56,ままならない。
ロクウさんが奮闘し、聖ルーン騎士団相手に一歩も引かぬ戦い。
私はあぐらをかき、なんだかなぁ、という気持ちで見守った。聖ルーン騎士団なんて聞いたこともない。それなのに、勝手に夜中に突撃されて、魔物あつかいされるなんて。まあ魔物化していますけども。それでも、理不尽だなぁ。ただロクウさんは、いい人だ。いい弟子をもったものだ。いい弟子をもったもの……
「先生っ! 先生っ! そんなところで寝ないでください先生!」
「はい? ああ、すいません寝てました。あ、ロクウさん危ないですっ」
ロクウさんの背後から、白騎士の一人が戦槌を振り下ろしてきた。私はロクウさんを押しのけて、自らの右腕で戦槌をガードする。(防御Lv.6)によって無傷での防御。
さてと、嫌だけど考えてみよう。敵が4人いるとき、どう排除するべきなのか。まず手始めに、一人目に致命傷を与える。大事なのは、命までは取らないことです。戦槌の白騎士さんを転ばせ、首をむきだしにした。
「ロクウさん。頸動脈を切断してください。ふむ。生身の防御力自体は高くなさそうなので、斬撃スキルを使うまでもないでしょう」
ロクウさんが素早く刀を一閃させ、戦槌の白騎士さんの頸動脈を切断。物凄い勢いで出血しだすので、私は右手の指で切断血管をつまんで止血。それから、ほか3名の白騎士さんに言う。
「はい、お下がりください。いいですか、皆さん。私がこの切断血管から指を離せば、その出血は激しく、あっという間に失血死することでしょう。しかしここで、皆さんが引き下がってくれるのならば、この方を手当できるように差し上げますよ」
「問答無用だ!」
片手剣の白騎士さんが、《聖なる斬撃》を放ってくる。私は角度を調整してから、戦槌の白騎士さんの頸動脈から指を離す。噴出する血液が、片手剣の白騎士さんの眼に入る。
「ぐわっっ!」
《聖なる斬撃》が外れたので、そこをロクウさんが《臥斬り》発動。片手剣の白騎士さんの首を刎ねる。切断された生首を私はキャッチして、残り2人の白騎士さんたちへと突き付ける。
「命あってのなんたらと言いますよ。ここらで、手を引いたらどうでしょう。いったん撤退し、戦力を整えてから、また戻ってくればいいのでは?」
白騎士さんたちの中で、一人だけ名前が判明している人がいる(片手剣の白騎士さんが名前を口にしたので)。それが、はじめに私に槍の一撃をくれた、ウースさんだ。そのウースさんが悔しそうに言う。
「くっ、いいだろう。今回だけは見逃してやろう。だが、次はないぞ魔物が」
ロクウさんが激怒する。
「先生を魔物呼ばわりするとは、殺してくれようぞ!」
「まぁまぁ、待ってくださいロクウさん。行かせてあげましょう。無益な戦闘は避けたいものです」
白騎士さんたちが立ち去ったので、私は生首をポイ捨てた。野生の獣が、この死体たちを片付けてくれることだろう。夜中に襲撃してきた人たちなので、埋葬までする義務もあるまい。
「ロクウさん、戻ってきたということは100階まで攻略したようですね。しかし夜中に報告に来るとは──いえ、そのおかげで助かりましたけども」
「先生でしたら、あんな白騎士ども、やろうと思えば瞬殺できたことでしょう。拙者、余計なことをしてしまったようで申し訳ありませぬ」
「うーん。いまの私は、魔改造鍬〈スーパーコンボ〉を失った身ですから、苦戦したと思いますよ」
とはいえ、私も【覇王魔窟】を199階まで攻略したという自負があるので、やろうと思えば勝つことはできた。白騎士さんたちのスキル攻撃では、(防御Lv.6)に対しては有効打とはならなかった。こちらは〈スーパーコンボ〉と攻撃方法が似ている戦槌を鹵獲して戦う。ただし〈スーパーコンボ〉ではないので打撃スキルは使えず、(打撃Lv.6)も機能しないだろうから、かなりの長期戦を強いられたことだろうけれども。まぁとにかく、無益な争いは避けるに限ります。
「先生、これからどうしましょうか? ハーバン伯爵は、あなたに借りがあるはずです。だから伯爵邸にかくまってもらってはどうでしょうか」
「いえ、ミリカさんに迷惑はかけたくありません」
聖ルーン騎士団さんたちは、私が魔物化していることを知っていた。通報があった、ということも口にしていた。すると、通報者はジェシカさんだろうか。少なくとも、エルフさんたちが関与している疑いは強い。私を魔物化した張本人たちだし。
ただ私は、この件については感謝している。純度100%の魔素を注ぎ込んでくれたおかげで、四肢再生も行われたわけだし。その代償として魔物化したというのなら、別に構わない。ただ事情を話してくれなかった点は、ちょっと裏切られた感もあるのは事実です。夜逃げしたし。
「ところでロクウさん。聖ルーン騎士団って、聞いたことあります?」
「いえ先生、残念ながら、初耳です」
「ですよねぇ」
魔物退治を専門とする騎士団ぽかったけども。だけど魔物は、【覇王魔窟】内にしかいないものでは? うーん。でも、現に私は魔物化してからも、何か月も外の世界で暮らしているし。〈悪鬼羅刹〉の例もあるし。というか、私の体内では〈倦怠艶女〉さんも眠っているし。案外、魔物って外の世界でもいるのだろうか。
「ロクウさん。どうやら私は、お尋ね者になってしまったようです。あなたも一緒にいると、付け狙われることになりますよ?」
「先生。拙者は、どこまでも先生についていきますぞ!」
「暑苦しいけど、ありがとうです」
ソロプレイが好ましいのは変わらないけど、ロクウさんには一度、助太刀してもらったので追い払うのは罪悪感。しばし、二人で冒険することになるのだろうか。
そして──4日後。
私は、総勢500人の部下を抱えるギルドの長となっていた。
心から頭を抱える。
「……………………どうして、こんなことに?」
人生とは、ままならないものですね。
ブクマ登録
評価などお願いしますー!




