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第61話 滅びた村の話

 ナハトとノインが広場に腰を落ち着けて飲み交わしていると――といってもナハトが飲んでいたのは酒ではなく、持参した果実水だったが――村に住んでいると思しき若者たちがぞろぞろと集まってきた。

 広場と言ってもベンチやテーブルがあるわけではなく、座り心地の良い、背の高い草が茂っているだけだ。

 思い思いに腰を落ち着けて、持参した酒の瓶を開け始める。


「どこから?」


 金色の長髪をした男が、ナハトの横に座りながら口を開いた。


「まぁ、それなりに遠くからだ」


 ツナイグング、と言いかけて、ナハトは踏みとどまった。

 明らかな嘘をついて、後から粗が見えると面倒だ。

 重要なことを言わないようにすれば大丈夫だろう。


「旅人ってやつか。羨ましいな」

「おふたりはどういう関係で?」

「旅の話を聞かせてくれよ」

「かわいいお友達がいたら紹介してくれないか」


 五人、六人と人数が増え、気が付けば車座になっていた。

 誰かが中心においたランプの灯りが、それぞれの顔を薄暗がりの中にぼんやりと照らす。


「――ユスティーツに始まり、ミットライトにツナイグング、それにフェアトラウエンか。それでアハトゥングってことは、グーテ王国の主要な都市を全部渡り歩いてるってことだ。かーっ、羨ましいぜ」


 短髪の赤毛の男が顔を赤くして言う。

 その隣の、やや年長の女が笑い声をあげた。


「こいつも、いわゆる冒険者ってやつに憧れててさ。いつか装備を整えて大冒険に繰り出すんだって息巻いて――かれこれ2年は経ったかね」

「旅の商人から、剣だか槍だかは買ってあるんだろ? こないだの、隣村の危機に駆け付けたらよかったじゃないか」

「うるせぇな、こっちにはこっちの準備と都合ってもんがあるんだよ。そういうお前こそ――」


 からかいながら、からかわれながら、若者たちの瓶の中身が減っていく。


「外から来た奴の話は、肴に持ってこいだ。なぁ――そういや名前も聞いてないが、なぁ、色男。これまでの旅の中で、どんな魔獣と戦ったことがあるんだ?」


 ナハトが果実水を一口含む。


「そうだな――近いところで言えば、ミットライトの近くの谷で角狼ゲヴァイヴォルフと戦った」

「おいおい、マジかよ! 滅茶苦茶危険な奴じゃん、どうやってやっつけた? いや、それとも逃げたのか?」


 ナハトがノインを見る。

 ノインは口元に笑みを浮かべて、どうぞと片目をつぶって見せた。


「能力の高い彼女が囮役になり、俺が姿を――くらませて、隙を見て、という流れだった。危険な場面はあったが、まぁ、大きな負傷はなかった」

「なるほどなー、相棒がいればそういう戦い方も出来るんだな」

「となると、やっぱりナイトウ様はよほど強いってことになるよな。なんたって、単身ソロで魔獣を撃退して回ってるんだからさ」


 そうだそうだと周囲が相槌を打ち、ノインがわざとらしく首を傾げてみせる。


「そのナイトウ様って、誰のこと? 私達だって、それなりのものよ」

「いやいや、ナイトウ様には敵わんって」

「ナイトウ=ライ。ここ数ヶ月、このあたりを回って魔獣を狩ってくださってる偉大なお方だよ」

「あの人がこの辺を回ってくれているから、安心して畑仕事にも行けるし、なんなら村が滅びずにいられるんだから」


 ナハトが、ピクンと動いたのをノインは見逃さなかった。

 見ると、僅かながら、いつもよりも表情が険しくなっている。


「そんなにすごい人なの?」


 ノインが問いを口にすると、若者たちが互いに目くばせをし、なぁ、なぁと同意を互いに求め始める。


「ウチの年寄り達が言うには、なんでも、彼が居てくれれば、十何年前の大規模な魔獣襲撃も食い止められたんじゃないかって」

「十何年前の――って……」

「知らないの? 二十年くらい前に発生した、同時多発的な魔獣達の大暴走事件。グーテ王国領内でもいくつも村が被害に遭って、中には住人全員が皆殺しになって滅びちゃった村もあるとか言われてるじゃん」

「ここ最近で魔獣の目撃が増えてるけど、その頃の状況に似てるんだってさ。だから、ナイトウ様が現れてくれたことが本当にありがたいって俺のオヤジもオフクロも言ってるよ」

「そのときはユスティーツの都も王家も健在で、あの剣聖ロアリテートだって居たからよかったようなものの……今はそのどっちもないから心配だって、ばあちゃんが言ってたよ」


 若者達が口々に家族の言葉を話し始め、広場はにわかに盛り上がり始めた。

 その場にいるほとんどすべての者が笑顔で、未来への明るい展望を口にした。

 ただ、水平線色の瞳をした青年が口を閉ざしてどこか遠くを見つめており、隣に座る夜色の乙女はどこか胸騒ぎを覚えていた。

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