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32/202

32,通り名〈カブ畑の戦乙女〉。

 


 えーーーーーーーー。


 いやいや、ゾンビだよね? 生徒さんたち、いい感じにゾンビってるよね? ゾンビのお子さん元気ですね、という感じなんだけども。これって指摘するのが、逆に野暮なのだろうか。


「あのー、とりあえず都市の外までお送りしましょうか?」


 ジョアンナさん、心からホッとした様子。


「助かります~。これで生徒たちも一安心ですね」


「……………………………………あの、分かりました。ちょっと待ってください。いったん、立ち止まって考えてみましょう」


 このままジョアンナさんとゾンビ生徒たちを連れ出すのは容易い。現状、〈蚤量魔フリーデッド〉は何体来ようとも問題ではない。というより、都市の住人には申し訳ないが、〈蚤量魔フリーデッド〉が飛散したのは幸運なことだろう。

 つまり、真に〈蚤量魔フリーデッド〉が厄介となる流れは、〈橙鎧龍オレンジドラゴン〉との一騎打ちのとき邪魔されることだ。

蚤量魔フリーデッド〉が宿主である〈橙鎧龍オレンジドラゴン〉の表皮からいなくなっているのならば、実に助かる話。


 とにかく本題に戻ると、ジョアンナさんとゾンビ生徒を連れ出すのは容易いが、問題はそのあと。どーーーーーう考えても、ゾンビ生徒たちは、騎士団あたりに駆除されること絶対。うーん、それはそれで寝覚めが悪い。


「いったん落ち着いて、これまで避難していた場所に戻りましょう。ジョアンナさん、それでいいですね?」


「はい、構いませんが──何か問題でも」


「えーと。私、少し前までカブ畑の心配だけしていれば良かったんですよ」


「はい?」


 私は黙ったまま、首を振った。

 カブ畑のことだけ心配していれば良かった時代は、なんだか終わってしまったらしい。

 今は、ベロニカさんの体内に埋め込まれた魔素のことや、王国内で暴れ回るドラゴンや、はたまたウッカリ遭遇してしまった女教師さんとゾンビ生徒たちのことまで──私が心配することのようだ。

 あぁ、快適で孤独な日々よ、さようなら。

 しかし、両親の教えは、自分の責任はまっとうしなさい、だった。カブ畑は守れなかったけど、責任は果たした(カブ畑虐殺の関係者は、天国へと強制的に召した)。

 だから次は、このゾンビ生徒たちや、ドラゴン討伐やらの責任を果たそうではありませんか。


「あの、大丈夫ですか?」


 とジョアンナさんに、心配そうに問いかけられた。


「え、はい大丈夫です。いま決意タイムのため、しばし脳が停止していただけです。そういえば、私はまだ名乗っていませんでしたね。私は、アリアといいます」


「アリアさん──いえ、通り名〈カブ畑の戦乙女〉ですね。あの有名な」


「いえ、ぜんぜん有名ではないんですけど。というか、そんな通り名もありませんし」


「きっとすぐに有名になりますよ。わたくし、そういうのには予言めいた力があるのです。たとえば、数年前。かのラザ帝国においての、帝位をめぐっての熾烈な争い。それはこのアーテル国の国民も、他人事ではありませんでしたよね。ラザ帝国の皇帝が誰になるかは、周辺国にとっても重大事でしたからね」


「えーと。そうでしたっけ?」


 ここでジョアンナさん、謎のドヤ顔。


「わたくし、自慢ではありませんが、早い段階から、当時の帝位継承権第6位である皇女オーロラこそが、帝位に継ぐと確信していました。実際、その通りになったでしょう?」


 正直、縁もゆかりもないラザ帝国の帝位に誰が就こうが、大いにどうでもいい。


「そんなことより、ジョアンナさん。早く案内を──あ、ちょっと待っていてください」


 人の気配がしたので、魔改造(くわ)〈スーパーコンボ〉にまたがって飛翔。上空から見ると、25人のパーティ、というより分隊が二個。互いに連携を取りながら移動してきている。

 このままの進路だと、ジョアンナさんとゾンビ生徒たちに遭遇する。


 私は急いで、ジョアンナさんのもとに戻った。


「ジョアンナさん。どうやら、これからこの都市では激しい戦闘が行われると思います。ジョアンナさんは、えーと、元気な生徒さんたちとともに隠れていてください」


 元気といえば、元気だよね。さっきから、私の肉に食らいつこうとしてきているし。しかしジョアンナさんには、どのゾンビ生徒も噛みつこうとしていない。

 えー、これが先生と生徒の絆? それとも、単にジョアンナさんの肉が不味そうなのかなぁ? そもそもゾンビが欲しがる肉が、一般的に美味い肉とは限らないのだ、が。


 などと人肉について考えながら、私は一人、路地を歩いていく。そして、先ほどの二個分隊の前に出た。

 大柄な男の人が、警戒した様子で近づいてくる。


「貴様は、この都市の市民か? ゾンビ化していないのなら、何か話してみろ」


 なるほど。ゾンビ化していれば、会話することや、意志を伝えることはできない。だから、こういう問いかけは正しいわけだ。


「ゾンビではありません。攻撃しないでください。私のことは〈カブ畑の戦乙女〉とでも呼んでください」


「アリアさん」「アリアちゃぁん!」


 と、分隊から二人の女性が、同時に駆け寄ってきた。ミリカさんとベロニカさんだ。私の前で、なぜか私を取り合うように争いだしたが。


 私は〈スーパーコンボ〉を立てかけて、腕組みした。


「一体、この二個分隊、どういう人たちで構成されているんですか?」


 ミリカさんが答える。


「いうなれば、すべての戦力から精鋭がでそろった、というところだ。しかし、もちろん例外はいるようだが」


 睨まれたベロニカさんは、どこ吹く風。確かに負傷者がいるというのも、どうかと思うけど。


「だって、アリアちゃんが心配だったから~」とベロニカさん。


 先ほどの大柄な男が、私に聞いてきた。


「よく分からんが、あんたも戦えるのか? 足手まといはいらんぞ」


「えーと。足手まといにならないように、頑張ります」


 あぁ、なんでこんなことに………


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