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第66話 夕食

「あい、待った」


 ツィンという男が口を挟む。


「その女神様というのは、どのような容姿をしておられるのかね」

「まったく、おぬしはいつもそうだな。女性が話題に登場すれば必ず見た目ばかり気にしおる」

「大事なことではないか。具体的に話を想像することで、理解も深まるというものよ」

「何を言う。いつもそうして尋ねるのは女性の容姿ばかりではないか」

「馬鹿を言うな、ブライ。ちゃあんと声や匂いまでも尋ねておるわ」


 大声で笑うツィンに釣られて、ナハト以外の参加者はみな声を上げて笑った。

 ナハトだけは、口元にわずか笑みを浮かべるにとどまった。


「えっと、そうっスね――あの、そちらの……」


 ナイトウの視線がノインを捉える。

 ナイトウの顔は真っ赤だった。


「ノイン――に、雰囲気とかが似てた気がします。なんつーか、うまく言えないんスけど、遠い親戚みたいな感じっていうか」


 一拍、間をおいて、ノインが笑顔を見せた。


「あらら……その、運命の女神サマとやらに似てるなんて、光栄過ぎて照れちゃうなー」

「いやいや、ワシは一目見た時から女神のように美しいと思っておりましたぞ、ノイン殿。ナハト殿がこの場に居らなければ、明日の予定をお聞きしていたところだ」

「馬鹿者が、ツィン。先月も奥方にこっぴどく叱られたばかりではなかったか」

「百度折檻されようと、美女に目が移るのは止められぬ性分よ」

「そこまで行ったら病気だ、馬鹿め」


 三人が喧々囂々と揉め始めたために、ナハトが欲した情報が聞けない可能性が出てきた。

 どうしたものかとノインを見ると、彼女は視線を落としていた。

 何か気に障ったのだろうか。

 ついさっき、女神と比較されて喜んでいたように見えたが……


「はーい、はい。仲がよろしいのは結構ですけれど、ちょっと話題を変えさせてもらいますねぇ」


 グラツィアがぱん、ぱんと手を叩いた。


「ナハト殿とノイン殿が捜索しておられるという狂犬兄弟というグループについて、何かお聞き及びの方はいらっしゃるかしらぁ?」


 それならば、とシュタールが口火を切った。


「半年ほど前、ゼー湖の向こう、隣国ヴァールハイトはヴァッサーの街からやってきた連中だ。転生者の噂を集めてはその地を襲撃するという、非人道的行為に及んでおったな」

「て、転生者を?」


 ナイトウが口を半開きにして、飲みかけたグラスの動きを止めた。


「いやいや、実際のところは、転生者ではない、人里離れた隠者を襲ったりなどしていただけなのです。なにせ、真に転生者を相手取れば、ナイトウ殿のように力ある者と対峙せねばなりませんからな」

「得てして犯罪者というものは、姑息な生き方ばかりをするものですよ」

「あはは……んで、そのキョウケン兄弟ってのは、どうなったんスか?」


 次に口を開いたのは、ブライだった。


「騎士団としても、そのような噂が対岸より聞こえて来て警戒はしておったのでな。長くは滞在せずに街を離れて行った。既にきな臭い噂が増えてきていたユスティーツに行ったのではないかと勝手に予想しておったが、実際のところはわからん」

「と、いうことでぇ、ナハト殿達が遭遇した時期の方が後ということになりますねぇ。協力できずにごめんなさいねぇ」

「いえ、どこから来たのかが分かっただけでも十分です。西から訪れ、南で遭遇したということは、おそらくさらに南下しでもうひとつの隣国クランクハイトに入ったのでしょう」


 言いながら、ナハトの脳裏にはアーベントとモルゲンの二人が浮かんでいた。

 二人はバンデ=ハルトという渡り鳥ツークフォーゲルを追い、クランクハイトへ向かったはずだ。向こうは向こうで、様々な状況が錯綜するかもしれない。

 それでもまぁ、すぐ隣に標的が座っている自分の状況よりは悪くなりそうにないが……


「こちらからはさしたる情報を差し上げられないのに、こちらの都合に協力していただくのは申し訳ない気がするわねぇ」


 顎に指をちょんと当てて、グラツィアが言う。


「ナハト殿、それにノイン殿。こちらとしては、可能な範囲で魔獣の遊撃に助力をいただければと思うのだけれど、どうかしらぁ?」


 口調に反して強かなお方だ、とナハトは内心で苦笑した。

 今、この場でその申し出を断れば、主君であるロイエ、そしてロアリテート家そのものに不義理の恥を掻かせることになる。

 決して偶然や天然ではない、確かな打算の上の発言だ。

 まさか、書面の内容も彼女がでっちあげたのでは――と懐疑して、さすがにそれは不敬が過ぎるとナハトは思考を打ち切った。


「不肖ながら、謹んで引き受けさせていただきます」

「あらぁ、そう言っていただけるとありがたいわぁ」


 ぽん、と手を合わせてグラツィアが笑った。


「ノイン殿の方も、同じ考えだと受け取ってよろしいかしらぁ?」

「ええ、大丈夫よ。ナハトとふたり、仲良く魔獣退治にいそしんであげる」


 これはこれはとグラツィアが笑うと、それに呼応して壮年の騎士達も笑った。


「さて、カタイ話はこの辺にして、あとはゆっくり食事を楽しみましょうかぁ。具体的な動き方については、アンムートの家臣もいれて騎士団と調整をしなければなりませんねぇ」

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