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ep.08



「ねぇ、カルマ様ぁ。最近さらにカッコよくなったぁ?」


右後ろで楽しそうにウサギの面を被った者が話す。まるでスキップしているようだ。


「そうかな?」


カルマと呼ばれた先頭歩くフードの男も満更でもなさそうに返事をする。


「そうだよ、そうだよ!さらに冷たくなったって感じ。たまらないよねぇ。ね!ベリアル!」

「主人はいつでも美しい」

「ベリアル、君がそれを言うかね。ウェパルも、冷たいってそれ褒めてるの?」


褒めてるよ〜。

先程、会議の時の無機質な雰囲気とは裏腹にまるでそんなもの無かったかのように談笑する三人。


暗く長い、まるで出口がないような廊下をローブ姿の三人が歩く。歩いているのに足音はなく声だけが響く。三人が歩く場所だけに蝋燭が灯り、歩いてきた場所は消えていた。

灯りがなければ、漆黒のローブが暗闇に溶け三つの面だけが不気味に浮かんでいるようにみえるだろう。

そんな三人の目の前に突如として現れた簡素な扉。木の板に錆びたドアノブがついた、どこにでもある扉。それを握り引けばギギィと鋭い音が聞こえた。中からッヒと声が漏れている。


「どう?話す気になりました?グレッグル男爵」


暗闇の中で怯える息音が聞こえる。


「わ、私が知っている事は全て話しただろ。早く牢へ連れて行ってくれ。いつまでこんなことが続くんだ!!」

「ちょっとぉ!喚かないでよね、カルマ様にあんたの汚い唾がかかったらどうするのよ!」


ウサギの仮面、ウェパルが腰に手を当てて男に怒ってる。怒るとこそこなんだ。


「主人様を穢すなど許さない」


鴉の仮面、ベリアルが懐からナイフをとりだした。お前までウェパルにのらないで。


「全く、君たちは。ごめんね。グレッグル男爵。それより、本当に話す気はない?このままだと、あなたの可愛い姫にまで手が及ぶよ?」

「な!?娘は関係ないであろう!」

「うん。関係ないですよ。関係ないことに巻き込んだのはあなたですけどね」

「頼む!家族には手を出さないでくれ!」


何だかおかしいや。 


「愛してるんですね、家族を。いいなぁ。」

「そうだ!愛してる。これまでも全て家族の為にやってきたことだ。金が必要なんだ!分かるだろ?お前達にだって家族がいるだろ?愛してもらったんだろ?なぁ、そうだろ?」

「うーん。どうだろ」


その愛とやらで家族を窮地に追い詰めてるんだからね、どうしようもない。あれ、これなんて言うんだっけ。


...それにしても左胸かなぁ。この気配。供物になってる。話せば終わり、話さなくても終わる。やるせないね。


「一つ提案しましょう。私たちの駒になるなら、まぁ、家族くらいは見逃してさしあげます。

「す、するさ!何だってする!」

「大胆ですね」


その時一枚の紙が上から降ってきた。

目の前まで落ちてきたそれを掴み、内容に目を通す。


「はぁ、相手もなかなかだ」

「あれぇもう終わり?」


ウェパルがつまらなそうな声を出す。


「そうみたいだね。終わりだ」


目の前に縛り付けられたグレッグル男爵がほんの僅かに安堵の表情を浮かべた。まぁ、ある意味呪縛からの解放だ。間違ってはない。


「男爵に接触してもらおうと思っていた人達が消えちゃったらしくて。残念。敵国の人間だからどちらでもいいけれど、これじゃあ男爵の出番はないね」

「そ、それはどういうことだ!彼らがいなくなったというのか。裏切ったのか!この私を!」

「さぁ、そこには興味がないから分からない」


彼も使い捨てだったか。

グレッグル男爵は俯いてぶつぶつ何かを呟いている。絶望と仲良くしているのだろう。

左胸の術式も僅かに動き始めた。恐らく、裏切りは内臓と交換なのだろう。それも癪だからあげないけどね。


「なんか無駄足だったなぁ。辛い」

「どんまいだったね、カルマ様ぁ。きっといいことあるよ!」

「しょぼんとした主人様も美しい」


そこに面が一つ浮かび上がった。


「あれ、プラ。どうかした?」

「次の仕事がきたよ」


ひらひらと光だけの蝶が、プラと呼ばれた猫の仮面を被った者の肩に乗る。


「そう。忙しいねぇ。じゃあ行こうか」


四つの仮面はそれを合図に、音も無く消え、それまでの空間は無に還った。





「おや、アルク!もう帰ってたの?仕事が早いねぇ。頼もしいねぇ」


養父であるロイドの書斎に当たり前のように用意された僕専用の机で、僕は当たり前のように養父の書類に目を通していた。部屋の主人は相変わらず穏やかな笑みを浮かべているが、目元の疲れは隠せないのだろう。朝、屋敷を出る前よりも影が差している。

彼が自席に着くのを見計らって立ち上がり、お茶を淹れる。最近激務だった養父のために用意してもらったハーブだ。ティーポットにお湯を注いだ瞬間湯気と共にふわりと甘酸っぱい香りが広がった。カップに注げば鮮やかな赤色で満たされる。このハイビスカスティーは酸味があるのが特徴だ。目の疲れや疲労回復にいいらしい。ぼくはこの酸味が苦手だったのでハチミツを少し加えた。養父の分も勝手に入れた。


「どうぞ」


養父に差し出せば、嬉しそうに目を細める。

僕は養父に感謝している。育ててもらった恩がある。それに恐らく愛情というものももらったのだろう。でも、こういう反応は今だに慣れない。カサブタの上を撫でられるような、そんなむず痒い感じ。


ほっと一息をついたところで、養父は口を開いた。


「ごめんねぇ、そっちも最近忙しいでしょ。今日も追加で仕事回したから」


カップの中を覗きながら養父は言う。


「大丈夫かい?君は優しいからね」

「僕は普通ですよ」

「はは、そうかい?」

「そうです」


養父はいつも穏やかだ。穏やかな人ほど裏の顔は怖いのだとこの人から学んだ。

友人にそれを言えば、よく似てると言われるのは今でも納得がいかないが。

カチャリと音を立ててソーサーの上にカップが戻された。そして養父はこちらを向く。


「アルク、次の仕事だよ」


心配した割にこれだ。恐ろしいよ、本当。


「はぁ、何でしょう」


そんなあきれた顔しないでよぉ!

と、くちを尖らせる養父を無視してカップに口をつけた。少し冷えると余計酸味が際立つな。


「アルク、表に出てきなさい」


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