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第81話 後始末

「死の際に瀕し、魔法の力に目覚めたということだろうな」


 ゾルダートが近付きながら言葉を紡いだ。


「古来より、人は死を覚悟したとき、その危機を脱するために新たな力に目覚めるとされてきた。実際、このアハトゥングの街にも、同じようにして魔法の力に目覚めた者はいる。ナハトも、この決闘の中で命を危機に晒し、魔法を使えるようになったのだろう」


 ナハトは、ノインと目が合ったが、口はつぐんだ。

 既に魔法を会得している者が、さらに魔法の力に目覚める。

 そんなことがあり得るのか。

 前例はあるのか。

 グリュックなら、何か知っているだろうか。

 だが、現状、自分がどんな力に目覚めて、どうやってナイトウを倒したのかが分からない。

 再現性がない。

 あるのは、何らかの魔法に目覚めて決闘に勝ったらしいという事実だけだ。


「息を引き取りましたぁ」


 グラツィアは言った。


「このようなことになったとは言え、彼の行いが英雄的であったことは紛れもない事実。丁重に弔っても構わないでしょう、ナハト?」

「――はい」

「それと、この決闘の真意を、教えてもらうことは出来ませんかぁ?」


 ナハトはぎくりとしてアンムート家の当主を見た。


「実際のところ、貴方とノインとは、そういった仲というわけではないでしょう? 名誉を取り戻す目的で決闘という手段を使った――のではなく、決闘という目的のために名誉という手段を用いた。違いますかぁ?」


 穏やかな口調で、しかし槍のように鋭い視線がナハトを、そしてノインを順に射抜いた。

 考えてみれば、不思議なことではない。

 彼女は、ロアリテート家と並び称されるアンムート家の、現当主なのだ。


「ここにはあなた方の他には、私とゾルダートしか居ません。ロアリテート家が――ロイエが、ここ数ヶ月で食客を招いているということは既に掴んでいます。また、それらの人物が各地を来訪しているということも。あなた方も同様でしょう。例の狂犬兄弟や魔獣の騒動とは全く別の意図があって、このアハトゥングの街を訪れたのでは? その目的がなんであるのか、教えてくれませんか?」


 風が吹き抜けていく。

 嫌に肌に冷たい、無感情な風だった。


「――まぁ、密命を受けるほどの忠臣であれば、なおのことロイエの承諾無しに話すことは難しいですよねぇ。分かりました。では、貴方達を脅迫することにしますぅ」


 グラツィアはにっこり笑った。


「真実を教えてくれなければ、あることないこと言いふらします。もちろん、それはロアリテート家の名誉を大きく損なうことになるでしょう。さぁ、ロイエを守るために、白状しなさぁい」

「……私が話すわ」

「ノイン」

「あらら、ナハトが話す? どっちかというと、私の方が向いてると思うわよ」


 ノインは笑って、グラツィアとゾルダートに語り始めた。

 ロイエが元々転生者に対して手を打つべきだと考えていたこと、彼らへの対抗策として魔法の力に目覚めた者や剣技に優れた者を集めていること、そして実際にこれまでに数人の転生者を亡き者にしてきたこと。

 だが、ノインは個々の能力については語らなかった。ナハトが既に魔法の力を持っていたことやノインの出自、あるいはアーベントやモルゲンの魔法の詳細。グラツィアの反応を見ながら、ノインはグラツィアが必要としているであろう情報だけを選択していた。

 グラツィアの方でもまた、ノインがそういった意図をもって探りながら言葉を選んでいることを汲み取り、不明瞭な部分があっても深く追及しなかった。


「なるほど、なるほどぉ。よく分かりました。ロイエらしいと言えばロイエらしいわねぇ。転生者に恃むことに疑念を抱いていたのは元々のことだけれど、そんな大それたことを協力者もなしに単独でやろうとしているというあたりが、特にぃ――……」


 グラツィアは、ほぉ、とため息をついて、ゾルダートに視線を移した。


「言うまでもありませんが、他言は無用ですよぉ。貴方からレーラーに問いたいこともあるでしょうけれど、ここはまず、私がロイエに書簡をしたためますから。アンムート家の当主からロアリテート家の当主へということではなく、古い知己として書きますから、帰りがてら、お二人に持って行ってもらいましょう」

「かしこまりましてございます。ナイトウ=ライについてはいかがいたしますか」

「『ベスティエ』です」

「はっ」


 あっさりと進んだ会話に、ナハトとノインが同時に首をかしげる。

 それを見て、グラツィアはクスクス笑った。


「あくまでも任務として組んでいるものかと思っていましたが、それなりに息が合ってますねぇ。剣士としてのものか、はたまた別の要因があるのか。それは置いておくとして『ベスティエ』について説明が必要でしょうねぇ」

「言葉の意味するところは『獣』よね」

「ご名答ぉ。ここアハトゥングの街には、古来より『ベスティエ』という恐ろしい存在が居て、治安を著しく乱す者や、民の安全を脅かす者を人知れず嚙み殺すんですよぉ。フェアトラウエンでも、同じようなことが度々起きていると聞いていますよぉ」


 ニコニコと笑いながら、グラツィアはゾルダートに同意を求めた。

 老紳士は姿勢を正したまま、こくりと深く頷いた。


「ナイトウ=ライ殿が各地の村々を救ったことは事実ですが、先々で女性に鼻の下を伸ばしていたという話もありますし、客人に懸想して斬り伏せられた――いえ、噛み殺されたということであれば、そこに疑義を挟むものはないでしょう。大暴走スタンピードの防止の立役者ではありますが、騎士団も大規模に動いていましたから、彼らの功績であることを強調すれば混乱も起きないでしょうし」

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