第67話 作戦準備
魔獣遊撃隊の編成には数日の時が要された。
数度にわたる会議の結果、連携と相性が重視され、三つの騎士団はそれぞれから部隊を輩出し、騎士団に属さない者はそれ同士で部隊を組むことになった。
「――で、私達が外の人間チームってことで組まされることになったのね」
アンムート邸が所有する武器庫でノインが呟く。
その横には、ナハトとナイトウが居た。
「俺としては、安心したっスよ。正直、旅をするのも野宿するのも、何かと一人じゃ不安が多くって。そこんところ、二人は旅慣れてるってことだったし」
「あらら、私達の方こそ、転生者サマの力を目の当たりにできるなんて、幸運に恵まれたと思ってるわ。ね、ナハト」
同意を求められたナハトは、ああ、と短く答えて武器庫の中の槍を一つ手に取った。
よく手入れされている武器だ。
対岸の、ヴァールハイトのヴァッサーと何度か小競り合いをした、という歴史があるだけのことはある。あの三人が率いているそれぞれの騎士団も、かなり規模が大きく、戦力的にはグーテ王国領内でも名の知れたものだそうだ。
実際に大暴走が起きたとしても、十分に対処できる。
少なくとも、街の住民達は騎士団をそのように評価していたし、騎士団の面々もそのように自負を持っていた。
「ひとつところに留まらず、それぞれの部隊があちこち回る――んだっけ。俺達も馬に乗るのか?」
ナイトウがナハトの横に並び、同じように槍を見定めながら言った。
「騎士団は当然ながら馬に騎乗して移動するが、俺達はあえて徒歩で回る方がいいだろう。魔獣の中には賢い種もいる。人間が馬に乗って魔獣を討伐していると分かって、通り過ぎた後の村や畑を狙うということもあるだろうからな」
「なるほどね。騎士団が通った後の隙を、俺達が埋めるってわけだ。なんか、いいじゃん、そういうの」
槍を手にし、くるくると回しながらナイトウが言う。
ふと、ナハトはその手つきがぎこちないことに気づいた。
「ナイトウは、槍は扱わないのか?」
「ああ、言ってなかったっけ。俺、女神様にお願いするときに「すごく強い剣士になりたい」ってお願いしたんだ。前の世界で剣道部だったもんだから。それで今の『剣聖』ってのにしてもらったんだけど、なってみたら読んで字のごとしで、剣以外はろくに使えないんだよ。どうせなら、地上最強の戦士にしてくれとか、うまい頼みごとをすればよかったよなぁ」
たははと笑うナイトウを鋭く見ながら、ナハトは視線を下に落とす。
ナイトウが帯びている剣は、あまり見たことのない、反りのある片刃のもので、ナイトウ自身はそれを「カタナ」と呼称していた。
元の世界にあった同じようなものを、女神に再現してもらって持参したらしい。
「ナハトとノインは、槍も使えるの?」
「私は全然。剣だって、まだまだナハトに習ってる段階だし」
「へぇ……それじゃ、ナハトは剣の達人ってことか?」
「達人というほどじゃない。転生者の力には遠く及ばないだろう」
記憶の奥にある、クロネ=ラントとの戦いを思い出す。
彼が生み出した爆発の力で、危うく命を落とすところだった。
ウンシュウ=トワとの戦いも紙一重だった。
彼らとの戦いは剣と剣によるものではなかったが、剣技に突出した転生者となれば、もしかしたら、まったく歯が立たないのではないかという心配はあった。
術中に嵌めて、暗殺出来るのが最良だ。
そういう意味では、この三人が組むことになったのは都合がいい。
旅の途中で仕事を成し、不慮の事故でナイトウが魔獣にやられたということにすれば話の筋は通る。
「出発は明日の朝だっけ。その前に、ちょいと手合わせしてみるか?」
屈託のない笑顔を見せるナイトウに、ナハトは逡巡した。
手の内を見ておくのは、何かの足しになるかもしれない――そう思考を進めた横で、ノインが手を挙げるのが見えた。
「先に、私が相手をしてもらっていい? お師匠様にも、色々な相手と剣を交えた方が練習になるって言われてるからさ」
「お、おうっ! もちろん。お手柔らかに頼むよ」
「あらら、それってどっちかというと私のセリフだと思うけどな」
武器庫を出てすぐのところに広場があることが分かっていたので、三人はそこに場所を移した。
遠征に備えて武具の手入れをしている騎士達も広場に居り、どうやら面白い余興が始まりそうだとその手を止めてナハト達を囲み始めた。
「なぜノインが」
ナハトがノインに小さく呟く。
「理由は3つかな。まずは興味。彼がどの程度の転生者なのか、自分で確かめたくて。あとは、自分の技量を高めたいっていうのもある。でも、一番は、ちゃんと私の力が彼に効くか、確かめられる内に確かめたいの。もう既に術はかけてあるから、向こうは力を発揮できずに面食らうかもね」
あ、とノインが言葉を次ぐ。
「やっぱり4つあったし、これが一番重要だった」
「なんだ」
「夫にいいところを見せなくちゃ、ってね」
何を馬鹿な、と言いかけたナハトを置いて、ノインはウインクだけして、カタナを構えるナイトウの前に歩み出ていった。




