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第7話 再暗殺

「私は、貴方の命を狙っている者よ」

「ほぉ……」


 『感知センス』の魔法は反応を示さない。

 蘭斗はにたりと笑った。

 随分と身の程知らずな女だ。

 いや、世間知らずか。

 この世界に、転生者は何人もいるはずだ。

 その誰もが、この世界に元々住んでいる原住民共よりも遥かに強力な能力を与えられている。

 そんな転生者を殺すことなど、出来るはずもないだろうに。


「そんな細腕で、俺を殺せると思っているのか?」

「いいえ、思っていないわ」


 ……?

 今の言葉も、真実だ。

 どういうことだ?

 殺せると思っていないのに、命を狙っている?


「何か、特別な力を持っているということか」

「ええ」


 まぁ、それはそうだろうな。

 何か手がなければ、ノコノコと飛び込んできたりはしない。


「仲間がいるな」

「仲間……質問が抽象的で、答えるのが難しいわ。仲間って、どういう定義?」


 苛立ちを舌打ちに乗せて、蘭斗は口を曲げた。


「定義厨かよ、てめぇは……仲間っつったら、長い間行動を共にしている奴だろうが」

「そういう間柄の相手はいないわね。これからは分からないけど」

「ちっ……面倒くせぇ女だ。もういい。『解析アナライズ』!」


 空間に、自分だけに見える液晶画面が浮かび上がる。

 その画面には、目の前の相手の情報が列記される――はずだった。


「なんだこりゃ……?」


 画面がよく見えない。

 ひどく解像度の悪い画像を見ているようだ。

 あるいは受信感度が悪い時の動画のように、文字が千々に乱れて、まるで読めない。

 こんなことは初めてだ。


「まぁ、別にいいか。仲間が何人いようが、お前がどんな能力を秘めていようが、誰にも俺をどうすることもできやしねぇ」


 蘭斗は手を伸ばし、女の顔にかざした。

 『魅了チャーム』の魔法を行使する。

 強靭な精神力を持っているようには見えない。

 この場で咥えさせてやるぜ。


「――手のひらの皺でも数えればいいの?」


 効かない――だと?

 さっきの『解析アナライズ』といい、いったいどうなってやがる。

 まるで涼しい顔――それにしても、見れば見るほどとんでもないルックスだ。

 紫色の瞳なんて、元の世界では見たことも聞いたこともねぇ。

 顔だって、ここまで整ってるのは向こうでも、こっちでも見たことがねぇ。

 どうにか、こいつは手元に置いておかなければ。


「何やら調子が狂うが……どうせ、お前には俺を殺すことは出来まい。いや、この世界の誰にも、この俺を殺すことなんざ出来やしない」


 蘭斗は女――ノインにつけられた革の手枷を引っ張り、強引に部屋に招いた。


「つっ――……」


 固い革が手首に食い込んだ拍子に、ノインの声が漏れる。

 蘭斗はそれを聞いて、下腹部にわだかまりを自覚した。


「先に教えといてやるぜ。『賢者』ってのは、自分のスタミナを回復できるんだ。今から次の夜明けまで、延々と天国を見せ続けてやるよ」

「あらら。事前に教えてもらえるなんて、嬉しくって涙が出ちゃうな」

「余裕ぶっていられるのも今だけだぜ。おら、女ども! ベッドから出て、別室に行ってろ!」


 鼻息の荒い怒号を受けて、半裸の美女数人がふらふらと部屋を出て行く。

 その目は虚ろだった。

 魔法によって魅了され、どんな強制をも甘受する人形に成り果てている。


「鍵、かけなくていいの?」

「要るかよ、そんなもん。おら、さっさと横になりやがれ!!」


 蘭斗が鼻息をさらに荒くした。


(さて、と……)


 枷で動かせない手を胸の前に置き、ノインはベッドに腰かけた。

 相手の様子から見て、時間的な猶予はほとんどなさそうだ。


 ……ある程度のことは覚悟するしかないか。

 大事の前の小事――これも、転生者がもたらした言葉だったか。

 もっとも、そういった言葉や文化を異世界にもたらすのは、目の前で裸体をさらしている、欲まみれの馬鹿の類ではないのだろうが。


「天国を見せてやるよ」


 天国――

 彼が元居た世界において、死後の世界のひとつだと信じられている場所。

 まったく、馬鹿馬鹿しい。

 それがないからこそ、自分がこの世界に『転生』してこられたのだというのに。

 そして、だからこそ、『転生者』によってひずみが生まれているというのに。


「ヘッヘッヘ……」


 下卑た笑いを隠そうともせず、裸の賢者が迫ってきた。

 伸ばされた手がノインのケープにかかり、乱暴に外される。

 その手はさらに装束に触れ、首から肩、そして腕を露わにさせた。


「まったく、女神サマサマだぜ」


 ノインは目の前の人物を冷たく睨んだ。

 アメジストの瞳が、それまでになかった怒りに激しく揺れる。

 それを見た蘭斗は、さらに口元を愉悦にゆがめ、雪のような柔肌を見せた獲物をベッドに押し倒した。


「ふわふわしたマントの下は、っと……なんだ、まるでスパイか忍者みてぇな格好だな。さっそく味わわせてもらうとするか――」


 獣の手がノインの腰にかかる。

 嫌悪感にノインは唇を結び、視線を横の石壁に逸らした。

 腰に添えられた手に力が込められる。


「かっ――……」


 声とも息ともとれぬ音と共に、両手がビクンと大きく脈動した。

 その先の動きがなく、ノインは恐る恐る自分の体の下部へ目を移す。

 裸の賢者は顔面を赤く染めていた。

 脳天から鼻柱まで一直線に割れている。


「……――ナハト?」


 名を呼ばれた暗殺者が、暗闇に浮かび上がった。

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