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第49話 錯綜する街

「街のあちこちで、爆発が起きているそうです!」


 守備隊の部下の報告を聞き、精悍な隊長が焦燥しながら指示と檄を飛ばしている。


「爆発だと……? 渡り鳥ツークフォーゲルめ……やはり」

「何があったんだ?」

「おぉ、ナハト殿! どうか領主の所へお急ぎください! どうやら、ルンペンに供応していた者共が、西の民への報復として爆発物をあちこちで使っておるようで……混乱が西から東、そして北側の城へ伸びることはもはや明白です」

「爆発物?」

「クナイ=モントが創り出す秘薬です。どういう原理なのかは存じませんが、火をつけて放り投げると、局所的に爆発を引き起こすものでして……庇護者だったルンペン殿が死んだことで、自らを慕う者達を扇動し、このような暴挙に出させたのでしょう。これだから転生者という奴は……」

「西側で既に多数の死傷者が確認されています。隊長、いかがなさいますか」


 次いで出てきたノインが青ざめている。


「大丈夫か、ノイン」

「この世界に在るべきではない力――早く止めないと」

「結局、四の五の言っている場合ではなかったということか。遅きに失した感もあるが、俺のすべきことを為して構わないな?」


 ナハトの言葉に、ノインが苦しそうに頷いた。


「ナハト殿、すべきことというのは……?」

「隊長さん、ナハトはナハトでやるべきことがあるってことさ。アンタだって、すべきことがあるんだろ?」


 アーベントに促され、守備隊長はハッとして頷いた。


「そうであった。まず、私は詰め所に戻って指揮系統を立て直さなくては」

「隊長殿、ひとつ聞きたい。貴方達守備隊が展開すれば、街中での無用な殺生は避けられるか?」


 ナハトの言葉に、精悍な隊長は一瞬眉間に皺を寄せたが、それからゆっくり頷いた。


「皆無というわけにはいかないだろうが」

「そうか。ノイン、隊長殿に同行してくれ。お前が領主の護衛につけば、その分、数人が街の治安維持に回れる」


 ナハトの指示に、夜色の乙女が頷く。


「アーベント」

「分かってるさ。隊長さん、アタシを目撃したとかいう人物と、重要参考人の捜索、それらに数人は当てるだろ。そっちに同行させとくれよ。このままじゃ、アタシの気が済まないからさ」

「し、承知した」


 ナハトは二人と守備隊長に先駆けて、東側に駆け出した。

 甲冑を着込んだ――それも守備隊とは違う形の鎧の――男達が列をなして西へ向かっている。

 同じ街に住む者同士で、本当に血を流すつもりなのか。

 一旦、建物の角に身を翻し、呼吸を整える。

 ひとつ、ふたつと息を伸ばしていく。

 いつもの感覚が満ちてくる。

 自分の唯一の魔法が効果を発揮する。


「……」


 ナハトは無言で大通りに戻った。

 そして、また駆ける。

 風が甲冑の軍列の脇を通り抜けても、誰も暗殺者の姿を認めることができない。

 よし。

 呼吸が乱れないぎりぎりのスピードで歩を進める。

 視界の端、豪奢な窓の奥で、ほくそ笑んでいる人々が見える。

 これで鬱陶しかった西側の住人がいなくなる。

 そんな声が聞こえてきそうだった。

 チリチリとした感情の種が胸の内に覚えながら、スッと蓋をする。

 余計なことに気を遣っている時と場合ではなく、そしてそうすべき人間でもない。

 歩きながら、大勢とすれ違う。


「ルンペンが死んだということは、クナイ殿との大きな窓口がひとつ空席になったということだな」

「私がルンペン殿の位置に――」

「領主の座も空くかもしれんぞ――」

「クナイ殿をその座にという声はあるが、いっそのこと――」


 断片的に聞こえてくるのは、みな地位と金の話ばかりだ。

 知人の死を悼んだり、悲しみに涙したりするような雰囲気はまるでない。

 訪れたばかりの街だというのに、ナハトは軽蔑のような感情を抱き始めていた。

 比べてみれば、フェアトラウエンは、平和だ。

 近所で命を亡くした者が居れば、みながお悔やみを伝えに来訪する。

 市民同士のいざこざは珍しく、起きれば事件として噂になるほどだ。だから、誰も恥ずかしがってトラブルを起こそうとしない。

 先代、さらにその前の当主から、ずっと積み上げられてきたものがあるのだろう。

 貧富の差はあるが、貧しさを理由に盗みを働く者は年に数人出るかどうかだ。

 もっとも、都ユスティーツでの難民や、ここツナイグングからの避難民で増えていることを考えると、これからどうなるかは分からないが。


「ドルヒ様」


 ひときわ大きな体格の鎧武者が、数人の鎧――おそらく部下達だろう――に囲まれている。

 ナハトは姿を消したまま、誰にも触れぬよう気を付けて距離を詰めた。


「計画通り、西側の要所で爆発を起こしました。市民は混乱し、守備隊がそれらの調査、あるいは防護に当たっております」

「うむ、あのルンペンが計画していた通りだな。金勘定に必死になっている内に射殺されたとのことだが、まったく、よいタイミングで退席してくれたものよ」

「ええ、まったくですな。これで、以前酔わせて書かせたときの遺書の通り、私兵団長ドルヒ、つまり貴方様があの屋敷などの財産をまるっきりもらいうける、と」


 取り囲む者達と共に、ドルヒが下卑た笑い声をあげた。


「お主らにも、多くの分け前をやるから、楽しみにしておれよ。だが、まずは共謀している守備隊連中と共に、城でふんぞり返っている領主の首を取らねば始まらん。作戦を次の段階に進めるよう、伝達して回るのだ」

「了解。ドルヒ様は?」

「もちろん、我らに恵みを与えてくださる渡り鳥様の警護だ。よもや、西側の連中がこちらに来るとは思えんが、万が一を考えてな」


 ドルヒが数人を引き連れて、通りを東へ向かって行く。

 ナハトは腰の剣の柄に手をやって、静かにドルヒの後に続いた。

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