第70話 連戦
「ナイスファイトだったな、ふたりとも」
満面に喜色をたたえて、ナイトウが魔獣から降り立った。
「息ピッタリ。さすが恋人だな」
いやぁ、と照れるノインを横目に小さくため息をつき、ナハトはナイトウを見た。
何事もなかったようにしているが、凄まじい力、戦いぶりだった。
同じように立ち回れと言われても、到底人間に出来る動きではない。
「で、この死体はどうしたらいいと思う?」
「アーベントがいれば解体の仕方を聞けるところだが……ひとまずこのままにして、この先の村の人達に伝えるのがいいだろうな」
「んじゃ、そうするか」
涼しい顔で歩き始めたナイトウの背中を見ながら、ナハトは彼を殺める方法を頭の中で描く。
まともにやりあったら、確実に返り討ちにあう。
今この瞬間、後ろから闇討ちを仕掛けたとしても回避され、反撃される画も浮かんでくる。
確実に仕留めるためには、やはり魔法を使った暗殺しかない。
街道はちょうど木立に入り、周囲には森が茂り始めた。
こういう場ならば、暗殺もやりやすくなる。
「意外だったわね」
ナハトにだけ聞こえるように、声を潜めてノインが言った。
「何がだ」
「彼の力。これまでの転生者と違って、本当にただ魔獣を倒しただけだった。周囲の木々ごと切り裂くとか、街道を掘り起こすとか、そういうことナシに」
「……そう言われて見れば、そうかもしれないな。ただ単純に超人的な剣だったというだけか。だが、それが何か――」
「おーい、ふたりっきりの時間をつくるのは、せめて宿についてからにしてくれよ」
急に振り向いたナイトウに反応して、ナハトもノインも慌てて距離を置く。
「な、なんだよ、オーバーなリアクションだな。そこまで離れなくたっていいって――いや、待った。ちょっと広がって動こう」
どうした、とナハトが言いかけて、すぐにナイトウの言葉の意味が分かった。
異臭。
「毒鼬――か?」
「前にやっつけた奴は、サイズはそうでもなかったけど死体から流れる地が周りの草を腐らせてた。そこまで気をつけなくちゃ駄目だ」
立て続けに魔獣と戦うとは、とナハトが剣を握る手に力を込める。
「――上だ!!」
ナイトウの声に反応し、ナハトが頭上を一閃する。
「駄目、ナハトッ――!」
ギャウッ、と小さな声がすると同時に、ナハトはその一手が間違いだったことを瞬時に悟った。
血が降ってくる。
まずい。
反射的に姿勢を低め、前方に転がる。
シュウウゥゥ、と異臭と異音が後ろから漂う。
「間一髪だったな~、いい動きしてたぞ、ナハト」
そう言ってナイトウが差し出した手を、ナハトは掴み、立ち上がった。
「……ナイトウのおかげだ。ありがとう」
「いや、博打みたいなことさせてしまって、悪かったよ。俺も、反射的にしゃべってしまった」
互いに苦笑を交わしながら、三人はまた街道に戻った。
以降は魔獣を見かけることもなく、夕日が山の稜線にかかる頃には村に入ることが叶った。
「おぉ、ナイトウ様。またお越しいただいて、ありがたい限りです」
「ああ、またちょっと世話になるよ、じいさん。今回はあんまり食べないようにするから、勘弁してくれ」
「いえいえ、何を仰いますやら。あるものでよければ、気の済むまで召し上がってください」
和気あいあいと話す二人――どうやら、老人はすぐそこにある宿屋の主人らしかった――を見ながら、ナハトは村の様子を窺う。
穏やかな村だと思った。
アハトゥングにたどりつくまでに立ち寄った村々もそうだったが、グーテ王国領内の西側は、平穏が保たれている。
「一部屋は俺、一部屋は二人で使っていいってさ」
「――待て、なぜそうなるんだ。この場合、男二人の部屋と、女一人の部屋で分けるのが自然じゃないか」
「そうか? あれ――でも、二人は付き合ってるんだろ? だったら別に――」
ナイトウからは見えない角度で、ノインがナハトの背中を小突いた。
「うん、そうよね。ありがと、気を遣ってもらっちゃって。じゃ、ありがたくそうさせてもらうわね」
鍵を受け取り、ノインが颯爽と中に入って行く。
「あとで、一階の食堂でな」
ナイトウの言葉に頷き、ナハトも宿に入った。
年季の入った黒ずんだ階段を上がり、ノインが手招きをする部屋へと入って行く。
がちゃり、と扉を閉めるや否や、ノインが大きくため息をついた。
「しっかりしてよね、ナハト。気の進まない『フリ』かもしれないけど、怪しまれるようなことは避けなくちゃ。そりゃ、私も調子に乗ってやりすぎてるかもしれないけど……」
「いや、ノインのせいじゃない。すまない。ただ――」
ふぅ、と息をついて、ナハトが言葉を次ぐ。
「調子が狂って仕方がない。俺達がフェアトラウエンを出てきたのは、あのナイトウ=ライを仕留めるためだ。それが、今は奴と仲良く歩き回り、魔獣を討伐して回っている。いや、魔獣を討つこと自体は問題ないんだが……」
「まぁ、ね。でも、彼がこの周辺の助けになっているのも確かなことなワケで……ちょっと、手を出しにくい状況ではあるのよね」




