第56話 後半 C
「まるで生まれ育った街にいるかのようだな」
手慣れた様子で次々と注文していくアーベントを見ながら、ナハトは苦笑した。
店に入るまでは「なんとなく美味しそうだからここにしよう」と言っていたはずだが、本当に初めて入る店だったのかと訝しみたくなる。
「まぁ、店の構えを見れば大体どんな商売してるか分かるし、アタシがなんとなくよさそうだと思うってことは、自分に合ってると思って間違いないしさ」
ジョッキに泡立った黄金色をあおり、アーベントが声を上げて笑う。
「あんたはあんたで、誘ったくせに自分は飲まないなんて、名うての仕事人も遊び方は若いね」
「年齢の問題でもないと思うが」
「そう――だね。そういや、アタシはあんたの年頃には飲んでたかも」
それほど年齢差はないだろうに、アーベントを見ていると随分年長に思えるときがある。
関わってきた人の数なのか、質なのか、あるいはその両方か。
ナハトはこれまでになかった感覚に、ふっと笑った。
夕日色の狩人は、ジョッキを持ちながらテーブルに肘を置き、ナハトをじっと見つめた。
「なんだ?」
「いやぁ、あんたに食事に誘われたときは面食らったけど、これはこれでアリな展開かな、と思ってさ。せっかくだから、もう一軒は付き合ってもらおうかな」
そう言って、アーベントはいつもとは違う艶のある笑みを浮かべてみせた。




