第69話 連携
翌朝、東門から出たナハト、ノイン、ナイトウの三人は、グラツィアと事前に打ち合わせた通り、北側へ歩き始めた。
結局三人は武器庫へ行ったはいいものの、使い慣れた武器を使うのが一番で、あれこれと持っていても荷物が増えるだけだと軽装になっていた。
「この世界の干し肉やら保存用のパンやらは、正直、まだ美味いとは思えないんだよな」
草原を歩きながら、ナイトウがぼやく。
「元の世界とは、そんなにも違うのか」
「こうやって徒歩でてくてく歩くっていうのもなかったし。機械仕掛けの乗り物が何種類もあって、機械で造られた美味しい飯がたくさんあって、とにかく何かと便利さを追求したような世界だったよ」
ふむ、と言いながら、ナハトは漠然としたイメージも固められないでいた。
そもそも、機械というのがなんなのか、ピンとこない。
「それならば、わざわざ別の世界に転生する必要はなかったのではないか。元の世界に返してもらえばよかっただろう」
「んー、それはその……元の世界に未練がなかったわけじゃないけど、こういうファンタジーの世界にあこがれもあったしさ」
「ファンタジー?」
「剣と魔法がある世界、っていったらいいかな。後は妖精とか、魔物とか」
「剣と魔法は、確かにあるな」
ナハトは相槌を打ちながら、妖精というのはどういうものなのかと尋ねた。
「羽が生えた小人とか、耳が長い美女とかかなぁ。俺も詳しい方じゃないけど、まぁ、そういう世界をファンタジーって呼んでたんだよ。それで、俺が元いた世界では、そういう別世界に行って活躍するような物語が流行っててさ」
「英雄願望ね。わりと、どこの世界でもそういうのってあるのかも。ナハトは、そういうのないの?」
「ないな。人助けをする偉大な人物を英雄だと呼ぶのなら、平穏無事な世界であらばそもそも必要ない存在だ。いないにこしたことはないだろう」
ナハトの発言に、二人がほぅ、と唸る。
「そういう考え方もあるか。ナハトって賢いな」
「この人、語るときは語るのよねー。普段はろくにしゃべらないくせに」
ノインとナイトウの笑い声が重なって、ナハトはチリチリとくすぶるものを感じた。
この状況は、いったいなんだ。
ノインが能力を行使して、自分が隠形術を使えば、すぐにでもこいつの首を刎ねることが出来るはずだ。
だが、それをすれば、周辺の村の危機を招くことになる――のか?
「ナハト、どうしたんだ?」
「――いや、なんでもない。それより、ナイトウがこれまでに討った魔物について聞いていなかったな」
「ああ……なんか、共通点がないかって話なら、もう騎士団にもしたんだけど、何もなかったと思う。牙のはみ出たデカい蛇に、甲羅の生えた猪、それと毒液を撒き散らすイタチと、やたらと爪の発達した狐……あとは、最近で言うと耳をつんざく叫び声の鹿がいたな。それぞれ名前を聞いたけど、馴染みがない言葉で忘れちまったよ。この世界って、英語じゃないんだもんな」
ナハトはアーベントに聞いた名前を思い出していく。
牙蛇。アーベント曰く、体格の割には力が強く、革が売れる。
甲猪。極めて厄介。矢の当たる急所が少ない。甲羅は高価。
毒鼬。狩猟優先度が高い。農作物に被害。ひどくにおう。
爪狐。脅威はそれほどでもないが、群れを成すと厄介になる。
叫鹿。出来れば相手にしたくない。長時間声を聞くと具合が悪くなる。
「俺達の知り合いに狩人が居て、今話したどれもが確かに人里には近づけたくない奴ばかりだ」
「そうなんだろうな。近隣に出たって話を聞いて、俺が倒して死体を持って行ったら、そりゃあ喜んでくれたからな」
「ナイトウは、どうやって魔獣達がその村の近くに来るって分かったの?」
ノインの問いに、ナイトウは、はてと頭を捻らせた。
「実は、俺にもよくわからないんだよな。正直、勘が働いて、としか言えないんだわ」
「勘、ね……」
「では、その勘は、この先でも何かあると告げているか?」
ナハトが問うと、ナイトウはニヤリと笑って応えた。
「あるね」
転生者の言葉が現実となるのは、村に辿りつくよりも早い段階だった。
「甲猪だ!」
村まであと一時間程という地点で、突如、魔獣が森の奥から姿を見せた。
「うひゃ、前の奴よりでかいな。小さなバスくらいあるじゃんよ」
「来るぞ、散れ!」
猛然と突撃してくる猪から距離をとり、三人は剣を抜いた。
ナイトウの目の前で魔法を使うわけにはいかない。
純粋に剣技で狩らねばならない。
間合いを測っていると、ナイトウが跳躍し、魔獣の正面でカタナを振った。
高速の剣閃。
鼻先に水平な線が走り、肉が上下に切り分かれる。
悲鳴を上げた猪が頭を振ると、それより早くナイトウが飛び上がり、背中を伝って刃を突き立て走らせる。
「ナハト!」
ノインの声に反応し、弾かれるようにしてナハトは猪が背負う甲羅のつけ根、硬質化していなさそうな所に渾身の一閃を振るう。
ブギィィ、と声を上げて、巨大な魔獣はあっさりと大地に臥した。




