ep.03
あれから数日。
紆余曲折あって僕はロネリアの世話役兼護衛を賜った。
なぜなら...
僕が頼み込んだからだ。
助けてくれた恩返しということで。
だって興味しかないじゃないか。彼女はとても面白そうだ。なによりワクワクが第一優先。凄まじい魔力量に、思いとは裏腹な言葉遣い。ロネリア様のそばに居たらきっと楽しい!それに、お世話になったお礼をしなくてはと思っているのも事実だし。きっと何かの役には立つし、大抵の事からは守ってあげられるからね、僕。
「アルク、そろそろ戻って支度をしなさい」
「はい、ロジャーさん」
裏庭の掃除をしていた僕を、ロジャーさんが呼びに来てくれた。ここにいる人達は皆んな優しいし良くしてくれる。見ず知らずの僕にそんなに良くして大丈夫?もし、僕が間者だったらまずくない?っと、僕が心配してしまうほどに。けれど、どんなに僕の事を使用人の皆が怪しいと思っていてもロネリアがいいと言えばそれで良いらしい。
ロジャーさんが言っていた。
『ロネリア様を否定することは決してない』
言葉の裏は読んでも疑うことはないのだと。その盲目的な敬愛に違和感を覚えるほどだったけれど...尚のこと面白い。これが僕の感想だった。
支度を終えて制服姿のロネリアと一緒に馬車に乗った。王立学園へ通っている彼女は今日から学年が変わり最高学年になるそうだ。僕が出会った時は長期休暇中だったらしく、制服姿の彼女を初めて見る。
馬車の中で正面に座っている彼女は相変わらずの無表情だ。けれど、ここ数日共に過ごして何となく人となりが分かってきた気がする。彼女はとても素直で可愛らしい子だ。言葉遣いは相変わらず。無表情に関しては、感情を表に出す事を諦めているように思うけれど、本当はとても可愛くて純粋で優しすぎる子だった。心配になるくらい。
それにしても...
ーーー制服姿可愛いな。ブレザーに赤色のリボン。裾の広がったスカートもとても良く似合ってる。
なるほど、ロジャーさんが言ってた事も頷ける。
僕が護衛に任命されたのはロネリアと年が近かったからだ。実際には僕の方が上だけどまぁ、誤差だろう。学園でも彼女を守れるよう僕も共に学園に通う事になった。いくら言葉の壁があろうとも、この容姿に身分。彼女を狙う輩は山のようにいるだろう。
どうやら従者も学力、魔力が基準に達していれば主人と共に学生として通えるらしい。テストも先日受けて合格した。しかもロネリアは選抜特魔科という、学園の花形であり、最高学年の生徒の中からほんの一握りの人間しか選ばれない超エリートクラスに在籍しているらしい。そして、そこに入る為の試験は流石の僕でも少し疲れた。合格することができて何よりだ。
馬車の窓から外を見れば学園らしき建物が見えて来た。まともに学園に通った事がなかったから新鮮でなんだかワクワクする。
「今日から学校楽しみですね」
そう話しかけると、彼女はほんの僅かに肩を揺らした。
「アルク、その制服...似合わないわね」
「ありがとうございます。ロネリア様も制服お似合いですよ。すごく可愛いです」
彼女との会話も少しなら出来るようになった。彼女の反対言葉に慣れてしまえば脳内で勝手に言いたいであろう言葉に変換されるようになったのだ。今だって僕の制服姿を見て似合ってるって言ってくれたのだろう。ほんとうに可愛らしい人だなと思う。
そして、僕も制服姿の感想を言うと無表情のまま頬をほんのり桃色に染めてそっぽを向いてしまうのだ。
あっという間に馬車は学園へと着いた。馬車が止まるとロネリアは制服の上からローブを羽織った。それに倣って僕もローブを羽織る。このローブは女子は短く男子は長い。女の子は動きやすそうでいいなと思う。ローブは元々好きじゃない。動きにくいだけだし。けれど、彼女とお揃いなら悪くないなと思う。このローブが特魔科の生徒であるという目印らしいから、さらに彼女は目立つのだろうな。
馬車は所定の場所で止まった。
そして、ロネリアが先に降りる。本来であれば、僕が先に降りて彼女をエスコートするべきなのだが、彼女からの命令で僕は少し遅れて馬車から降り、別々に教室へと向かうことになっている。
彼女が降りてしばらく経った後、別の場所に馬車を停めてもらい教室へ向かった。
護衛なのだから常に一緒にいると思っていたが、教室でもただのクラスメイトを装うことになっている。なぜそんな事をと思っていたが教室に向かうまでに答えはあった。
急いで彼女の後を追い、やっと後ろ姿を捉えた時だった。彼女の容姿やローブへの注目とは明らかに違う視線の数々。そして聞こえてきた、生徒たちの声。
「見て、ロネリア様よ」
「まぁ、あのローブ!なんであんな方が特魔科に!?」
「きっとお得意の嘘で先生方に取り入ったんじゃないかしら?」
「確かに、容姿と身分だけは良いですものねあの方」
「性格がとてもひどいらしいですけれどね。」
「まぁ、言い過ぎよ。おほほ」
「顔は良いのにな、もったいないよな」
「性格が最悪なんだっけ?それにしても一人はかわいそうだしちょっと遊んでもらおうかな俺」
「おいおい、ばかだなぁ。いくら狼令嬢でもお前の身分じゃ無理だよ」
「たしかに!あはははは」
「いや、でも公爵には縁を切られてるんじゃなかったか?」
「じゃあ、やっぱ俺イケるんじゃ?」
あ〜。なるほど。
彼女は良く思われてないのか。それにしても、品の無いことを言う生徒達だなぁ。
狼令嬢というのはオオカミ少年からとったあだ名みたいなものだろうか。彼女の言葉遣いは皆んな知ってるということか。
まぁ、そうか。だから、離れていろと...。彼女の事だから自分の評判の影響が僕にあったらいけないとか何とか思ってるんだろうな。そういうところも可愛いけれどあんまり良くは思えないな。...ま、僕には関係ないけど。
それにしてもなるほどね。
ロジャーさんが彼女を守るようにと何度も言っていた理由が分かった。
先を歩く彼女はピンと背筋を伸ばして歩いている。まるで何も聞こえていないかのように。そんな彼女の後ろ姿がいつもよりすこしだけ小さく儚く見えた。




