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第10話 報告と紹介

「クロネ=ラントは死にました」


 シュティレが、体の前で組んでいた手をきゅっときつく結んだ。

 それを一瞥しながら、ナハトは言葉を次ぐ。


「奴は自らを『賢者』と言っていました。あらゆる魔法を行使できるとも。実際に、俺の隠形の魔法は見破られ、最初の暗殺は失敗しました。この負傷は、その時に奴から受けたものです。空間が突然歪み、次の瞬間に小規模な爆発が起きました。咄嗟に翻らなければ、即死だったと思います」


 シュティレが、そしてロイエが固い唾を飲み込む音がした。

 それでもロイエは乾き始めた唇を動かす。


「最初の、と言いましたね。では、再度赴いたということですか?」

「はい。俺は一度、街外れの森まで退きました。その時点では、一旦帰還し、今述べた情報をロイエ様にお届けするつもりだったのですが……馬が灰色狼に殺されており、俺は狼を屠りはしたものの、気を失ったのです。そこを、ノインという女性に救われました」

「ノイン――……」

「知り合いか? シュティレ」

「え、いや、違うわ。ただ、ちょっと――そう、今、彼女は街の散策に行ってるわ、って言おうとしただけ」

「そうか。彼女が薬湯のようなものを飲ませてくれたおかげで、痛みは幾分和らぎました。そして、彼女は自らも転生者の命を狙っていると言いました。さらに、彼女もまた特異な力をもっており、それは対話した相手の能力を封じ込めるというものでした。また、彼女自身は転生者とは似て非なるものだとも言っていました」


 ロイエはナハトの水平線色の瞳をじっと見た。

 都合が良すぎる。

 用意が周到すぎる。

 理由が分からない。

 いくつも疑問が浮かびはしたが、少なくとも、目の前の重傷の青年が嘘をつくことはない。

 口を挟むのはやめ、ロイエは続けるよう促した。


「一計を案じて彼女を城に送り込み、時間差をつけて俺も忍び込みました。後は取り立てて報告するほどのことはありません。一人ではなかったため、いつもよりは脱出に手間を要した程度です」

「そのノインという女性は、貴方と旧知の仲というわけではないのですね」


 ナハトは小さく首を振った。


「ご存じの通り、俺には知己と呼べる者は在りません」

「だそうですよ、シュティレ」


 シュティレの赤くなった顔を見て、ナハトが首を傾げる。


「シュティレに何の関係が?」

「な、無いわよ、何も。ただ、もしもロアリテート家と関わりがある方だったら色々と――そう、お礼の段取りを組まなきゃならないから、それで――そういうことよ」

「そうか」


 急に憮然とした同僚に首を傾げつつ、ナハトは言葉を紡いだ。


「ひとつ付け加えるとするならば、ノインはクロネ=モントのことだけを見ているというわけではなさそうでした。そこにロイエ様と同じものを感じた俺は、その場で解散することはせず、ここまで同行してもらった次第です。もし、彼女に俺の秘密を知られてまずいということであれば――」

「あらら、その先は聞かない方がよさそうかな?」


 突然医務室に響いた声に、三人は一斉に視線を送る。

 そこには、花束を抱えた夜空色の髪の女性が立っていた。


「怪我や病気で臥している人には花でお見舞いをするといい――って市場で教わったんだけど。既に両手が花で塞がってる男の子には必要なかったか」


 入り口から花束を放り投げて、女性――ノインがベッドに近づく。

 ナハトが体を起こしかけたのを見て、咄嗟にシュティレが空中の花束に手を伸ばした。指先が当たって取り損ね、二度三度と手が慌ててようやく動きが止まる。


「――っとと! ……目を覚ましたばかりの怪我人に、何をなさるのですか」

「あらら、また怒らせちゃった。シュティレって言ったっけ? このお屋敷に到着した時からずっと苛々させちゃってるみたいで、ごめんね」


 片目をつぶって申し訳なさそうな表情を浮かべるノインに、シュティレがハッとして顔を下に向ける。


「あ、いえ、それは……すみません。言葉が過ぎました」

「常に冷静なシュティレが感情を漏らすのは新鮮ですが、客人に対しては適切ではありませんね。主人であるわたくしからも、お詫びを申し上げます、ノイン殿」


 わざわざ立ち上がって首を垂れる主君を横目に、シュティレはますます居心地悪そうに下を向いた。

 自分の非礼で主君に頭を下げさせたとあっては、普通ならば懲罰の対象になってもおかしくない。

 それでもロイエは笑って済ませてくれる――それが分かっているからこそ、シュティレは自分の浅慮を恥じた。


「ノインでいいわ。それにしても、ここに来るまでの間でナハトに聞いた通りね、ロイエ=ロアリテート。感情に流されることなく大局を見据えることが出来る人物。唯一の肉親を失った直後こそ復讐の念に駆られはしたが、それが終わればまた世のために動き出すはずだ、って」

「まぁ――わたくしのことを、そのように紹介してくれたのですか、ナハト」

「俺は事実を言ったまでです」


 さらりと言ってのけるナハトを尻目に、ロイエとノインは目を合わせて苦笑した。


「では、その期待に応えなければなりませんね。そしてこの頼りになる家臣の言葉を信じるならば、ノイン――貴女は転生者の命を狙っているとか」

「その通りよ」


 ノインはナハトの足側にあった丸椅子を手で引き、ストンと腰を下ろして足を組んだ。

 そしてケープの中で腕を組んだらしく、ごそごそと動いた。


「目的は、彼らに対する復讐だと捉えてもらって構わないわ」

「経緯や真意まで語る気はない、ということですか」


 ロイエの黄金色の瞳が鋭くノインを射抜く。

作者の成井です。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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それでは、また。

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