201,カブ畑でも──
──で、2年後。
いまは亡きパパは言ったものだ。
大自然があれば、どこにいても生きていける、と。
【覇王魔窟】最上階には大自然がなかったので、擬似的に作成することにした。太陽だけではない、風も虫も花も、もちろん畑づくりに適した土壌も。
そのためには魔改造鋤〈ジェットブレイク〉のスキルツリー内で【自然領域】を開拓する必要があった。いまのところ〈ジェットブレイク〉の武装Lv.は5854である。
地下迷宮〈死の楽園LEVELⅡ〉で、コツコツ強化素材を集める日々。それでも、あんまり伸びないものだ。やはり〈攻略不可能体〉レベルの敵がいないと、レベル上げも大変なのだ。
ちなみに〈ジェットブレイク〉は、二本目の〈魔統武器〉。
〈魔統武器〉は一人にひとつの約束事を破っているわけだけど、まぁ【覇王魔窟】の管理者なのだから、それくらいの融通は利くよね。
そう結局、私は【覇王魔窟】の管理者となった。
女神アリエルにやって欲しかったけど、当人いわく、「わたし、トップに立つ器ではないから」とか。
えーーー。という話だよね。エルフ勢力と手を組んだけど、結局はクラウディアさんに使役されるハメになり懲りた、ということ? だからといって、私に押し付けるとは何事だ。
通常ならば、私も拒否したのだけど。私には、サンディさんたちを復活させるという使命があった。そこで仕方なく、【覇王魔窟】管理者となったわけだ。
とくにこれといった、盛大なる儀式もなく。
「私は【覇王魔窟】管理者になりますよ」
という一言だけで。
ところが、ここでアリエル詐欺ともいえることが発生した。
【覇王魔窟】管理者となったので、さっそくベロニカさんたちを復活させようとしたのだけど──女神アリエルが言うわけだ。
「アリア。それは無理よ。『願いを叶える』は、【覇王魔窟】を完全攻略した者だけに与えられる特典。管理者であるあなたには、『自分の願いを叶える』はできないわ。だって自分で自分の願いを叶えたら、それって職権濫用でしょ?」
「……すると、誰かが【覇王魔窟】完全攻略をするのを待たねばならないわけですか?」
「そうね。だけど朗報。【覇王魔窟】の難易度設定は管理者の自由よ~」
「うーーーーーむ」
ようは八百長かぁ。
しかし八百長を組む相手がいない──いや、いた。
というわけで、私は〈緊急脱出トンカチ〉を使い、【覇王魔窟】の外に出た(のちに管理者ならば【覇王魔窟】の外へと自由に出入りできることが判明。オーディン神さんも、もっと外に出て青空のもとで活動していれば、気が触れることもなかったのにね)。
とにかく私は、エルフの里のジェシカさんのもとに行き、かくかくしかじかと状況説明。エルフ勢力との約束を果たすためにも、まずはジェシカさんに【覇王魔窟】の完全攻略をしてもらうことになったのだ。
さっそく【覇王魔窟】管理者として、難易度を最低の最低にして、最上階で待つこと──4日目。ようやくジェシカさんが、すっかり疲れ切った様子で最上階の1001階までやって来た。
「あのさ、アリア、これはきつい。ただ1001階上がるだけで、しんどいから、ほんと」
「こんな軟弱エルフが、正式なる【覇王魔窟】完全攻略者となってしまうとは。まぁいいやです。さてと、願いを聞き届けましょう」
ジェシカさんは、事前に私が渡しておいたメモ用紙を開いた。こほんと咳払いしてから、読み上げる。
「えーーー、次の者たちを生き返らせて。ベロニカ、ミリカ、ロクウ、ミィ、サンディ、セシリアことオーロラ、クラウディア──えっ、あの巫女も復活させるの?」
「人体素材をいただくとき、蘇らせると約束してしまったので」
「まぁ、いいけどさぁ」
さて、復活させるのは私の仕事だ。しかし私には《復活》という類のスキルは身につけていないのだけど? どうしたものだろうか? と悩んでいたら、背後から抱きつかれた。この、気配を消してハグしてくる技術。これはもしや?
「ベロニカさん!」
「ダーリン! あたし、戻って来たわよ! ダーリンにハグして、頬をすりすりするために!!」
「はいはいそうですね、お帰りなさい」
見ると、殺意のかたまりと化したセシリアちゃんが、ベロニカさんを指さしている。
「殺していいの?? このわたしのアリアに抱きついている蛆虫を殺していいの??」
サンディさんが、蘇って早々のくたびれた顔で、首を横に振った。
「殺さないで女帝陛下。アリアちゃんの友達だから。殺すと、また面倒なことになるから………お酒が欲しいよ」
一方、ロクウさんは神妙な表情で言うのだ。
「先生! 拙者、死後の世界を体験することで、より強くなれたようです!」
そんなロクウさんを冷ややかに見ながら、ミィちゃんが言う。
「それは誤解。ただの勘違い。師匠、真っ先に殺されたのは、この男でした。いちばんの雑魚かと」
「お主も拙者が息絶えるときには、すでに致命傷を受けておったではないか!」
言い争う二人の後ろを、クラウディアさんがそろりそろりと歩いていく。
「………………わらわは、その、帰ることにするのじゃ、が? よいか?」
そんなクラウディアさんを見つけたベロニカさんが、顔面にグーパンチをくらわしたのだった。
「すっきりしたわぁ」
セシリアちゃんがうなずく。
「いまのは良いパンチだったね♡ アリアの第2妻としての地位、認めてあげなくもないよ♡」
私は、賑やかな面々を眺めて、ホッとした。ソロプレイも好きだけど、こういうのも良いものだ。
「みんなが戻ってきてくれて、私も嬉しいです。こうしてみんなが……………あれ?」
一人足りない。ミリカさんがどこにもいない。
「復活しなかったということは、ミリカさんは──死んでいなかった?」
てっきりミリカさんも、すでに殺されていたのだとばかり思っていたけども。
ここにきて、『ミリカさんはどこにいる?』問題が、再発である。
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