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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第一章 顔合わせから始めましょう。
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ファストステップ


( ๑❛ᴗ❛๑ )ぽよちゃんです。

風が吹いていた。

帆世静香が立っているのは、数キロメートル四方の小さな島の南端に位置する小高い丘。見下ろせば、島の中心には鬱蒼とした森が広がり、さらに奥には静かな湖が横たわっている。


プレイヤーのスポーンを示していた6本の光の柱は、すでに消えている。

丘の斜面をゆっくりと歩きながら、思考を巡らせる。


今、私が持っている武器は何だろうか。

先ほどのキリスト教徒じみた男、エゼキエル・ディ・サンティスから得た戦利品は、二本の十字架型のレリックと6RP。そのうち1RPはすでに使用済みだから、残りは5RP。


十字架のレリックは、彼があの不可思議な拘束能力を発動させた道具だ。もう一本拾ったけれど、こちらは能力も不明。


「レリック」


こうして発声すると、手元の十字架が巨大化する。

意識を外せば勝手に縮小した。


私が「レリック」と発声すると、急激に巨大化する摩訶不思議な聖遺物。だが、それ以上の超常の効果は発動できないでいる。


「ううーん。困るなあ。これが、武器かと言われると、違うんだよなあ。」


武器は誰かから奪えばいいか! という当初の予定が早速狂った。


武器はもっと…刀とかナイフとかを想定していたのだ。それで序盤の身体強化特化ビルドの隙を補うつもりだったが、当てが外れたとしか言えない。


「特殊すぎるでしょ、まったく。こんなもので人を殴るなんてイエス様も心外なはずよ。」


武器とも言えないレリックをポケットにしまいこむ。

武器がダメなら、次の重要なのはRPだ。


初戦の勝利は、そうは言っても非常に大きいと思う。そもそもプレイヤーは全員で7人。倒せる人数には限りがあり、一人倒すごとに強化されていくのだから。


積極的に考えるなら、プレイヤーはお互いに奪い合う宝箱のようなものだ。どうせ争うなら、できるだけ多くの人を倒す方が有利になる。


 

そのうちの1人を、開始早々んk倒した私の優位は間違いないものだ。だが、その有利は時間とともに薄れていくだろう。


困ったことに、戦闘力という意味では、現状不足している。

身体強化に全振りしたというのに、先ほどの男相手に純粋に力で勝てたとは言い難かった。今以上の戦力の確保は急務である。


「だったら、スキル、かな。」


ゲーム的解釈だが、スキルという異能にはかなり期待している。

人を拘束する魔法だってあるんだから、色々な特殊能力を得られるはずだ。


そして、習得するなら早いほうが良い。ぶっつけ本番で効果もわからず失敗はしたくないものだ。

……どこかの枢機卿みたいに。


「……よし、決めた。」 

「スキル習得に5RPを使うわ。」


息を吸い込み、ウィンドウに向かって宣言する。

一瞬、ウィンドウが微かに明滅する。


 ≪帆世静香:スキル《ファストステップ》を使用可能になりました。≫


スキルを選択できるのかと思ったが、即決されてしまった。

ランダムなのか、ルールがあるのかは不明だ。



「ファストステップ……?」



システムの説明をさらっと読み、自ら試してみることにする。

使い方は何となくは理解できる。

立ち止まり、軽く足を鳴らす。


――【ファストステップ】――

言葉と同時に、身体全体が淡い光を帯びる。

 

一歩踏み出した。


 バンッ!


突風が吹き荒れる。

私の体が、猛烈な速度で弾き出されたのだ!


 「――っ!」


壁にぶつかった後にスーパーボールのような加速。

景色が一瞬で流れ去る。


二の足、進行方向がズレて変に曲がり、通った後には千切れた草が舞っている。


「ぐっ……!」



三歩目でバランスを崩して、そのまま足をもつれさせながら、草むらに突っ込んだ。体が何度もバウンドしながら、ようやく止まる。


「くっそ、難しいわね……!」


手をついて起き上がり、荒い息を整える。走った後を見れば、たったの3歩で20m弱進んでいるじゃないか。

この速度で岩に突っ込んでいたら、大きなけがをしかねない。


それを想像すると、遅れて全身から汗が噴き出した。

――瞬間的な加速能力。それが《ファストステップ》。


 

これは、極めて有用だ。

私好みのスキルには間違いない。しかし、制約も厳しいと言わざるをえないだろう。


動き続けなければ効果は維持できず、一度バランスを崩すとスキルは即終了。敵の眼前で転ぶわけにもいかないし、使い時を慎重に選ばなければいけない。


戦闘への応用も工夫が必要だ。

直接的な攻撃力があるスキルでもなければ、光の縄で拘束するような理不尽な物理法則の無視をするわけでもないのだから。


 

戦闘に組み込むなら、短距離の奇襲や回避が最適か…。三歩で限界がくるのは、練習次第でまだまだ伸ばせそうだ。


慎重に分析しながら、立ち上がる。


________________________________________



しばらく森へと続く道を歩いていた。

森の入り口は、まるで異世界の門のようだった。


実際に昔の人は、森のことを異界だと考えていたようだ。フランス人のペローという人が、そのような事を考察している。


彼は童話を書いたことで有名であり、皆もよく知る赤ずきんの作者である。赤ずきん、ラプンツェル、白雪姫、眠り姫、ヘンゼルとグレーテル……多くの童話が、森を舞台にして不思議な体験をするという内容だ。


このように、森に入れば不思議な、危険な体験をするという教訓が込められている。ほかにも森に入る教訓としては、森を通過することで大人になるとか、人生を変える出会いがあるとかもある。


さて、目の前の森は、私にとって何をもたらすのか。

木々は天を覆うほど高く伸び、密集した枝葉が太陽の光を拒んでいる。森の中はひどく薄暗く、足元には濃い草が生い茂っている。奥へ進めば進むほど、まるで違う世界に迷い込んだような錯覚を覚えそうだった。


 


と、その時――焦げ臭い匂いが鼻をつく。

私は足を止め、鼻をひくつかせる。風向きが変わったのか、煙の匂いがさらに濃くなった。


「誰かいるようね。」


誰かいるのは間違いない。

ひとりで居るのかもしれないし、誰かと戦っているのかもしれない。ひとりで行動しているにしては、少々派手な音も聞こえてくる。


「きっと誰か戦ってるんだわ。」


もし、他プレイヤーの戦闘を発見できたとしたら幸運だ。漁夫の利を狙えるかもしれないし、少なくとも一方的に手の内を覗くことができるのだから。


身軽な動きで近くの木に飛びつき、枝をつかみながら素早く登る。身体強化の恩恵もあり、数秒とたたずに高い位置まで駆け上った。そこから森の向こう側を見下ろす。


湖のほとり——森がぽっかりと途切れ、開けた場所に炎が上がっていた。

 

二つの影が、火を挟んで対峙している。

一方は黒いローブをまとった魔法使い風の老婆。

もう一方は、上下白黒の袴姿の侍。大小二本の刀を腰に下げた、坊主頭の巨漢である。


私は目を細め、枝につかまりながら二人を観察する。


——あの男、どことなく同郷の雰囲気を感じる。


片手で枝をつかみ、もう一方の手で器用にウィンドウを操作する。ウィンドウが視界に浮かぶようになってまだ1か月ほどだが、すでに人類はスマホのように使いこなしていた。帆世も例外ではない。

周辺マップを開き、視認したことで空白だった島の地図に色がやどる。


異世界から人が集められ、お互いに争わされている島に、仮に同じ世界から参加者がいたらどうだろう。


ウィンドウを使えば、同じシステムを使っている者の名前が出るはずだ 。


検索をかける。ビンゴだった。


[こもじ]


…ッ!!! 

現れた名前に驚愕し、危うく木から落ちかけた。


一方で、ローブの人物には名前が表示されない。おそらく、このウィンドウに登録されていない存在なのだろう。()()()()()()()()()()()。例の枢機卿と同じ敵だと断定する。


 

それよりも——

"こもじ"とは、私にとって特別な人間をさす名前であった。


(´・ω・`)こもじです。

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