4,魔改造。
エルフのジェシカさんが言った。
「まず、〈挑戦者〉というのは、冒険者や戦士、騎士などなど。とにかく実戦向きの者たちがなるものだね。少なくとも農家の娘がなったのは、初めてじゃないかな」
私は、「おおっ」と感動した。
「私は前人未到の女なんですね、分かりました。すでに歴史を作ってしまったんですね、分かります」
「……ポジティブだね、キミは。とにかく、戦闘訓練を受けた者。または魔導士もいるねぇ。ただ彼らは、呪文の計算式を毎回はじき出さないといけない。そのときの環境とかで計算式は変わるからねぇ。だから時間がかかる。魔法が発動しちゃうと大きいんだけど、そこまでが長いよねぇ」
ジェシカさんの言い草だと、魔導士の評価が低そうだ。まぁ魔法の素質0の私からしたら、無関係な話ではあるけれども。
「だけど回復魔法とかあるじゃないですか」
「あ、それは存在しない。回復魔法なんて、俗にいうところの都市伝説。河童みたいな感じ」
「え? 河童さんって、存在しないんですか? エルフさんの友達かと」
「なんで河童がエルフの友達なんだ。バカにしてる? というか河童はどーでもいいんだよ。肝心なのは、回復魔法というものは存在しない。〖女神の泉〗みたいな回復スポットはあるけどね。
あのさ。都合が良すぎるでしょ。負傷をその場で癒してくれる回復魔法とか。世界は、そんな甘くないんだなぁ。あ、ただ医療道具をもった治療特化の衛生兵タイプは、たいていのパーティに一人はいるかな」
回復魔法が存在しないということは、たとえば【覇王魔窟】17階とかで右手が切断されても、または腹部が裂けてハラワタが飛び出ても、そのまま頑張らないとなんだなぁ。
「ジェシカさん。私、魔法は使えないし、戦闘訓練とかも受けたことがないんですけど」
ここでジェシカさんが、伝家の宝刀的なノリで、あるものを取り出してきた。その稀少なアイテムを、私は見たことがある。〈開華のタネ〉だ。
「キミはさ、スキルの素質があるかもよ」
魔法とは異なる体系として確立された、スキル。
そんなスキルを会得し、さらに強化していくためには、スキルツリーの覚醒が不可欠。そしてスキルツリー覚醒のキッカケを作れるのが〈開華のタネ〉。
昔、〈開華のタネ〉を食べたセシリアちゃんも、スキルツリーを覚醒させ、しかも驚異的な速度でスキルツリーを進化成長させていった。
ただし、もちろん誰もが〈開華のタネ〉を食べればスキルツリーを覚醒できるわけではない。10万人に1人程度の割合だと言われている。
「あの………〈開華のタネ〉、幼いころに私も食べたことがあるんですよ」
「え、そうなの? へぇ〈開華のタネ〉って、稀少アイテムなのに農家の娘がねぇ。それで、どうだった?」
「………………3日間、お腹を壊して終わりました。一応言っておきますと、スキルツリー覚醒はなしです」
重たい沈黙。
それからジェシカさんが溜息をついて、
「とすると、最後の手段だね。キミがやることは、ひたすら、ひたすら、ひたすら、ひたすら、ひたすら、ひたすら──武器を強化し続けるのだ。このキミの相棒である、家宝の鍬を」
と言って、私に曾祖父から受け継がれし鍬を放ってよこしてきた。
私は大事に受け取る。
「そういえば、私の鍬、魔素というものを取り込んでいるとか」
「そ。武器強化は、魔素の獲得によってなされるわけ。たとえばスキル持ちが、戦闘などの経験を得ることでスキルツリーを育てていくようにね。
で、魔素を効率よく獲得するためには、魔物を倒すことだ。これも古代神のはからいなんだけど、魔物を構築しているのが、なにあろう魔素なのだねぇ。だから【覇王魔窟】の魔物は永久に復活しつづけることができるし、そんな魔物を殺すことで──」
「私の鍬が、進化するわけですね」
「しかも、ただ進化するだけじゃないよ。どのように進化させ強化させ、そしてスキルを覚えさせるかは、キミが決めるのだ。だから魔改造ともいえる。蓄積した魔素量が多くなれば、それほど魔改造もパワーアップしていくのだね」
「はぁ。え、まってください。いま『スキルを覚えさせる』って──」
「魔素によって強化された武器は、独自のスキルツリーを会得する。キミに素質がなくとも、キミの鍬には素質があったのだ。ある意味では、使い手であるキミより出来た奴。それがキミの鍬」
「さすが曾祖父より受け継がれし鍬です。何百という春夏秋冬を壊れずに乗り越えてきたのは、伊達じゃないんですねぇ。感動しました」
感動しながら、ある重要なことに気づいた。私の鍬を進化させるには、魔素が必要。魔素ゲットだぜ!には、魔物を倒す必要がある。そして魔物さんは、【覇王魔窟】にしかいない。
「えーと。すると私は、今のレベルの鍬とともに、再度【覇王魔窟】の1階に挑まなきゃダメということですよね? 蠍群魔さんたちと再戦し、殺さないと、魔素を得ることができないわけですし」
「まぁね。もちろん畑を耕しているだけでも魔素は少しは得られるよ。魔素って、大地にもあるから。ただそういう手段だと、武器の強さをはかる武装Lv.が1から2に上がるまで、50年はかかるだろうね。50年後、再チャレンジする?」
「………いえ、いま頑張ります」
「うむ。じゃ、そんなキミに、チートなアイテムを授けよう。これ、持っている〈挑戦者〉は、世界でもキミだけだと思うなぁ。エルフ族の支援を得るとは、こういう特典があるのだよ」
そう得意げにジェシカさんが取り出してきたのは、トンカチ。なんか汚れているトンカチ。
「私、大工さんの娘じゃないんで、えーと、いらないです」
「あのね。ただのトンカチなわけがないでしょ。これは正式名称〈緊急脱出トンカチ〉。【覇王魔窟】内で、これで自分の頭を叩くと」
「え、トンカチで叩くんですか? 思い切り?」
「軽くでいいから。思い切りやったら脳震盪とか起こすでしょうが。とにかく【覇王魔窟】内にいるとき〈緊急脱出トンカチ〉で頭を叩けば、【覇王魔窟】の外まで一瞬で空間転移できる。たとえ何階にいてもね」
「え、じゃぁ?」
「そう。命がヤバくなったりしたら、無理はせずに〈緊急脱出トンカチ〉で速攻脱出すればいいわけ。それだけじゃなくて、武器強化とかに満足したら、いったんこれで帰還し、休息をとってまたチャレンジもできる。ただし──そのときは、また【覇王魔窟】の1階からやり直しだけどねぇ」
「え? 攻略した階から再開はできないんですか? 【覇王魔窟】の外から攻略階まで、一瞬で転移したりとか」
「そんな都合のいいものはなぁぁぁぁぁいっっ!!」
と一喝されてしまった。
ですよねぇ。
面白いと思ったら、ブクマと評価、よろしくお願いしますー!。




