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第21話 藪の中の作戦会議

「――と、まぁ、これで一通りだね。他にもあることはあるけど、すぐに使えそうなのはこんなもんだ」


 軽い朝食を済ませた後、村の広場で開かれたアーベントによるレクチャーが終わった。

 それはノインに対する指南ではあったが、ナハトも興味深く話を聞き、いくつかは試させてももらった。


「獣に畏怖を与える笛、魔獣を引きつける薬玉、毒の周りを遅くする薬湯、複頭獣の革でつくった縄――どれも、フェアトラウエンでは見たことのないものばかりだな」

「そりゃそうさ。一般に流通するもんじゃないからね。ミットライトの狩猟組合の売り場にはあるかもしれないけど、向こうよりも断然、質はいいよ。なんたって、アタシの手作りだからね」


 自慢げに鼻を鳴らすアーベントに、ナハトは素直に感心して見せた。


「魔獣どもを相手に生計を立てているだけのことはある。ましてや、この里に一人残って」

「別に、ここを出たって構わないんだろうけど、あのウンシュウ=トワって女に負けたみたいで癪だからね」

「では、その渡り鳥ツークフォーゲルを討ち取ったあとは、ここを離れるのもやぶさかではないということだな」


 ナハトが青い瞳で見つめると、アーベントは一瞬ためらいを見せたが、その後、ゆっくり頷いた。


「考える余地は出来るだろうね」

「そうか。では、行くとしよう」


 三人は、アーベント、ナハト、ノインの順に並び、里から森、森から峡谷へと足を進めた。

 道とも言えない道を進みながら、アーベントは感嘆の息を漏らした。


「あんたら、平然とついてくるね」

「まずかったか?」

「それなりに経験のある狩人でも、この辺りの異様な湿気や臭気に参る奴は多いんだ。それが何も言わずについてくるもんだから、ちょっと驚いてさ」


 振り向いたアーベントの視線は、ナハトではなく、その後ろを歩いていたノインへと向けられていた。


「体力や腕力だけなら、ナハトより私の方が上かも知れないわよ」


 ウインクしながら言ってのけたノインに笑みを返し、アーベントはまた先を歩き始めた。

 一時間程獣道を往き、さらに一時間程長い下り坂を進んで、アーベントが後ろの二人に止まるよう言った。

 そして木々の切れ目、視界の下の方を指さす。

 ナハトは、白くうっすらと煙が立ち上っているのを目にした。


「あそこに、ウンシュウ=トワがいる。あいつは峡谷を下りたところの沢に小屋を造って、そこで生活してるのさ」

「アーベントの弓なら、ここからでも届くんじゃない? それで射抜いてスタコラ逃げる、なんてどう?」


 アーベントはふるふると首を横に振った。


「一度、試したよ」

「どうなったの?」

「風切り音に気付いたのか、異様な風の流れに警戒したのか、羽虎フェーダティーガが周囲に衝撃波を打ち出して矢を落としたのさ。そこから先は、もう大変だったよ。角狼ゲヴァイヴォルフが執拗に追いかけて来て、身を隠しながら臭いを消しながら、必死に帰ったさ」


 ナハトはその話を神妙な顔で聞きながら、口を開いた。


「では、羽虎フェーダティーガさえいなければ、遠距離での狙撃が出来るということか?」

「一応ね。でも、羽虎フェーダティーガの近くには巨兎リーズィヒハーゼがいる。羽虎フェーダティーガを先に暗殺したとして、危機を察知した巨兎リーズィヒハーゼが地響きを立てたら、土が割れて飲み込まれちまう可能性がある。単独でどうこうするのは、危険が過ぎるね」

「なるほどな。では、魔獣狩りとしては、どういう手を? 一頭まではどうにかなる、と言っていたと思うが」


 アーベントは、薬玉を取り出した。


「まず、こいつをあの小屋に向かっていくつも飛ばす。一頭は護衛のために残るだろうけど、二頭は周囲の異変を調べるために探索に出るはずだ。その二頭の片方に狙いを決めて、狩る」

「ふむ。では、俺とノインがもう一方を片付けられれば、次の段階にいけるということだな」


 アーベントの頷きに、今度はノインが疑問を口にした。


「アーベントの予想としては、何が残る?」

「間違いなく、羽虎フェーダティーガだね。飼い主の命を守るとなれば、あれが最も適してる。実際、奴がウンシュウ=トワのそばを離れたところを見たことがないしね」

「決まりね。遠距離から仕掛けられる巨兎リーズィヒハーゼは、アーベントに任せて、私とナハトで角狼ゲヴァイヴォルフをやりましょ」

「ちょいと。簡単に言うけど、あいつの毒はやばいよ。言っとくけど、アタシが調合した薬は、毒の巡りを遅らせることは出来るけど、治療までは出来ない。体の動きそのものを鈍らせるようなつくりだから、その後の危険も増すし」


 ノインがウインクして見せる。


「大丈夫。私、体は頑丈だから」

「頑丈、ったって――」


 アーベントの視線を、ナハトは頷きながら受け止めた。


「本人が大丈夫だというのだから、信じるよりほかにない。ノインが惹きつけている間に、俺が角狼ゲヴァイヴォルフを殺る」

「分かった。それじゃ、仕掛けるよ」

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