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湊編 part3:破局

 湊は目の前の状況に理解できなかった。


いるとは思わなかった誠、そして知らない女子生徒が誠の上に乗っている。


なぜか、その姿は薄着で、それもシャツの上の部分からは胸の谷間が覗いていた。


そして、その女子生徒は自分の彼氏である誠にキスをした。


「おいしかったよ。……誠くんの唇」


 李が不気味に微笑み、誠を見つめる。


誠はあまりに驚いて硬直状態となりじっと李を見ていた。


湊は震えている体を押さえ、口に手を当てて呟いた。


「兄さん……」


 その言葉に誠は我に帰った。ハッと湊のほうを向く。


「み、湊……。ち、違うんだ……。違うんだ、湊!」


 湊は目に涙を浮かべた。溢れ出し、頬に伝っていく。


目を閉じると、何も言わず、全力でその場から走り去ってしまった。


「湊!」


 誠は追いかけようと立ち上がろうとした。しかし、李が誠の体を押さえ、再びマットの上に寝転んだ。


「ダメだよ、誠くん。もう……二人の人生は終わったんだから」


 誠は少しずつ怒りが込み上げてきて、ぎゅっと拳を握った。そして鋭い目つきになって李を睨みつけた。


「てめぇ、ふざけんなよ……。自分が何やったかわかってんのか!」


 誠は腕を上げて叩こうとした。


「いいの?」


 李が口を開き、誠の手が止まった。


李はいつもの可愛らしい表情ではなく、ぞっとするような冷たい目を向けていた。


「ここで私を殴ったら、すぐに叫んで誰かに来てもらうよ? そしたら、誠くんが私を襲ったことになるよ。今私こんな格好だし」


 そこで誠はぎゅっと拳を握り、怒りを抑えた。そして悔しそうに腕を降ろした。


李はふっと笑みを浮かべた。


「いい子ね。さすが誠くん。優しい、物分りがある」


 誠は無理矢理起き、李をどかすと湊を追いかけた。


その場に残された李は、上着を着ると笑みを浮かべた。


「大成功かな。これで、完璧……」




 湊は走っていた。全力で、ただがむしゃらにかけていた。頭の中ではさっきの姿が映し出される。


「なんで、なんでなの……兄さん……なんで」


 湊は溢れる涙を流し、息が切れようと走っていった。


 誠は湊のあとを追うが見つからない。どこにいったのだろうか。このままでは誤解を解くにも何もできない。


「くそ。湊、どこにいったんだ……」


 誠は再び湊が行きそうなところを手当たり次第に向かった。


 日が暮れ、静寂な夜が訪れた。


湊は自分の部屋で、電気も着けず暗い中、ベッドに顔をうずめながら泣いていた。


「うっ……うっ……兄さん……」


 湊はシーツをぎゅっと掴んだ。


誠が浮気をしているなんて思わなかった。ずっと、これからもずっと、誠は自分のそばにいてくれると思った。それなのに……。


 信じてた。誠はそんなことせず、自分だけを見つめ、愛してくれるって。


だから、自分も負けないくらいの愛情を注いでいたのに。誠の愛に、必死に応えようと努力をしてきたのに。


「兄さん……。……兄さん……」


 湊はそっと手にはめてある指輪を見た。


誠から誕生日に貰ったエンゲージリング。将来は結婚しようと誓ってはめたのに。


 湊は指から外すとおもいっきり投げ捨てた。壁に当たった音がし、どこかに消えてしまった。


 これで、もう誓いも、誠との絆も、全て無くなった――。


「うわあああああああああああ――――!」


 誠は湊の部屋の前で戸惑っていた。


誤解を解きたい。だけど、中に入りたくても入れない。さっきから泣いている声が聞こえる。それが心に重く圧し掛かっていく。


この涙は、自分が作ってしまったのだろうか……。


 すぐにでも慰めたい。いつもなら慰めて、仲直りした。


でも、できなかった。あんな醜態を見せ、なんて言えばいいのだろうか。何をいっても無駄な気がする。


今自分にできることは、なに一つなかった……。


 誠は指にあるエンゲージリングを見つめた。


「なんで……なんでこうなったんだ? 俺がいったい、何したんだよ……」


 誠はその場に崩れ落ちた。そして悔し涙を静かに流し、拳を強く握った。




 次の日から二人は一言も口を開かなくなった。


湊はいつもよりずっと早く起き、誠が起きる時間よりも早くに家を出る。居間には朝食は作ってある。その隣に弁当箱が置いてある。


 誠はその朝食を静かに食べていく。いつもなら、目の前には湊の元気な笑顔があるのに、今はない。


今自分は一人だった。広い空間の中に、一人残され、孤独を感じた。


「また、俺は一人か……」


 学校に着くと、誠は屋上に向かった。こんな状態で授業なんて受けたくなかった。風にでも当たってゆっくりしたかった。


誠は床に仰向けに寝転がると、空を眺めた。


 青い空だった。気持ちの良い風が吹き、雲が泳いでいた。自分もあんな風に自由になりたかった。


 すると、自分の頭の上に誰かが立っているのに気づいた。その生徒はしゃがみ込み誠の顔を覗いた。


「授業をサボる不良は誰かな?」


 そこには李がいた。憎たらしいような可愛いらしい笑みを浮かべて見てくる。


誠は起き上がると睨みつけた。


「今授業中だろ。何でお前がいるんだよ」


「へへ。抜け出してきたの。誠くんに会いたかったから」


 李が無邪気に笑顔を見せる。


「……なんでここだとわかった」


「言ったでしょ。私は誠くんのことなら何でもわかるよ」


 李は満面の笑みを浮かべる。誠は相変わらず睨みつけるのを止めない。


「お前、なんで瞳のスカイが効かないんだ?」


 誠は単刀直入に訊く。


瞳はスカイで、誠と湊の幸せのために使った。誰からも批判も悪事もされず、一生幸せでいられるようにと。


つまり、誠と湊の邪魔も何もできないはず。


スカイの力は絶対。なのに、李はまったく効いていなかった。だからあんなことができたのだ。


 李は立ち上がると、大きく腕を伸ばし、そっと空を見ながら答えた。


「スカイか……。……私はね、スカイを使って全てのスカイの力を無効化してほしいって願ったの。だから、私にスカイは通用しない」


「でも、お前は東京から来たって言ったよな。この島で生まれないと、スカイは使えないぞ」


「元はここに住んでたんだよ。でも、親の都合で東京に転勤したの。それで、またここに帰ってきたの」


「それで、お前の狙いはなんだ。なんで邪魔するんだよ」


 李はふっと笑みを浮かべた。


「今それは言えないわね。たとえこの口が裂けても」


 誠は舌打ちをすると李から視線を外した。李は再びしゃがみ込むと、誠の顔を覗き込んだ。


「ねぇ、湊ちゃんはどうなったの? 泣いちゃった?」


「……ああ。お前のせいでな」


 誠は怒りを込めて言った。


「それで、仲直りしたの?」


 その質問に誠は黙った。


「なんだ、仲直りしてないんだ。それじゃ、二人はここまでなんだね。ご愁傷様」


 そこで誠は起き上がると、李の前襟を掴み、鋭い目つきで睨みつめた。


「お前のせいだろ! お前のせいでこうなったんだ! ずっとうまくいってたのに、お前のせいで、全てめちゃくちゃに崩れたんだ!」


 誠の怒声に李は動じなかった。そして口を動かし、冷たい口調でいった。


「でも、その程度の仲なんでしょ?」


「……え?」


「ちょっと彼氏が浮気したくらいで泣いてすぐに別れるなんて、まぁ、ちょっとかわいいけど、訳も聞かずに決め付けて、勝手に泣いて破局。彼氏は助けてもやらず、慰めもしない。こんなんじゃ、いつか別れるのが落ちだね。早く別れることができてよかったじゃん」


「てめぇ!」


「だってそうでしょ! 付き合ってるなら、お互いのこと信じなさいよ! 恋愛ってそんなものなの? そんな簡単なことなの? ただ一緒にいるだけで付き合ってることになるの? そんなのただの友達じゃない! 人を好きになるってことはね、この何百億という世界の中からその人と出会い選んだってことなんだよ。その人が好きでたまらないから選んだんでしょ。だったら、その人のことを最後まで信じるのが本当の恋人でしょ! そんなんで付き合ってるっていうなら、別れたほうがいいに決まってるじゃない!」


 李が睨みつけてくる。誠は反論できず、そっと手を離した。


「お前、いったい何を考えてるんだ」


 李はニコッと笑みを浮かべた。


「さぁ~ね。自分で考えなさい。それと、私はまだ誠くんの邪魔をするからね」


 そういって李は手を振りながら行ってしまった。


 誠は悔しそうに歯を食いしばり、拳をアスファルトの上に振り落とした。


「くっ……」


 拳から傷みが湧き上がってくる。でも、それよりも心の方がよっぽど痛かった。


自分が情けない。こんなにも、自分は弱い人間だったのだろうか。


 誠は頭を抱え、ぎゅっと目を瞑った。


もう、方法はないのだろうか……。

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