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第40話 番犬の会合

「どんな奴なの?」

「2年ほど前に現れた、『錬金術師』です。能力は、何もないところから様々なものを次々と生み出すこと」

「なんだい、そりゃ」

「酒をはじめとする飲料や、質の良い食料などを無尽蔵に生み出しているそうで、恩恵を受けている人がいる一方で、職を失った人も多くいます」


 ノインが首を傾げる。


「便利な能力に聞こえるけど……それがどうして職を失うことに繋がるの?」

「簡単な話ですよ」


 やや冷淡な目つきに変わって、ロイエが言葉を紡ぐ。


「例えば、昨夜貴女が何本も空けたワインが出来る過程を考えてみて。葡萄を育て、世話をし、収穫するだけで人手が要ります。それを摘み、つぶし、加工し、見守る職人が必要です。また、瓶に詰めたものを卸し、流し、売る人間がいてようやく、わたくし達のグラスに注がれるのです。突如、何もないところから物を生み出すというのは、それらの流れにいるすべての人の職を奪うことに繋がるのです」

「なるほど……便利なことは便利だけど、周囲への影響は計り知れないってことね。それを加減出来ればいいんだろうけど、欲深い転生者がそんな自制できるはずもなし、か」


 ノインの言葉に、ロイエは大きく頷いて応えた。


「そういうことです。実際、クナイ=モントが現れてひと月ほどは周囲が諸手を上げて歓迎したと聞いています。しかし、クナイ=モントが求めるまま無節操に生産し続けたことで、流通は大いに乱れました。失職者が激増し、一年が経つ頃には彼の周囲には恩恵に預かれた者だけが残ったようです。さらに悪いことに、クナイ=モントは自分の気に入った者に対しては益を与え、そうでない者は冷たくあしらいました。多くは街を離れるか路頭に迷うかの末路に至っています。実際、このフェアトラウエンを頼ってきた者も多くおり、先代当主の父も私財を投げうって支援に当たりました」


 アーベントが傾げながら口を尖らせた。


「誰もそいつを止めようとは思わなかったのかい? 言っちゃなんだけど、アタシらがウンシュウ=トワを野放しにせざるを得なかったのは、周囲の魔獣が強力だったからだ。聞いた感じ、戦いには向かなさそうな能力だけど」

「クナイ=モントがもたらした恩恵で甘い汁を吸えている者達が、周囲を囲っているのです。無論、それだけならばナハト一人で事を成し遂げられるかもしれませんが、他にも憂慮すべきことはあります」

「――なるほど。まさにウンシュウ=トワがそうだったように、アタシらが想像もしていないような力を持っているかもしれない、ってことだね」


 ロイエがまた頷いた。


「アーベント、貴女の弓で射殺せるのが最善かもしれません。あるいはナハトの暗殺術が最適かもしれないし、ノインの力が必要になる可能性もあります。まずは3人でツナイグングを訪れ、とるべき手段を探ってください。シュティレ」

「はい」


 小柄な女官が地図の前に立った。


「ツナイグングは、三国の国境があるホッホエーベネ高原にあります。魔獣はほとんど確認されておらず、道中に危険はないと思われます。ツナイグングについても、商人のライヒェ様いわく、貧富の差は激しいものの、クナイ=モントの身を護る私兵団が闊歩しているために治安自体は良いとのことでした」

「では、街へ入って調査をし始めるところまでは苦労はなさそうだな」


 腕を組んで話を聞いていたナハトが小さく頷く。

 シュティレも真顔で頷いた。


「ただ一方で、ツナイグングにはロアリテート家と親睦の深い方がいらっしゃいません。現地での支援を受けるのは難しいため、みなさんには一介の旅人として潜入し、事を成していただく必要があります」

「なぁに、それなら問題ないさ。アタシは元々野営してばかりだったし、見たところナハトも上等なもんじゃないだろ? ノインだってあんだけ飲めるなら、なんでも食えるんだろうし。うまく街中に入れないようなら、外でキャンプでもして機会を伺えばいいさ」


 言いながらアーベントが両者を見ると、それぞれが無言で頷き、あるいは苦笑して頭を掻いた。


「では、三人はそれぞれ準備を。シュティレ、旅支度までにどれくらい時間が必要ですか?」

「皆さん次第ですが、食料や路銀の用意は明朝には終わります。ただ――」


 シュティレの栗色の瞳が、じっとナハトに注がれる。


「――先が見えないことを考えると、充分に休養をとって万全な体調で赴くのがよいかと」

「わかりました。ナハト、胸に受けた傷の痛みはどれくらいで収まりそうですか。出血が止まることは治療の経過であって終わりではありませんよ」


 月の色の瞳にも見つめられて、ナハトが視線を落とし、胸に手を当てた。


「――二日、と見ます」

「分かりました。では、ノイン、アーベントも、三日後に出立ということで了承してもらえますか」

「もちろん。その間に、レーラーから色々と教わりたいしね」

「アタシも構わないよ。この街の見学をもう少ししてみたいし、アタシが自分で用意しなくちゃならないものもいくつかあるからね」

「では――」


 ロイエが三人にそれぞれ視線を移し、ゆっくり口を開いた。


「三日後、フェアトラウエンを発ち、南西の田園都市ツナイグングへ向かってください。そして、そこに住まう渡り鳥ツークフォーゲル、クナイ=モントを討つのです」

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