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湊編 part2:天敵

 ある一人の少女が空港にいた。温かそうなマフラーを巻き、手を擦り合わせながら椅子に座っていた。


暖房は点いているが、さすがに寒い。時刻を確認し、そろそろだと思い、じっと待ち続ける。


そのとき、誰かに名前を呼ばれ、立ち上がった。


「あ、(すもも)! 久しぶり!」


 少女は李の手を取って飛び跳ねるように嬉しがっていた。


「久しぶりだね。元気だった?」


 李が訊いてくる。


「うん。元気にしてたよ」


「それで……あの話しは、実行するの?」


「……うん。これも、あの二人のためだから」


「そっか。わかった。協力してあげる。お世話になってるからね」


「へへ。何かお礼するね」


「でも、どうしてそこまでするの?」


「もちろん、あの二人には幸せになってもらいたいから。今も、そしてこれからもね」


 その少女はニコッと笑みを浮かべ、李と共に空港を後にした。




 冬休みが終わり、三学期が始まった。


大学の進学を希望する生徒たちは血眼になって勉学に励んでいる。


それとは違い、就職希望の誠はのんびりとしていた。運良く手ごろな仕事が見つかり、そこに働くことが決まったのだ。


残るは卒業のみとなった身には、早く面倒な授業をどうやって潰すかということしか考えることができなかった。


 そんな時に、珍しく転校生が来た。皆手を走らせるのを休ませ、廊下に立っている生徒に注目していた。


先生に呼ばれた転校生は、ゆっくりとドアを開け、教室の中に入ってきた。


 ドアが開いた瞬間、その生徒は肩まである少し長くサラサラとした髪をさっと払い、教卓の真ん中の位置に着いた。


転校生は先生からチョークを渡され、黒板に自分の名前を書いた。そしてみんなに向き直った。


「東京から着ました。明石李(あかしすもも)です。よろしくね」


 李はニコッと可愛らしい笑顔を見せた。すると、たちまち男子たちから満場の拍手が送られた。それに答え、李は軽く手を振った。


誠は別に何とも思えないし、自分には湊がいるので興味はなく、肘を着きながらその生徒は見ていた。


 すると、周りをぐるっと見渡していた李は、誠の存在に気づいた。


二人は目が合った。李はふっと笑みを浮かべた。


その笑みが、誠にはただの笑みではないように感じた。




 昼休みになり、誠はいつものように待っている湊と瞳のもとに行こうとした。


そのとき、誠の席にあの転校生が来た。


「私、明石李っていうの。よろしくね、誠くん」


「え? あ、ああ、よろしく……」


 誠は少し戸惑いながら挨拶した。


そのとき気づいたのだが、李の後ろにいる男子たちは睨むようにしてこっちを見ていた。


「あ、俺用事あるから、ごめんね」


 誠は席を立って教室から出ようとした。そのとき、李が誠の手を掴んだ。


「待って。私、誠くんに用があるの」


「俺に?」


 誠は疑問の表情になりながら李を見た。


 二人は李の要望で校舎裏に来た。人気の無いここは、静寂に包まれ、木の茂った匂いだけが鼻についた。


「おい、俺に用ってなんだよ。早くしないと、飯食う時間なくなるぞ」


 誠の数歩前を歩いている李に言う。李は立ち止まると振り返った。


「ふふ。昼ごはんならあとで奢ってあげるから我慢してよ。清水誠くん」


 李はまた可愛らしい笑みを浮かべて見てくる。


大抵の男子なら一ころで虜になるだろう。誠は鈍いし湊がいるからそんなことはなかったが。


「悪いけど、俺弁当あるから。だから早くしてくれ」


 そこで李はまた笑った。


「妹の湊ちゃんの弁当がそんなにいいの? ま、恋人の手作りだもんね。そりゃ、彼氏なら食べたいか」


 そこで誠は疑問を浮かべた。


なぜそんなことを知っているのだろうか。転校してきたばかりなのに、そんなこと知るはずない。


「お前、何でそんなこと知ってんだよ」


 李は手を後ろに回して可笑しそうに笑った。


「さて、何ででしょうね。当ててみてよ。誠くんならわかるでしょ?」


 誠はじっと考えた。


まさか、香と同じように心が読めるのだろうか。でも、さっきまで湊のことはまったく考えていなかった。それならわかるはずない。では、なぜ。


「わからない? ま、無理ないか。難しすぎるよね」


 李はその場でくるくる回りながら言う。


何を企んでいるのだろうか、何も読めないやつだった。


「おい、答えろ。なんでお前がそんなこと知ってんだ」


 誠は我慢できず、少し荒っぽい口調で言う。李は立ち止まって誠を見た。


「答えが知りたいなら、放課後、体育倉庫に来て。そこで、私の秘密教えて、あ・げ・る」


 李は最後にウインクしてその場から立ち去っていった。


「放課後、体育倉庫……」


 誠はさっきから嫌な予感しかしなかった。あの李という生徒に、全てを持っていかれそうで……。


 李は誠から離れると、鼻歌まじりで歩き、にやっと笑みを浮かべた。


「作戦成功。これで、誠くんは私のものだよ」




 放課後。誠は約束通り体育倉庫に向かおうとした。


すでに李の姿はない。先に行ったのだろうか。


教室で帰る準備をしているとき、湊が来た。


「兄さん。私ちょっと用事あるから。先に帰ってる?」


「ああ。俺も用事あるんだ。なら、校門の前で待ってるよ」


「うん。わかった」


「でも、用事ってなんだ?」


「うん。さっき先生から、体育で使った道具の片付けを手伝ってくれって言われて。瞳もなんだけど、どこか行っちゃって」


「そっか。なら仕方ないな。それにしても、瞳のやつ逃げたんじゃないだろうな」


「ふふ。まあ、何か用事があるんだよ。それじゃ、いくね」


 誠と湊は鞄を持つと、教室から出て行った。


 湊は先生から言われた通り、体育で使った道具の片付けをしてくれと頼まれた。


なぜか先生はすごく感心し、評価を上げるぞ、と言っていた。先生が頼んだのに、大げさだなと思った。


 誠は体育倉庫に着いた。ドアを開けると、すでに中には李がいた。床にマットを敷き、その上に座っていた。


「あ、来てくれたんだね。嬉しいな」


 李は可愛らしい笑みを浮かべている。


「それで、お前はいったい何なんだ。なぜ俺のことを知ってる」


「ふふ。だって、ここに来る前から知ってたもん。ある人から聞いてね」


「ある人? ある人って誰だよ」


 李は、暑い暑い、と言いながら、制服の上着を脱ぐと、その場に投げ捨てた。


「誠くんのことをよく知ってる人だよ。一番近くにいてね」


 すると、李は誠に近づき、上目遣いで見ながら肩に手を置いた。


「ねぇ、誠くんは、エッチ、したことある?」


「え?」


「だ~か~ら、エッチ、したことある?」


 李の甘い声が耳元で囁かられ、吐息がわかるほど近かった。


誠は視線を逸らし、声を震わせながら答えた。


「いや。な、ない……」


「ふふ。嘘だ~。彼女がいるのに一回もないなんておかしいよ。それなら……」


 李は誠の制服のボタンを外し、上着を脱がした。


「私が教えてあげる。練習と思ってね。一から教えるから安心して」


「は? ちょ、ちょっと待てよ。誰がそんなこと」


「あれ? 嫌なの? 目の前にこんな可愛い子がやろうって言っているのに断るんだ」


「ふ、ふざけんな! 誰が好きでも何でもないお前なんかと」


「ふ~ん。けっこう純粋なんだね。でも」


 李はマットの上に座ると、シャツの上のボタンを外し、胸の谷間を見せ付けた。そして、チラッと短いスカートの裾を上げた。


「これなら、どうかな?」


 李は笑みを浮かべ誠を見てくる。誠はその姿を見てごくっと唾を飲み込んだ。顔が赤くなるのがわかる。


「はは。やっぱりこんな姿見たら興奮するよね」


「バ、バカにすんな! そんなことのために来たんじゃない! 教えないなら俺は帰る!」


 誠は振り返って帰ろうとした。すると、後ろから李が抱きついてきた。


「どうしてそんなこというの? こんなに……誠くんのことが好きなのに」


「え?」


 そのとき、李が誠の体を引っ張り、二人はマットの上に倒れた。


「いてて、な、何すんだよ」


 誠は頭を擦りながら固く閉じていた目を開けた。


すると、目の前に李の顔があった。自分の上に李が乗っかり、誠を見つめてくる。


李は再び笑みを浮かべて甘い声で言った。


「誠くん。女の子がこんなに積極的なのに無視するなんて酷いよ。それに、私の秘密ならもう気づいてるでしょ? 誠くんには彼女いること知ってるのに、普通こんなことする?」


 そこで誠はあることに気づいた。ありえないことが今自分に起きているのだとわかった。


なぜ今自分はこんな状況に陥り、李は告白したのか。


「お、お前……」


 李はふっと不気味に笑みを浮かべて誠の顔を両手で触れた。


「気づいた? 私の秘密。少しは気づいたよね。それと……何を考えているのかも」


 そのとき、ガラッとドアが開かれた。眩しい光が注がれる。


二人はそのドアの前に立っている人物を見た。視界がはっきりし、その姿が映し出される。


その人物が誰かわかると、誠は目を大きく見開き、思わず口を開いた。


「み、湊……」


 そこには湊がいた。体育の道具を抱え、呆然とした表情で誠と李を見ていた。


「に、兄さん、何をして……」


 すると、李がニヤッと笑い、誠の顔を自分に向かせた。


そして李は目を閉じると顔を近づけキスをした。


誠はあまりに突然で驚いていた。


「に、兄さん……」


 湊はその光景を見て持っていた道具をその場に落とした。

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