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第13話 次

番犬ヴァッハフントとしての活動を再開します」


 ロイエが執務室に声を響かせた。

 室内には、ナハト、ノイン、シュティレ、そしてレーラーの四人が立っている。


「当面は、ナハトとノインが渡り鳥ツークフォーゲルの暗殺に出向き、シュティレは情報収集とその他支援に務めます。レーラーは、引き続きわたくしの護衛をしてください」

「二人だけで事を成せますか? 場合によっては、私も同行した方がよろしいのでは」


 低い声が問うた。


「いえ、レーラー。貴方にはここに残ってもらわねばなりません。今後、渡り鳥ツークフォーゲルが何らかの方法でここを嗅ぎ付け、襲撃してこないとも限らないからです」

「ふむ……確かに、グーテ王国ひとつとっても、広がる混乱によってロアリテートを頼る者や行き場を失う者は増えるでしょうからな。そして当主は、御身を守ること以上に彼らの居場所を確保せよとおっしゃるか」


 意図が正確に伝わったことに満足し、ロイエは微笑みながら頷いた。


「それに、ノインの武術がレーラーに比肩するものだということも分かりました。ナハトと二人なら、巨大な魔獣は別としても、道中の危険は取り除けるでしょう」

「あまり買いかぶられても困るけど……まぁ、ナハトの足は引っ張らないようにするわ」


 ウインクをして見せるノインの横で、ナハトが言葉を紡ぐ。


「それで、次の対象は?」

「シュティレ」

「はい」


 シュティレがスッと歩み出て、執務室に掲げられている大陸地図の前に立つ。

 地図では、横に長い大陸が三色に色分けされている。

 中央に広がるゼー湖から西方は、ヴァールハイト王国。豊かな鉱山資源や砂漠のオアシスを擁する、活気ある大国だと聞く。一方で、強制的に魔法を覚醒させる方法を研究しているなどという黒い噂も聞こえてくる。

 東方の北側が、ここグーテ王国だ。北に行けば行くほど寒冷な気候になり、決して豊かな国というわけではなかったが、歴代の賢王達が内政、外交、魔獣対策を流麗にこなし、民の生活を守ってきた。もっとも、それは転生者の手によって途絶えてしまったが。

 そしてグーテ王国の南方に位置するのがクランクハイトだ。古くから転生者の保護を進めてきた国で、もたらされた恩恵の多くを、芸術や文化といった方面に花開かせてきた。

 シュティレは、グーテ王国領の東を指した。


「先日掴んだ情報によると、東の紡績都市ミットライトのさらに奥、シュルホト峡谷に渡り鳥ツークフォーゲルが住んでいるようです。数年前から住みつき、峡谷に棲んでいた魔獣を次々と追い払ったと」

「そして近隣の村々が襲撃され、やがて大きな街にまで危害が加えられるようになった――って感じかしら」

「ノインの言う通りです。判明しているだけでも三つの集落が継続的に被害を受け、そこに住んでいた人々の中にはミットライトに避難した人もいるようです。街の自警団や貴族付きの騎士団は、対処的な動きはしているようですが、根本的な解決は出来ないでいます」


 ロイエが腕を組みながら言葉を継ぐ。


「ミットライトは、そのシュルホト峡谷の稀少な虫を使って美しい繊維や生地を生産し、紡績都市として栄えた街です。王家の支援がなくとも、充分に自治を続けて行けるはず。招かれざる客さえ居なければ――の話ですが」

「では、今回の任務は、シュルホト峡谷に潜む転生者を討て、ということだな」


 ナハトの言葉に、ロイエとシュティレが同時に頷いた。


「気をつけなくちゃならないのは――」


 ノインが口元に手を当てて、静かに言った。


「おそらくその転生者の能力は魔獣を始めとする動物達を支配、制御するような力だということね。当の本人は、それがどんな影響を周囲に及ぼしているか考えもせず、『憧れのモフモフライフ』なんて言って悦に入ってるんでしょうけど」

「ノインの力なら、それを封じることが出来るのではないですか?」


 シュティレの問いに、ノインが首を大きく捻る。


「対話をすれば、その力を封じること自体は出来るわ。でも、次の瞬間、周囲にいる魔獣は支配が解けた状態になる。そうなると、転生者もろとも私も食われるでしょうね。もっとも、すべての転生者を滅ぼすという最終目標を考えると、それも悪くないのかもしれないけど」


 ノインの紫色の視線を受けながら、ナハトが小さく息を吐いた。


「ノイン、貴女の力の重要性はここにいる皆が分かっています。使い捨てのコマのようにするつもりはありませんよ」


 ロイエの微笑みはいつもと変わらない。

 ナハトはそれを見ながら、当主の思惑がどこにあるか思考を巡らせる。

 今の言葉の最後に、「今はまだ」と付け加えておくのがよさそうだ。


「あらら、そう言ってくれるなら大丈夫そうかな? 今はまだ」


 ナハトは動揺を表さないように気を張り直した。


「ところで、ナハトの力は魔獣相手にも通用するの?」

「ああ。元々が、魔獣に囲まれた窮地を脱するために目覚めた力だからな。人を殺すために行使する方が本来的じゃない。だが、魔獣の中には周囲一帯に打撃を与える能力を持つ物がいると聞く。姿を消したところで、それを喰らえばひとたまりもないだろう」

「なるほどね――となると、まずは周囲の魔獣を片付ける方法を考えなくちゃならないってことか」


 こほん、と咳払いをひとつして、シュティレが口を挟む。


「そういったことも含めて、ミットライトで狩猟組合の長をしておられるボーゲン様の助力を仰ぎます。ロアリテート家とも関わりが深い方で、ロイエ様との書簡のやり取りで既に協力を承諾してもらっています」

「彼もまた、渡り鳥ツークフォーゲルについて思うところがあるようです。ナハト、ノイン。少し長旅になるかもしれませんが、よろしく頼みます。そしてシュティレ、レーラーも、各々の責務を十分に果たしてください」


 若き当主の言葉に、その場の全員が大きく頷いた。

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