第三章:氷の宮殿への道
翌朝、リオは落ち着かない気持ちで目を覚ました。鍵の冷たさが妙に手に馴染み、昨夜の夢が現実のように頭に残っている。
「……私がどう選ぶのか~……」
リオは小声で呟いたが、返事をするのは微かな風の音だけだった。だが、その時、窓の外で雪の中にうずくまっているフロストの姿が目に入った。
「え!?、朝から何してるのフロスト!」
リオが窓を開けて声をかけると、フロストは振り返り、何とも言えない笑みを浮かべた。
「君が決心するのを待っているんだよ。」
「決心って……まだ何も言ってわ!」
フロストは軽やかにリオの家の軒先に移動し、目を輝かせて言った。
「リオ、昨日の夢、見ただろう?」
「……なんで知ってるのよ?」
「僕は君のガイドだからね。あの宮殿は現実に存在する。そこに行けば、君が鍵をどう使うべきか、きっと答えが見つかる。」
リオは目を見開いた。まさか、夢の中の宮殿が実在するとは思いもしなかった。
「でも、そんな場所どこにあるの?」
フロストはニヤリと笑うと、足元の雪をふっと吹き飛ばした。その下には、氷でできた小さな地図のような模様が刻まれていた。
「この村から北へ行った先。氷の魔女が封じられた場所さ。そこに宮殿がある。」
リオはしばらく迷ったが、結局、フロストの案内に従うことにした。村での生活に退屈を感じていたこともあるが、何よりもあの鍵の謎が気になって仕方がなかったのだ。
準備を整えたリオは、フロストとともに北の森へと足を踏み入れた。雪深い森は静寂に包まれ、吐く息が白く凍りつくようだった。
「ここから先は慎重にね。魔女の力の残滓が辺りに漂っているから。」
フロストの忠告にリオは小さく頷きながら、慎重に進んでいった。
森を進む中で、突然、足元の雪が動き出した。リオが驚いて振り向くと、雪から人型の影が立ち上がった。それは、村人の姿を模したような不気味な氷の像だった。
「なにこれ……!」
「魔女の守護者だよ。君を試すために現れる。」
フロストの言葉にリオは構えるが、武器など持っていないことを思い出して焦る。しかし、氷像は攻撃してくる様子もなく、静かにリオを見つめている。
「選ばれし者よ。己の心に問いかけよ。真にこの鍵を持つ資格があるのか?」
低く響く声が森中にこだました。リオは思わず後ずさるが、その言葉に答えなければ進めないことを悟った。
「私が……鍵を持つ資格?そんなのわからないわ。でも、私はこの村を守りたい!ただ退屈だからじゃない……本当に守りたいから、この道を進む!」
リオの叫びが森に響くと、氷像は一瞬だけ微笑むように見え、次の瞬間には崩れ落ちて雪に戻った。
「よくやったよ、リオ。君の覚悟が伝わったみたいだ。」
フロストが励ますように声をかけるが、リオはまだ心臓の鼓動が速いままだった。
試練を乗り越えたリオは、森の奥にそびえ立つ壮大な氷の宮殿へとたどり着いた。宮殿は透明な氷でできており、反射する光が虹のように輝いていた。
「これが……夢で見た場所……」
リオが呆然とつぶやくと、フロストはゆっくりと頷いた。
「さあ、リオ。中に入ろう。宮殿の中心には“氷の鏡”がある。それを見れば、君の進むべき道が示されるはずだ。」
「氷の鏡……?」
リオは胸の鍵を握りしめながら、宮殿の大扉を押し開けた。その中にはさらに不思議な光景が広がっていた。冷たい空気とともに、美しい音楽のような風の音が響く。
彼の心にはまだ迷いがあったが、それでも足を止めるわけにはいかなかった。