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第59話 二人旅

「わかりました。強力な武具の入手については、出入商のライヒェに耳打ちしてみましょう」

「お聞き入れいただき、ありがとうございます」


 無心のために執務室を訪れたレーラーが、そういえばと言葉をつづけた。


「よもや、あのナハトが女性と二人連れ立って食事に行くとは、驚いたというかなんというか」


 滅多に見せぬ当惑の表情を浮かべるレーラーに、ロイエは苦笑した。

 師匠の彼が驚くのも無理はない。

 実際、カードを渡した自分も、ナハトの生真面目で武骨な性格を考えると、そのまま返却するか、あるいはしまったまま使わずじまいになることも覚悟していたのだから。

 一方で、主君に授かった褒賞を使わないという選択も彼には難しいだろうという確信もあった。

 結果的に彼が食事に行ったことは、ロイエも含めて屋敷中の者達を少なからず驚かせていた。 正直、彼の働きに対する慰労になったかどうかは微妙かもしれないが、とりあえず、ロイエは主君としての義務は果たしたということにしていた。


「誰と連れ立って行ったかは、聞きましたか?」

「それが無粋であることは、私ごときにも分かることです。まぁ、それを言えば食事に行ったことも含めて私事は放っておくべきなのでしょうが、いかんせん、屋敷の中で噂になっておりましたのでな。歩いているだけで耳に入ってしまいました」


 ふっと笑い、レーラーが続ける。


「彼の性格を思えば、普段世話になっているからと武術の師である私を食事に誘う可能性もあったようにも思うのですが、それをしなかったあたり、さすがのナハトも男だったということでしょうな」

「まぁ……まるで、自分も誘われたかった、と言っているように聞こえますね、レーラー」

「ご冗談を。もっとも、彼に誘われれば喜んで良い店を紹介してやったところですが、護衛二人が屋敷を離れて飯を食うわけにもいきますまい」


 ふむ、とロイエが窓の外に目をやる。

 確かに、レーラーとナハト、二人が側にいてくれる安心感というのは大きい。

 だが、転生者に対する活動を展開してこの方、自分の身に危険が降りかかったためしはないし、そんな兆しもない。

 自分自身も大きな警戒心を持ってはいたが、それほど気にすることでもないのかもしれなかった。


「ノインやアーベント、今はモルゲンも居てくれています。そもそもわたくし達の活動を知るものはほとんど居ませんし、いたとしても襲撃してくるような輩などいないでしょう。彼がアハトゥングから戻ってきたら、貴方から食事に誘っても構いませんよ」


 レーラーは苦笑しながら、小さく何度か頷いて見せた。


「機があれば、そのように。しかし、私から声をかけることは遠慮しておきましょう。断り方も知らんでしょうし」

「あら、そういう処世術を教えてあげるのも、親代わりをしてきた者の務めでしょうに」

「それを言うならば、男女で組をつくることを提案なさったロイエ様にこそ親心があるかと。その方が恋人あるいは夫婦を装って旅が自然に見えるからとお話ししていましたが、何か、別の思惑があるようにも見受けられました」

「邪推ですよ。例えば主君であるわたくしが、家臣である彼に対して、特定の女性と関係を持つように仕向けたとしたら、快く思わない人だっているでしょう?」


 レーラーは苦笑した。


「複数人が思い当たってしまうのは、私だけでありましょうか」

「さぁ、それはどうでしょう。彼の生い立ちや現状を思えば、普通の青年がするような恋愛は難しいのかもしれませんが……でも、女性を不幸にするような真似はしませんよ、きっと」

「まったく、主君にここまで言わせるとは、ナハトは幸せ者ですな」

「なにはともあれ、まずは、無事に帰ってくることを祈るとしましょう」

「四羽目と五羽目の渡り鳥――信頼はあれど、待つ身は苦しいものですな」




「ちょうど一部屋だけ空いてるよ」


 村の宿屋を切り盛りしているらしい男が言った。額にじっとりと脂が浮いている。


「この通りの小さな宿だからね。下は全体を食堂にしちまってるから、そもそもの部屋自体も少ないんだ。どうするね? とはいっても、見たところ恋人か夫婦のようだし、問題はないだろうが」


 ナハトとノインは横に目を合わせた。


「――ひと晩頼む」

「あいよ。別に聞き流してくれていいんだが、安宿なもんで、壁は薄いからね」


 鍵を受け取りながら、ナハトは小さくため息をついた。


「それじゃ、十分気を付けなくっちゃね、ア・ナ・タ」


 ノインがわざとらしくナハトの腕に絡みつく。

 階段を上がりながら、ナハトは小さく口を開いた。


「いつまで組んでいるつもりだ」

「あらら、何か問題あった? こうしてる方が自然なのは、ご主人の言葉からわかったでしょ」

「それはそうだが……」


 ナハトは表情が変わらないように努めながら鍵の番号の部屋まで急いだ。

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