40,叙勲式。
叙勲式は王都で行われるという。退院した私はエルフの里より出立。お供にジェシカさん。え、ジェシカさん?
「ジェシカさんも来るんですか? 一般的にエルフは絶滅したことになっているんですよね? 大丈夫なんですか?」
「ボクの可愛い耳を、この秘密道具。テッテレー。耳あて帽子をかぶることで、隠せば大丈夫」
まぁ、知識のない人が唯一エルフをエルフと見抜くのは、この尖がった耳だからなぁ。それを隠せば大丈夫、という安易な発想、嫌いじゃないです。
「しかし、なぜリスク冒してまでついて来るんですか?」
「キミがまた逃げないようにだよ。ボクが『アリアは叙勲式に絶対行くぜっ』と太鼓判おしたから、ミリカも王政府と連絡とって、叙勲式の日取りを設定したんだからさ。それに主役であるキミが出席しなかったら、誰が文句を言われると思っているんだ。ボクだぞ、ボク」
「エルフなのに、気が弱いですね」
「キミは知らないようだが、ミリカはキレると怖いぞ」
王都へ行くには、都市同士をつなぐ大街道を行くのだ。ちなみにこの大街道については、『他国から侵攻されたら、この整備された道を通って王都に直行で困るじゃん』派と、『王都に行くのが大変だと他国との交易も大変じゃん舐めてんのか』派で論争が絶えず、たいてい最後は殴り合いの喧嘩になるらしい。
私としては、まさか王都に行くことがあるとは、夢にも思わなかった。
アーテル国の中心であり、人々で賑わう王都である。そんな場所に、何が嬉しくて行かねばならないのか。だいたい、かつての私は、先祖代々つたわってきたカブ畑の半径1キロより外には、出ないものと思っていた。
かくして王都に到着。
王都の広さは、中核都市ボーンの3倍だというが、そもそもボーンがどこまで広かったのかもよく覚えていない。ただドラゴンと戦闘しても壊滅しない程度には大きかったね、と。
王都を囲う高さ50メートルの王壁を眺めながら、ぞろぞろと王都門への行列に加わる。この行列がまた長かったなぁ。
とにかく身許を名乗り、「ハーバン伯爵のお客様」ということで、別ルートで王城まで案内された。その途中、ジェシカさんが小声で言ってくる。
「そういえばミリカのパパであるハーバン伯爵は、国王派なんだよ。だからすんなり叙勲式も行えるよう取り計らえたわけ」
「私、そういう国内政治とか興味ないです」
そのまま王城の待合室へと行かされた。結局、王都見物はしなくて良さそうだ。ふかふかの椅子に座って、脳内で魔改造鍬〈スーパーコンボ〉のスキルツリーを眺める。
未解放パネルは、先の先までは分からない。だからどのルートに開拓を進めれば、〈鎌鼬〉の神速に対抗できるパネルが眠っているかは分からないのだ。
防御領域ではないと思うけど、打撃領域を進めた結果、威力アップばかり重視のスキルパネルだけ出てきても困る。
それとも、パネル頼みすぎるのだろうか。
まてよ。〈鎌鼬〉は、いきなり強くなりすぎなのでは? あの速度で、防御不可(の可能性が高い)鋭い攻撃。
もしかすると、明確な攻略法が存在するのでは? それさえ分かると、楽勝というタイプ。【覇王魔窟】を創った古代神の声が聞こえるようでは? 『力技系の魔物ばかりで飽きただろうから、ここいらで頭を柔らかくしたまえ』と。
ふむ。一考に値する。
待合室に叙勲式のスタッフが来て、これより式を始めるという。ちなみにジェシカさんは私のお供ということで、同席を許可されているとか。
ジェシカさんが耳元で、ちょっとイライラした様子で言ってきた。
「最も偉大なる種族であるエルフをお供にするとは、キミも生意気だなぁ」
「あのー、私が頼んだわけじゃないですからね。だいたいエルフという事実は極秘でしょ」
というわけで、叙勲式である。
私は後ろのほうの席に座っていた。眠たい。隣席のジェシカさんが、「あれ、まった。これって、キミが主役の式じゃなかったっけ? なんでこんな後ろの席なんだ?」と言っている。
私は、どうでもいい。〈鎌鼬〉の攻略法について考えながら、なんとなく叙勲式を眺めている。
ミリカさんが〈橙鎧龍〉討伐の功績をたたえられ、国王じきじきに勲章を授かるところだった。ミリカさんは、どことなく不満そうだが、愛想笑いは忘れていない。
ジェシカさんが納得したように、小声で言ってきた。
「ははぁ。ミリカめ、はめられたな」
「どういうことです?」
「国王サイドとしては、ミリカに対しての叙勲式を行いたかったんだよ。〈橙鎧龍〉討伐の件で国民が納得のいく英雄が必要だったし、ハーバン伯爵との友好も深められるしね。ただ肝心のミリカが、それを拒否っていた。アリアこそが、勲章を授かるにふさわしいと。そこで国王サイドは、『じゃぁそのアリアのため叙勲式を行いましょう』と話を進め、ミリカも満足。しかし蓋をあけてみたら、主役はミリカだった。ところが今更、ミリカも嫌とは言えない。で、こうなった」
私は、ついニコニコしてしまった。
「私が主役じゃないのはいいことですねぇ」
叙勲式が続く中で、ちょっとした顛末があった。ラザ帝国の女帝さんより祝辞をいただいたそうだが、その内容がちょっと変てこだったのだ。
代読されたわけだが、『アリアちゃん、アリアちゃん、アリアちゃん、アリアちゃん、アリアちゃん、アリアちゃん、アリアちゃん、アリアちゃん、アリアちゃん、アリアちゃん、アリアちゃん、アリアちゃん、アリアちゃーん』だけ。
なんか会場がざわつく。私はほとんど転寝していたのだが、なんとなく目が醒めた。
ジェシカさんが、なんだコイツ、という顔で私を見ている。
「どうしてラザ帝国の統治者である女帝オーロラが、わざわざキミを名指しで祝辞を寄越すんだ? そもそも、あれは祝辞なの? ストーカーのラブレターぽかったけども」
「知りませんよ。誰ですか、オーロラって?」
「ラザ帝国の女帝だってば。帝位継承争いに勝利した、元継承権第6位だった皇女。なぜにキミは知らない?」
私は自分のことで精いっぱいなのに、他国の継承争いなどにまで構っているヒマはない。いまは天国のママは言ったものだ。「自分の容量内で頑張るのよ」と。帝国のことなど容量外だ。
「ジェシカさん。私、ちょっと花をアレしてきます、えーと、花をハラワタに入れる?」
「お花を摘みにいく?」
「そうそう、つまりおしっこです」
「……ボクもついていく」
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