第60話 村の土産
「それじゃ、これからどうする?」
「食事までは時間がある。手分けして、ナイトウ=ライに関する情報を集めよう」
ナハトがそう言うと、ノインはじっと見つめる。
そのまま沈黙が通り過ぎたので、ナハトはわずかに顔を顰め、傾げた。
「……どうかしたか?」
「ん~……ちなみに聞くけど、どこで、誰から、どうやって話を聞くつもり?」
今度はナハトが黙った。
「私が言うのもなんだけど、ナハトって、それほど口がうまいわけじゃないじゃない? 一応、私達の活動はロアリテート家としては秘密にしなくちゃいけない内容なわけで、そこをうまく隠しながら情報だけ聞き出せるの?」
「む……」
「ミットライトのときは、狩人組合が協力的だったから苦労はなかった。でも、ここでは私達はただの旅人だし。ツナイグングのときは魔法で姿を消して状況を探ってきたけど、あれは街そのものが一触即発だったから情報が転がってただけで、この牧歌的な村では同じようには出来ないと思うわよ」
青髪の青年はばつが悪そうにしながら、腕を組み、ベッドに腰かけた。
「では、俺は宿で――」
「却下。だって、夫婦か恋人かは別として、連れ立った一組の男女なのに、女一人だけで酒場や食堂に居たら不自然でしょ」
「……分かった。一緒に動こう」
「そゆこと――って、武器、置いて行かないの?」
「当たり前だ。宿から出た瞬間に渡り鳥がいる可能性もある。そうでなくとも、魔獣が襲撃してくることもあるかもしれんだろう」
そう言って立ち上がり、部屋の入口へ向かうナハトの背中を見て、ノインは彼が魔法を獲得した出来事について瞬間的に思い出した。
そうか。
ナハトは元々こういう村に住んでいて、そこが魔物に襲われて――っていう話だったっけ。
不安になるのも無理からぬ話かもしれない。
「それじゃ、アーベントに教わった通り、酒場に直行しましょっか」
「この規模で、酒場があればの話だがな……」
一階へ降り、宿の主人に尋ねると、案の定酒場はないとのことだった。
「街道沿いなもんだから、土産屋は割と繁盛してるけどね。一杯やりたいってんなら、そこで地酒を買って外でひっかけるか、ウチの食堂で飲んだくれるのがいいと思うよ」
「いや、酒場でなければじょうほ――」
「んっ!! んー、それじゃ、そうしよっかな。ちなみに、この村の人達は飲んだり騒いだりしたいときはどうするの?」
「そうさなぁ……若い連中は、外の広場でそのまま騒いだりするときもあるな。今日なんかは気温も高いから、またちらほら飲み始めるかもしれん。まぁ、なんにせよ、飲むならこの宿に近い方の店にしときな。飲みすぎて帰ってこられなくなっちまうからな」
ガッハッハと笑う主人に例を告げて、ナハトとノインはひとまず土産店に向かうことにした。
のどかな雰囲気の、落ち着いた夕焼けが村を包んでいる。
規模は小さいながら、生活にはゆとりがあるようにも見えた。
「いい雰囲気の村ね」
「そうだな」
「それにしても、さっき、早速情報収集がどうとか言いかけてなかった?」
「む……」
「ロイエが私とあなたを組ませた理由はこれかもね。ナハトだけじゃ、情報収集をしてるつもりが自分達の素性を宣伝して回りそう」
追いかけっこをする子供達を横目に見ながら、『朝顔亭』と書かれた建物の扉を押す。
中は何段にも分かれた木製の棚がびっしりと備え付けられ、大小さまざまな瓶が置かれていた。
「こんばんは。何かおすすめのお酒はある?」
「それなら、そっちの青い瓶のが売れ筋だね。あいにく、ツマミになるようなものがあまりないんだが」
「どうして?」
「ちょっと前に、近くの村で魔物が連続的に目撃されててね。それは旅人が追い払ってくれたからよかったんだが、その旅人ってのがまたえらい大食いで、随分と飯を食わせにゃならなかったんだと。おかげで村の食料が心許なくなって、うちも含めた近隣の村まで調達に来てたのさ」
へぇ、と笑顔を振りまきながら、ノインはナハトに視線を送った。ナハトは小さく頷いて応える。
「その村って?」
「ここから西に行ったところにある。おたくらがアハトゥングから来たってんなら、おそらく通りがかってきただろうし、これからアハトゥングに行くってんなら、まず間違いなく通りがかるだろうよ」
「あらら、それなら楽しみにしててよさそう。じゃあ、これとこれと……あと、これもお願い」
「……どれも中々に強い酒だけど、兄ちゃん、余程強いんだね」
土産屋の主がごくりと喉を鳴らしながらナハトを見た。
「いや、俺ではなく――」
「そーなの、ほんとウチの人って飲んだくれで大変なんだから」
手早く支払って、二人はそそくさと店を出る。
「誰がウチの人だ」
「あらら、そんなのはどうでもいいでしょ。それよりも、ナイトウ=ライよ。聞いてた通り、アハトゥングを拠点にして動いてるのかしら。それとも、あちこちを移動して回ってるとか?」
「――分からんが、アハトゥングに着く前に遭遇する可能性はあるかもしれんな」
ナハトがそう言いながらノインを見ると、夜色の髪の乙女は購入したばかりの瓶の蓋を開けて早速一口煽っていた。




