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56/202

56,ままならない。

 


 ロクウさんが奮闘し、聖ルーン騎士団相手に一歩も引かぬ戦い。


 私はあぐらをかき、なんだかなぁ、という気持ちで見守った。聖ルーン騎士団なんて聞いたこともない。それなのに、勝手に夜中に突撃されて、魔物あつかいされるなんて。まあ魔物化していますけども。それでも、理不尽だなぁ。ただロクウさんは、いい人だ。いい弟子をもったものだ。いい弟子をもったもの……


「先生っ! 先生っ! そんなところで寝ないでください先生!」


「はい? ああ、すいません寝てました。あ、ロクウさん危ないですっ」


 ロクウさんの背後から、白騎士の一人が戦槌を振り下ろしてきた。私はロクウさんを押しのけて、自らの右腕で戦槌をガードする。(防御Lv.6)によって無傷での防御。


 さてと、嫌だけど考えてみよう。敵が4人いるとき、どう排除するべきなのか。まず手始めに、一人目に致命傷を与える。大事なのは、命までは取らないことです。戦槌の白騎士さんを転ばせ、首をむきだしにした。


「ロクウさん。頸動脈を切断してください。ふむ。生身の防御力自体は高くなさそうなので、斬撃スキルを使うまでもないでしょう」


 ロクウさんが素早く刀を一閃させ、戦槌の白騎士さんの頸動脈を切断。物凄い勢いで出血しだすので、私は右手の指で切断血管をつまんで止血。それから、ほか3名の白騎士さんに言う。


「はい、お下がりください。いいですか、皆さん。私がこの切断血管から指を離せば、その出血は激しく、あっという間に失血死することでしょう。しかしここで、皆さんが引き下がってくれるのならば、この方を手当できるように差し上げますよ」


「問答無用だ!」


 片手剣の白騎士さんが、《聖なる斬撃(ジャスティスブレイド)》を放ってくる。私は角度を調整してから、戦槌の白騎士さんの頸動脈から指を離す。噴出する血液が、片手剣の白騎士さんの眼に入る。


「ぐわっっ!」


聖なる斬撃(ジャスティスブレイド)》が外れたので、そこをロクウさんが《臥斬り》発動。片手剣の白騎士さんの首を刎ねる。切断された生首を私はキャッチして、残り2人の白騎士さんたちへと突き付ける。


「命あってのなんたらと言いますよ。ここらで、手を引いたらどうでしょう。いったん撤退し、戦力を整えてから、また戻ってくればいいのでは?」


 白騎士さんたちの中で、一人だけ名前が判明している人がいる(片手剣の白騎士さんが名前を口にしたので)。それが、はじめに私に槍の一撃をくれた、ウースさんだ。そのウースさんが悔しそうに言う。


「くっ、いいだろう。今回だけは見逃してやろう。だが、次はないぞ魔物が」


 ロクウさんが激怒する。


「先生を魔物呼ばわりするとは、殺してくれようぞ!」


「まぁまぁ、待ってくださいロクウさん。行かせてあげましょう。無益な戦闘は避けたいものです」


 白騎士さんたちが立ち去ったので、私は生首をポイ捨てた。野生の獣が、この死体たちを片付けてくれることだろう。夜中に襲撃してきた人たちなので、埋葬までする義務もあるまい。


「ロクウさん、戻ってきたということは100階まで攻略したようですね。しかし夜中に報告に来るとは──いえ、そのおかげで助かりましたけども」


「先生でしたら、あんな白騎士ども、やろうと思えば瞬殺できたことでしょう。拙者、余計なことをしてしまったようで申し訳ありませぬ」


「うーん。いまの私は、魔改造(くわ)〈スーパーコンボ〉を失った身ですから、苦戦したと思いますよ」


 とはいえ、私も【覇王魔窟】を199階まで攻略したという自負があるので、やろうと思えば勝つことはできた。白騎士さんたちのスキル攻撃では、(防御Lv.6)に対しては有効打とはならなかった。こちらは〈スーパーコンボ〉と攻撃方法が似ている戦槌を鹵獲して戦う。ただし〈スーパーコンボ〉ではないので打撃スキルは使えず、(打撃Lv.6)も機能しないだろうから、かなりの長期戦を強いられたことだろうけれども。まぁとにかく、無益な争いは避けるに限ります。


「先生、これからどうしましょうか? ハーバン伯爵は、あなたに借りがあるはずです。だから伯爵邸にかくまってもらってはどうでしょうか」


「いえ、ミリカさんに迷惑はかけたくありません」


 聖ルーン騎士団さんたちは、私が魔物化していることを知っていた。通報があった、ということも口にしていた。すると、通報者はジェシカさんだろうか。少なくとも、エルフさんたちが関与している疑いは強い。私を魔物化した張本人たちだし。

 ただ私は、この件については感謝している。純度100%の魔素を注ぎ込んでくれたおかげで、四肢再生も行われたわけだし。その代償として魔物化したというのなら、別に構わない。ただ事情を話してくれなかった点は、ちょっと裏切られた感もあるのは事実です。夜逃げしたし。


「ところでロクウさん。聖ルーン騎士団って、聞いたことあります?」


「いえ先生、残念ながら、初耳です」


「ですよねぇ」


 魔物退治を専門とする騎士団ぽかったけども。だけど魔物は、【覇王魔窟】内にしかいないものでは? うーん。でも、現に私は魔物化してからも、何か月も外の世界で暮らしているし。〈悪鬼羅刹ザ・ボーイ〉の例もあるし。というか、私の体内では〈倦怠艶女ミスティナ〉さんも眠っているし。案外、魔物って外の世界でもいるのだろうか。


「ロクウさん。どうやら私は、お尋ね者になってしまったようです。あなたも一緒にいると、付け狙われることになりますよ?」


「先生。拙者は、どこまでも先生についていきますぞ!」


「暑苦しいけど、ありがとうです」


 ソロプレイが好ましいのは変わらないけど、ロクウさんには一度、助太刀してもらったので追い払うのは罪悪感。しばし、二人で冒険することになるのだろうか。


 そして──4日後。

 私は、総勢500人の部下を抱えるギルドの長となっていた。


 心から頭を抱える。


「……………………どうして、こんなことに?」


 人生とは、ままならないものですね。

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