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第84話 後半 C

 ナハトが厨房で世話になっている数人に食事への声掛けを行うと、面々は分かりやすく色めき立った。ただ飯が食える、ということもあったが、武骨なナハトが私的な用事に家臣達を誘うという出来事が重大だったためだ。

 いつも使っている所では面白くない――ということで、結果七人の所帯となったむさ苦しい男達は、大通りに面した評判のいい酒場に入った。


「たまにはいいもんだろ、ナハト」


 若いコックが麦酒を煽って言う。


「何がだ」

「男だけってのもさ。お前さんはいつも女と居て、まあキレイ所ばかりだから不満はないのかもしれんが、男だけだとまだ気楽なもんだろう」


 ふむ、とナハトは曖昧に頷く。


「誤解があるのかもしれないが、俺は別にノインやアーベントと妙な関係にあるわけじゃない」

「シュティレちゃんは?」

「同様だ」

「妙な関係にない方がよっぽど妙だっての」


 コックの言葉に、ナハトを除いた全員が笑う。

 馬鹿にされたものだ、と思いながらもナハトは居心地の悪さは感じていなかった。

 誰もが、自分が幼少の頃からこの屋敷に居るか、あるいは自分の方が先に勤めていたような間柄だ。若いコックが言うように、確かに気楽と言えば気楽だ。


「そういやお前、先月、ナハトが遠出したら今度こそシュティレに告白するとか言ってなかったっけ?」

「……聞くなよ」

「あ、そうか、そうか。そういうことね」

「どういうことだ?」

「ナハト、お前、残酷だな~。こいつの表情を見たら、こっぴどくフラれたに決まってるだろ」

「こ、こっぴどくはねぇよ! 今はまだそういうことを考えられないって言われたんだ。今はまだ、ってことは、これからまだ可能性があるかもしれないってことだろ。そういうお前だって、アーベントさんがどうのこうの言ってたじゃねぇか」


 どうやら、ノインもアーベントも、そしてシュティレも、家臣の間で相当に話題に上っているようだ。


「ロイエ様を口説こうという奴はいないんだな」

「ナハト……お前、そりゃさすがに無理ってもんだろ」

「そうそう。このフェアトラウエンのご主人様だぜ。やんごとなき方の所に嫁ぐか、あるいは婿を引き入れるかっていうのは目に見えてる。俺ら下々の人間の相手をしてくださるような人じゃないって」


 それを言うなら、ノインは女神様なのだが、それは「元」だからいいのか。


「そういや、他国からお呼びがかかったほどだし、いよいよロイエ様もそういうことになるのかねぇ」

「これまでに何も縁談がなかったっていうのも、おかしな話だけどな」

「前にしつこく声をかけてきた、ユスティーツの貴族がいたけど、不慮な事故だかなんだかで死んじまったもんな」

「いい気味だったよなぁ、実際――と、こんなお上品な店でこの話題はまずいか」


 男達はにやりと笑い、それぞれにグラスを持った。


「それじゃ、次は――最近世話になった女の子自慢、って話題でどうだ」

「それこそまずい話題だろう」

「違いねぇ」


 七人の祝宴は、それからも長いこと続いた。

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