始める。

途中、例の若い男が手を滑らせて落下したが、白髪の男が片手で掴んで命を救った。


遂に登りきったエギル達が見たのは、茂みの向こうから続々と現れる、銀色の甲冑に赤いマントをつけた騎士たちだった。

彼らの後ろには、今私が閉じ込められている馬車がある。


ボロボロのヴァイキング達と、ぴかぴかの正規兵が一瞬にらみ合った。


「ハ…ハハッ 嬉しいお出迎えだぜ」


「あいつらが酒と女で歓待してくれるとでも?」


緊張感が高まり、ヴァイキング達が切り立った崖に目を向け始めた時。

エギルが声高に叫ぶ。


「生きるか死ぬかだ 広がれッ!」

「全力で戦い 勝利を!」

「ヴァル ハーーラッ」


両軍が走り始め、激突する。

ヴァイキング達、特に白髪と若者とエギルの三人は圧倒的だった。

数倍は居る騎馬兵を相手に、真っ向から立ち向かう。


白髪の男が正面から馬を受け止め、投げたおして見せた。

若者は両手に短剣を握り、戦場を器用に翔ける。


ヴァイキング達が半分ほどに減っていた時、ようやく騎馬兵は撤退を始めた。


「オイ、移動するぞ。援軍がくるッ」


「エギール、見てみろなんかあるぜ。」


私の視界がふっと戻った。

暗い馬車の中から、その扉に目を向ける。荒々しく扉が開かれると、血みどろになったヴァイキング達に囲まれた。


「オッホッホッホ……美しい鳥がいるじゃあねえか」


「遊んでる場合じゃねえぞ。ここから一番近いヴァイキングの植民地まで南に2-3日はかかる。」


「輪して捨てちまうか?」


音は聞こえないが、戦闘で気が立っている男達が何を話しているのかなんとなくわかる。

先ほどの若い男が、私に近づいてきて体を触り始めた。


「考えてもみろよぉ…植民地についても手ぶらじゃ入れねえ。コイツを見てみな…服には金の刺繍、胸にはブローチ。特別な鳥に違いねぇぜ」


髪をねとねとと触ったかと思うと、服の下に手を入れる。ぶん殴ってやろかな。

しかし、私が動くよりも早く、エギルがその男の手を捻じ曲げた。


「ヨルンド、手を離せ。」


「チッ…」


「エギル、ありがとね。」


ようやく口を開くタイミングに恵まれた。

名前を呼ぶと、エギルが目を丸くして驚く。


「お前、俺を知ってるのか?」


「ごめん、今耳と手が使えなくってさ。エギルは私の未来の仲間で、その…一緒に来てほしいんだけど。」


「どうなってんだ、。まあいい、こいつらを落ち着けたらになるが、一緒に来な。俺が守ってやらあ。」


頭をかきながら何か言うと、エギルが私を背中にのせて歩き始めた。

そこからの話は長い。森を抜け、度々襲い掛かる敵を撃退し、私が攫われた王国の姫だと判明する。


私って姫なんだ。


私をさらったのは、その国の軍を取り仕切る男で、エギルは私を渡すことを拒否。

そのまま軍を相手に戦い抜いて、首謀の男の首を取る。でも、そこで捕まってしまい断頭台へ。


死ぬ間際、首を断頭台にかけられながらも、その国の王の名誉と繁栄を唄う詩を即興する。

エギルの詩の才能は本物で、いたく感動した王様がエギルを気に入って釈放。囚われの王女だった私を見事救い出して、こういった。聞こえないけど。


「待たせちまったな。さあどこにでも連れていくぜ。」


このまま王女と結ばれそうな雰囲気となり、エギルが手を取って誘う。

私の動かない腕を通して、エギルの記憶をたどる。こもじの時でなんとなく要領はつかんでいた。


「ごめんね、エギル。夢の終わりよ。」


闘技場で色を失っているエギルに魂を送り届ける。ロゴスの体を羽交い絞めにしている彼に顔が戻り、その時こもじとも目が合った気がした。

てか、ロゴスの体もそのままあるけど、抜け殻か何か?



ふっと視界が戻り、白紙の法域に座る。


「体感、一か月はかかったわあ。何話してたか忘れちゃった。」


「話しが変わってたらごめんなさいね。三回戦に行くまでに、私が彼…名前くらいは教えてあげましょうか。彼はアクシノムっていうのよ。アクシノムに会うことができたのは、無限回廊というダンジョンをクリアしたから。あなたは進化の箱庭を狙ってたみたいだけど、ハズレね。ついでにいうと、あの蜘蛛ちゃんが余計なこと言ってたわよ。」


「ひさしぶりに人間が来た、とかね。アクシノムは貴方の事気が付いてたんでしょうね。彼は世界線を自由に操作できて、悪魔やほかの世界の管理者に干渉されても、その世界線を切り離してしまうの。だから、こうして私の魂を縛り付けて世界に干渉しても、切り離されて逃げられるだけ。…驚いてる? さーて、無限回廊について聞きたい? それとも私が何でこんなに詳しいか聞きたい? アクシノムの写真とかもあるわよ。さ、続きを喋らせたかったら仮面を出しなさい。」


情報は使い方さえ間違わなかったら何よりも強い武器になる。

私は本当の事しか言っていないけど、本当に大事なことは言っていない。


アクシノムに会いたければ、それはそれは簡単な方法があるんだけど…


おっと、仮面が新たに浮かび上がった。

くるくる。一回転するごとに顔が現れ、そこに出てきたのは私の可愛い【ミーシャ】だ。

彼が選んだのは、こもじ、エギル、ミーシャ。


残りはルカとロゴスの仮面だ。


「私はこれを選ぶわ。」


【ミーシャ】×【目】


これで次のチョイスでは目で確認することもできない。

それを良い事に、次で私を仕留めるつもりだと予想している。だからこそ、ここまで3人の魂を、あっさりと解放したのだ。


残る私のカードは、【舌】と【■】。

ロゴスを殺せば私が新たなロゴスにされてしまい、ロゴスを生かせば中途半端に魂を縛られた傀儡の出来上がりだ。

あの蜘蛛の後釜に、そこそこ戦力の高い私を使うつもりなのか。そうして人を閉じ込める罠を張り、虎視眈々とアクシノムが来るのを待ち続ける算段。


あんまり愉しそうな役割じゃないね。


そしてもう一つ。私の魂を喰らっている仮面。あれは何だろうか。

私のカードには、私の魂を分割して乗せているのだ。対になる仮面に、ロゴスが何か力を割いている可能性は十分に高い。


ロゴスの仮面を破壊したら、私がロゴスになるということも考えると…つ…、まり…


そこで私の意識は新たな夢の世界に囚われた。

愛しのミーシャの世界。少しだけわくわくするじゃないか。どんな夢をみてるんだい?

って、私は目見えないんだった。えー。

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