第一章:雪に閉ざされた村
人生初小説です
ユキノ村は、白銀の世界に包まれていた。
山々に囲まれたこの村は、冬の間、まるで時が止まったかのように静寂に支配される。毎年11月、初雪が降り始めると、村の人々は家の外で過ごす時間を減らし、暖炉の火を絶やさないよう心がける。雪が降り続けるうちに、道も屋根も白一色に塗りつぶされ、やがて村全体が雪に閉ざされるのだ。
そんな村で、今日もひとりの少年が小さな騒ぎを巻き起こしていた。
「リオ!またか!」
中年のパン屋フランツが怒鳴り声を上げる。その目の前には、雪玉を手に大笑いしているリオの姿があった。リオは村一番のいたずら好きな少年で、手先が器用なことも相まって、村中で悪戯の標的にならない者はいないと言われていた。
「へへ、フランツおじさんのパン屋看板がちょっと雪まみれになっただけだよ!かっこいいでしょ?」
「この冷え込む朝に誰が雪で飾りつけなんかしてほしいと言ったんだ!」
怒鳴りながらも、フランツはリオを追いかけようともしない。村の大人たちは皆、このいたずらっ子に手を焼きながらも、どこか憎めないその笑顔に目を細めていた。
リオが家に戻る頃には、夕陽が山の向こうに沈み始めていた。家は村の外れにあり、母が残してくれた小さな木造の家だ。母はリオが幼い頃に亡くなり、父も仕事で村を離れたまま戻ってこない。そのため、リオは一人で生活していた。
「さて、ばんごはん~っと」
小さな暖炉を見つめ、リオはつぶやいた。鍋に少し残っていたスープを温め直し、かじるように硬くなったパンを手に取る。リオにとって、これがいつもの日常だった。
その夜、村を覆う雪の中で、ひとつの不思議な出来事が起きた。
リオが眠りに落ちようとしていたとき、家の前からかすかな声が聞こえた。「誰……?」目をこすりながら玄関の扉を開けると、そこには大きな雪だるまが立っていた。
もちろん、この村には雪だるまを作る人が多い。しかし、この雪だるまにはひとつだけ奇妙なことがあった。胸のあたりに、古びた鍵が刺さっていたのだ。
「なにこれ……?」
リオは鍵を抜き取ってみた。ひんやりと冷たいその鍵は、不思議な模様が彫られていて、どこか引き込まれるような感覚を覚えた。その瞬間、背後から雪がざざっと音を立てた。
「はじめまして、リオ」
振り向いたリオの目に映ったのは、雪だるまがゆっくりと動き出し、こちらを見つめている光景だった。雪の体の中に、小さな青白い光が揺れている。
「あなた……誰よ!?」
リオは後ずさりしながらも、その場に釘付けになった。雪だるまは少しだけ笑ったように見えた。
「私はフロスト。この村に古くから住む冬の精霊さ。そして、その鍵は……君が見つけたんだね?」
「見つけたって……これは一体なんなのよ?」
フロストは静かに語り始めた。
「それは『雪の約束』の鍵。この村に伝わる伝説を、本当に紐解く者にだけ与えられる、特別な鍵だよ。」
こうしてリオと冬の精霊フロストの出会いが幕を開ける。この夜を境に、リオの運命は大きく動き出そうとしていた。