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第84話 次の段階へ

 ナハトの報告を聞いたロイエは、ナハトとシュティレを交互に見て、ゆっくり口を開いた。


「ナイトウ=ライは死に、ナハトには何らかの変化が起きた。また、アンムート家がロアリテートの動きについて知った、と」


 ナハトの報告の中には、ノインの正体については含まれていなかった。

 ノインとしては、生真面目な青年がそこまで語るのだろうと覚悟はしていたのだが、ナハトはそうはしなかったのである。

 隣で報告を聞きながら首を傾げそうになり、ノインはぐっとこらえて素知らぬふりをした。


「ナハト、シュティレ。二人には、ひとまず三日間の休みを申し付けます」


 驚きながらも小さく頷くふたりに、ロイエは言葉を次ぐ。


「ナハトに生じた変化について、体を休めながら調べてください。ただ、グリュックだけに任せるわけにはいきません。彼の調査や研究は、少し偏る傾向がありますから。シュティレが彼の補佐としてつきながら、ナハトの休養もある程度コントロールしてあげてください。放っておくと働きたがるでしょうし」


 その言葉にノインが苦笑し、それをナハトが横目でにらんだ。


「私は何をしたらいい?」

「これまで通り、自由に過ごしてくださって構いませんよ。ただ、市中を散策している中で、気になることがあったら教えてくれると助かります」

「何か、心当たりがあるってこと?」

「考えたくはありませんが、グラツィアにこちらの意図を知られた以上、不測の事態が起きる可能性はありますから。聡明な彼女が軽々しく人に話すはずはありませんが、すべての事柄を秘密にし続けておくこともまた困難なこと。これまでよりも、多少は警戒心を強めた方がいいでしょう」


 ふむ、とノインは頷いて応えた。


「やっぱり、私達の活動を知られたのは、まずかったか」

「隠し通せればよかったとは思いますが、禍福は読み通せません。もしかしたら、グラツィアが書いてよこした手紙には、今後は互いに隠し事なく、互いに手を取り合いましょうと書かれていました。その言葉の通り、アンムートの助力を得るような展開になるかもしれませんし、逆に動きづらくなる部分も出てくるかもしれません。ですが、なんにせよ、私達が為すべきことに変わりはありません。邪魔立てするというのなら排除するだけです」


 ロイエの月色の瞳が鋭く光り、ノインは思わず表情を固めた。彼女の眼光は、レーラーが剣術の達人として見せる強さや、ナハトが暗殺者として覗かせる危うさとは違う種類の、独特の強さをもっていた。


「ふたりへの褒賞は、既にそれぞれの部屋に置いてありますから、受け取ってください。それと、わたくしからもひとつ、貴方達に知らせておくことがあります」


 そういって、ロイエは机の引き出しから書簡を取り出した。

 ナハト達がアンムート家から預かってきたものと同程度か、それ以上の羊皮紙に見えた。


「これは、西の隣国ヴァールハイトから送られてきたものです。書状に署名しているのは、最西端の街ザントの代表シャルフリヒター」

「代表――って、領主とは違うの? ロイエとかグラツィアみたいな」


 ノインの疑問に答えたのはシュティレだった。


「ヴァールハイトは選挙によって地方の代表を選出し、その人達が中央都市ルフトに集まって政治を決めるという方法をとっている国です。シャルフリヒター氏が代表となっているザントは、西方の砂漠ヴュステに建てられたオアシスの街。ヴァールハイトの東西南北四つの都市の中で、もっとも人口が多く、もっとも有名です」

「民主主義ってやつね。この世界にも、そういう発想があるんだ」

「そのシャルフリヒター氏から、招待状が届いたのです。グーテ王国中に名の知れたロアリテート家の当主を、大陸一の街にお招きしたい、と。ついては、来週開かれるという祭りを提案されました」


 ナハトが首をかしげる。


「なぜですか?」

「書かれてはいません。ですが、察するに、国王を失ったグーテ王国に対して影響力を持ちたいのでしょう。ここフェアトラウエンは交易都市ですから、ここにパイプを持てば様々な分野で得られるものがあります。どこまでが狙いかはわかりませんが、まずは手始めに、わたくしを品定めしたい――とまぁ、そんなところではないでしょうか」

「品定めって、なんか嫌な感じね」


 口を尖らせるノインに、ロイエが穏やかに笑う。


「先方が女性好きというのは周知の事実ですし、ロイエ=ロアリテートという人物が若くして当主の座に就いた女だということもまた世間に知られたことですから。なるべくしてなった展開ですよ」

「それじゃあ、その――ザントっていうオアシスの街に行ってみるの?」

「アーベントとモルゲンの帰還が間に合えばよいのですが、そうでなくとも、三日後にはフェアトラウエンを発とうと思います。グーテ王国領内の渡り鳥については落ち着いてきたところですし、ヴァールハイトの実情について知るにはよい機会です。今後の見通しとしてはそのような感じですが、誰を伴っていくかまでは決めていないので、追って知らせます」


 ナハトとノインは同時に頷き、シュティレも小さく頷いた。

 レーラーが執務室に残る素振りを見せたので、三人はそれぞれに退室の言葉を発して廊下へ出た。

 ナハトが自室へ戻ると、テーブルの上には例の金属製のカードが見えた。


「……忘れない内に、使ってしまうか」




A:シュティレと交わしていた「次の機会」の約束を果たす

B:ノインと交わしていた「次の機会」の約束を果たす

C:前回とは違う誰かを食事に誘う

D:詳細な報告も兼ねてロイエを食事へ招く


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