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第77話 午前の出来事

「考えてみてもらえませんか」


 ノインの頭に、ふと、これをナハトに教えたらどうなるのだろうという疑問がわいた。

 ナイトウから愛の告白をされちゃった、と告げたら、どんな顔をするのだろう。

 笑うだろうか。

 怒るだろうか。

 後者だったら――なんとなく、嬉しいかもしれない。

 もちろん、彼が「ノインは俺のものだ」なんて言うはずがないことは分かっているけれど。


「私とナハトが、本当に恋人同士だったらどうするの?」

「それは――」


 ナイトウがぐっとなって下を向く。

 そして、また、きゅっと口を結んで、顔を上げた。


「そのときは、ちゃんと身を引くっス。でも、チャンスがあるなら、そこに賭けたい」

「――わかった。それじゃあ、とりあえず、ナイトウの目的はこれで達成されたと思っていいのかな」

「え? いや、まぁ、そういうことに――なるかな」

「男一人じゃ入りにくいところがある、っていうのは、私を連れ出すための体のいい口実だったってワケだ。嘘をつく男の人って、どうなんだろな~」

「や、いや、それは、その……」

「さ、だいぶ冷めちゃったみたいだし、食べて帰りましょっか」

「は、はい……」


 持ち前の軽妙さを取り戻して、ノインはその話題を終えることにした。

 そして食事を終えて、言葉の通り、二人は屋敷へと帰った。

 互いに一言二言を交わし、部屋に戻り、ノインは女中の一人を呼び止めた。


「ナハト、どこにいるか分かる?」

「ゾルダート様と、街にお出かけになられましたよ」

「あの人と? どこに?」

「そこまでは……」


 となると、今すぐに話をするのは無理か。

 帰ってきてからにしよう、とノインはあきらめ、女中に礼を言って部屋に引っ込もうとした、そのときだった。

 玄関広間から、複数人の男性の声がする。

 吹き抜けから顔を覗かせてみると、そこにはナハトとゾルダートがいた。


「ナハトッ」


 顔を覗かせると、ナハトはやれやれと気まずそうな表情を浮かべ、隣のゾルダートは笑い声をあげた。


「それではな、ナハト」

「はい。色々と、ありがとうございました」


 深々と頭を下げるナハトの手には、長い白布があった。

 見たところ、剣を包んでいるように見える。

 ノインは階段を降りていった。


「それは?」

「ゾルダート様に、餞別としていただいた。先生が貸してくださったものと同等の一振りだそうだ」

「なんでまた」

「手ほどき――といえるレベルではなかったが、訓練をしてくださってな。実力を認めてくださって、相応しいものを使うようにと」


 見ると、ナハトは肩で息をしていた。

 珍しいことだ。

 どんな状況でもいざとなれば呼吸を静めて術を使えるようにしている、と自負していたのに。


「凄まじい技量だったよ」

「レーラーよりも?」


 ナハトは一瞬の迷いを見せた後、小さく頷いて応えた。


「あらら、それなら私もそっちに行けばよかったな」

「どうだったんだ」

「ん、と……ここではちょっと、言いにくいかな」

「なら、あとで部屋に行く。まずは汗を流させてくれ」


 ノインはナハトの言葉を承諾して、今度こそ部屋に帰り、なんとなく気忙しさを覚えながらノックを待った。

 ほどなく、期待した音と声が部屋に響いた。

 室内の椅子に腰を下ろしたナハトに、ノインは事の詳細を告げた。とはいっても、客観的な事実のみに留め、自分が抱いているナハトへの想いには極力触れないまま。

 ノインは、ナハトが苛立つような反応をするのを期待していたが、彼は話を聞いて黙ったまま、何か思考を巡らせているようだった。

 そして、一言、よしと言った。


「うまくいくかもしれない」


 首を傾げるノインを見据えて、ナハトが続ける。


「ナイトウが告白を口にしたのは、開けた場だったんだな」

「うん。オープンカフェっていうのかな。テラス席で、満席だったし……」

「それが分かれば十分だ。彼を殺す大義名分が出来る」

「ちょっと、一人合点してないで、ちゃんと説明してよ。私的にはどうあれ、一応仲間って言うか、パートナーであることは事実でしょ。どうして人前で愛の告白をすることが殺人の理由になるのよ」


 ナハトは深く頷いた。


「こういう筋書きだ。俺とノインは、ロアリテート家の使者としてここに来た。外面的には恋人であるかのようにして。そのことは、街の騎士団の長である三人にも見せているし、ゾルダート様も俺達の仲を囃すくらいには思っている」

「囃すって?」

「式には呼んでくれ、と言われたんだ。レーラー師にそういうことがなかったからと」


 ふむふむ、とノインも頷いて応える。


「私とナハトの関係が結婚秒読み、くらいに思われてるってことね。それで?」

「ナイトウがやったのは、一応は公的な関係にある男女の仲を引き裂く行為だということだ。俺自身は貴族ではないが、ロアリテート家に長年仕えている身分だから、名誉がないこともない。それが傷つけられたと激昂してもおかしくない立場だ」

「俺の女に手を出しやがって~、ってことね。でも、それで闇討ちでもするの? それこそ名誉ある人間がとっていい行動じゃないと思うけど」


 ノインが言うと、ナハトは普段つけている黒革の手袋を外した。


「決闘を申し込む。名誉を傷つけられたとして」

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