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第65話 宴席の話題

「グラツィア様。そろそろ、皆様に料理の方を」


 ゾルダートが耳打ちをすると、アンムートのうら若き当主は顔を赤くして二の句を次いだ。


「失礼いたしましたぁ、わたくしったら――ではどうぞ、みなさん召し上がってくださいなぁ」

「それではいただこう」

「さすがは我らがアハトゥング、水の幸の香ばしさたるや、鼻腔をくすぐるな」


 和気あいあいとした雰囲気で始まった食事だったが、ナハトは異様な緊張感を抑えるのに意識を強めなければならなかった。

 ふと左を見ると、ナイトウもどこか緊張したような表情でナハトをちらと見た。

 目が合い、ぎこちなく笑う。


「えっと、ナハト――だっけ。よろしくな」

「――よろしく」

「俺、こういう食事風景ってゲームの中でしか知らないんだよな。食器って、外側から使うんだっけ?」

「正式な貴族として招かれたわけでもないのだから、作法など誰も気にしていないと思うぞ」


 ナハトはそう言って、グラスに入った白濁した飲み物を口に含んだ。

 飲んで、それが酒だったことに気付き、少量に留める。


「なんていうか、安心したよ。同じくらいの年の人がいて」

「そうか」


 まったく、妙な状況だとナハトは笑顔のナイトウから視線を外した。

 こうして接触してしまっては、素性が明らかになってしまう危険もあるし、暗殺に失敗したとしても行方をくらますことで疑いの目が向けられてしまう。


「ね、ナイトウくん」

「はっ、はい」


 ナハトの奥に居たノインに話しかけられ、ナイトウが顔を赤らめた。

 珍しいものでも見るかのように、目を見開いている。


「お酒、飲めるの?」

「えっ、いや、俺は――いや、飲めるよ。飲めるとも」


 ナイトウがグラスを一気に煽ると、戦士達が感嘆の声を挙げた。


「いやはや、若いのにいい飲みっぷりだ」

「どれ、私もいただくとしよう」

「ナハトは飲まないのか?」


 ナイトウの指摘に、ナハトは表情を凍らせたまま首を振る。


「得意じゃないんだ」

「ナハトは真面目だもんねー」


 けらけらと笑うノインにつられてか、ナイトウもニッと笑みを浮かべ、言葉を次ぐ。


「実は、俺も酒を飲んだことなんてほとんどないんだ。いろんな村で歓迎とかお礼の食事をもらったけど、酒は飲まないようにしてたからさ。なんか、俺達って同じだな」


 口直しにと置かれている、何の変哲もない水のグラスを手に取って、ナイトウは屈託のない笑みをナハトに向ける。


「同じだってさ」


 小さく呟くノインを無視して、ナハトはテーブルに所狭しと並べられた、貝の蒸されたものをひとつ手にした。

 何やら視線を送ってくるナイトウに、ナハトは何か気になるのかと尋ねた。


「二人は、その――いわゆる、恋人的な?」


 ナハトは返答に窮し、思わずノインを見る。

 ノインがわざとらしく頬を赤らめ、伏せたために、ナイトウを含めた男達がどやどやと声を出した。


「なんと初々しい」

「これほどの美女を射止めるとは、ナハト殿、かなりのやり手のようだな」


 話題の中心になっていることに羞恥心を覚えると同時に、うつむいたまま肩を小刻みに揺らすノインに恨み言が浮かぶ。

 どれだけ酒を飲んでもなんともない体質なのは知っていたが、まさか頬の紅潮まで操作できるのか。完全に自分をからかうために彼らの反応を引き出したとしか思えない。


「いえ、まぁ――皆さんのご想像にお任せします」

「いいなぁ、ナハトはモテるのか」


 羨望のまなざしがナイトウからナハトへ送られる。

 三人の壮年は愉快そうに笑っているだけだが、渡り鳥は心からうらやましがっているように見えた。


「皆さんを夕餉に招待して正解でしたねぇ。街がどこか不安にしているせいで、我が家の食卓も物寂しくなりがちでしたものぉ。ねぇ、ゾルダート」

「まったくでございますな」


 そこから、話題はナハトのことから街の様子の変化や、周辺の状況についての話に変わっていった。

 三人の男たちは、どうやら過去にゾルダートから武術の手ほどきを受けたことがあるらしく、何度か彼に助言を求める場面もあった。

 武芸の話になり、ナハトがレーラーに師事していることが周知されると、次の話題の中心はナイトウへと移った。


「我ら騎士団の耳にも、ナイトウ殿の武勇は聞こえてきている。さて、どのような戦いぶりをしてきたのか、本人の口から聞かせてはもらえまいかな」


 シュタールという名の、三人の中でもっとも横幅のある男が目を光らせた。

 武人の目だ、とナハトは思った。


「俺のは、特に……その、何かカッコイイ名前があるわけじゃないんス。皆さんがどこまでご存じかはわからないんスけど、俺はこことは別の世界で一度死んでいて、運命の女神様ってお方に救われたんです」

「その類の話は、この世界に生きる我々でも存じていますよぉ、ナイトウ様。単に『転生者』と呼ぶこともあれば、『渡り鳥』と呼称することもありますぅ」


 照れくさそうに頬を掻き、ナイトウは続ける。


「それで、女神様に聞かれたんスよ、俺――新たな世界でどんな風に生きたいかって」


 ナハトは頷きこそしなかったが、集中して耳を傾けていた。

 彼がどんな力を授けられたのか、詳しく聞くことが出来れば、今後有利になる。

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