69,聖都デート。
これで聖都には用はなくなった。《操縦》で夜空に舞い、帰途につく。けっこう帰路を進んでから、「あっ」と思い出した。
ミリカさんとベロニカさんを聖都に忘れてきた。
仕方ないので引き返すと、二人は酒場で、『どっちがお酒を飲めるか』対決をした挙句、泥酔していた。うーむ。すっごく置き去りにしたい。しかし、私の心は善意の塊でできているので、二人を宿に泊まらせ、私も一泊することに。まだ聖都にいると知ったら、クラウディアさんが約束が違うと怒るのでこっそりとしていないと。
ちなみに私は、〈倦怠艶女〉さんがここで這い出してきて、聖都の人たちを襲うとは危惧していない。なにも〈倦怠艶女〉さんが博愛主義とか言うわけではない。〈倦怠艶女〉さんにとって人間は虫けら以下だろうけど──それでも〈倦怠艶女〉さんの性格はある程度は把握した。
〈倦怠艶女〉さんにとって、どこだろうと大量虐殺するのは面倒すぎる。聖ルーン騎士団を全滅させたのは、本当に彼らがうるさかったから。この場合、うるさいというのは騒がしいとかではなく、魔素のうねりだろう。
複数の強化武器、それに〈開華のタネ〉によってスキルツリー覚醒した者たちが、あの場には多すぎた。スキル発動のさいには、魔素のうねり、のようなものが起こる。それが幾重にも重なることで、気持ちよく眠っていた〈倦怠艶女〉さんを叩き起こすほどの『うるささ』になったわけだ。あのような状況、そうそう起こるものではないよね。
そして夜が明けたよっ!
せっかくなので観光でもしていこう。見るとミリカさんが二日酔いで死んだように眠っている。しかしベロニカさんは? ふと殺気?を感じて振り返ると、ベロニカさんが抱き着いてきた。
「アリア! 目的はもう果たしたんでょ? 帝国を亡ぼしにかからなくて、ホッとしたわぁ。ということで、一緒に聖都デートしましょう」
少なくとも『飲んだ翌日』戦で勝利したのはベロニカさんだったか。
「神殿だけは行かないなら」
というわけで、ベロニカさんと外出。手を差しだしてきて、頬を赤らめて言う。
「アリアちゃん、あたしと手をつないでくれる?」
「なんでいきなり処女みたいに初々しくなるんですか?」
「ちょっとアリア、それは酷いよ。あたし、まだ経験ないんだから」
「この世は意外の連続である」
「ナレーション風に傷つくこと言わないで?」
仕方ないので、手をつなぐ。いや、私も嬉しいのである。ベロニカさんが痴女なので忘れられやすいが、美女さんであることに変わりはなし。だが私には、セシリアちゃんという『運命の相手』がいる身。ここでベロニカさんとデートなどしては、セシリアちゃんに悪い。いや、セシリアちゃんなら笑って許してくれるかも。ふーむ。となると次なる問題は、ミリカさんとベロニカさん、どっちを『第二妻』に迎えればいいのか。
デートというのは、まずカフェで甘いデザートを食べる。
「アリア、はい、あーんして」
「結構です」
「じゃ、あたしがあーんするから、食べさせて♪」
『あーん』しているベロニカさんの口に狙いを定めてスプーンからイチゴを発射し、見事に入れてみせた。
「…………あたしが思っていた『あーん』と違う」
その後は、衣服店めぐり。トレンドを作るのが帝国であり、アーテル王国は追随しているだけ──らしい。試着室からベロニカさんが出てきて、ポーズを決める。
「アリア。この服、どーお?」
「【覇王魔窟】攻略に向きませんね」
「じゃあ、こっちの服は?」
「【覇王魔窟】攻略に向きませんね」
「……基準が【覇王魔窟】攻略なの、やめてーアリア」
聖都探索しながら、ところでこの感覚、どこか見知っているに思えた。アーテル国の王都では感じなかったものだ(といっても、あんまり王都探索はしなかったけど)。聖都ならではの力だろうか。私は帝国民でもないし、ローズ教徒でもないけれど。この古くからある神殿のパワーで、私も懐かしい気持ちになっているのかも。
「えー、そうかなぁ?」
と、疑問を呟いてみたら、ハッキリした。私はやはり、この聖都に来たことがある。否、この聖都とよく似た場所に。というより、よく似た空気感のある場所に。
「ああ、なるほど【覇王魔窟】ですね」
「え? 【覇王魔窟】がどうかしたのアリア?」
「いえいえ。世の中には、謎は多いということです」
しかし、その謎は解き明かさなくてもいいや。
少なくとも、『【覇王魔窟】を完全攻略し、その過程で〈倦怠艶女〉さんを体内から出し、〈悪鬼羅刹〉くんを殺してベロニカさんの体内の魔素の爆弾をなくし、そしてセシリアちゃんとの同性婚を可能にする』だけが目的の私としては、『【覇王魔窟】と聖都になぜ関連性を感じるのか』という謎を深堀する意味は、ない。
宿に戻ると、復活したミリカさんが、実に拗ねていた。
「アリアさん、私という者がありながら──ベロニカなんかと!」
「まぁまぁ、アーテル国に戻ったに、デートしてあげますから。さ、帰りますよ」
「え、本当に? ではアリアさん、二泊三日の旅行プランをいまから練ろう」
「なんで泊まり前提なのよ、バカなの死ねば?」とベロニカさん。
「なんだと!」
たぶん、この二人、本当は仲がいいのだ。私は信じている。
それを現実逃避というのかもだけど。
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