187,ジェシカ。
現実問題、ラザ帝国をアーテル国が併呑できるとは思っていないけれど。
少なくとも表立っては。
たとえば傀儡政権を作るとか? まぁ私は個人的には、ラザ帝国なんていらないんだけどね。ただセシリアちゃんが帝位を誰かに明け渡すのならば、その前に、アーテル国の安泰を勝ち取っておかないとならない。これから【覇王魔窟】完全攻略に成功したとしても、ゾンビやら魔物やらで荒らされたアーテルの国力低下は免れないのだから。そこで侵略などされては溜まったものではない。
何はともあれ、それは大事業となるだろうから、当分はセシリアちゃんに女帝を維持してもらうとして、と。
「それでアリアちゃん、新婚旅行はどこにいく?♡ 二人だけで、何物の邪魔もされずにこもれるところがいいよね♡」
「セシリアちゃん。ひとまず、世界を救うほうが先ですよ」
「世界? 世界とは、アリアちゃんね♡」
よくこの精神年齢で女帝として機能していたものだよね。まぁ私がいないときは、切れ者のセシリアちゃん(いやラザ帝国の女帝陛下か)になるのだろうけども。
私は、いま【覇王魔窟】を制圧しているのが、このラザ帝国の巫女であることを話した。まった。そもそもセシリアちゃんのほうが、クラウディアさんのことは詳しいよね。
セシリアちゃんは腕組みして、
「クラウディア? 巫女としては有能だと思っていたけども。そんな大望を抱いていたなんてね~。しかも実行してみせたわけかぁ。だとするなら、私が帝位につくのをローズ教の巫女として後押ししたのも、全ては〈未来視〉スキルによる『望む未来』のための手段だったわけだ」
とくに怒っている様子はない。それどころか、感心しているようなのだ。これがセシリアちゃんの女帝としての一面だろう。個人的な感情は挟まず、徹底的に客観的。だからこそ、たとえ利用されていたとしても、その敵が有能ならば、やはり感心するわけだ。感心した上で、的確に脅威を判定し対処する。
そんな沈着なるセシリアちゃんを私の存在が狂わすのだから、ルーンさんに殺意を抱かれたのも仕方なしだよね。
「ラザ帝国の舵取り、私の幕僚たちに任せてくるから、アリアちゃん♡ 先にアーテルに戻って、待っていて♡ 私たちの未来のために、クラウディア討伐パーティに喜んで参加するよ♡」
「了解です」
セシリアちゃんと別れて、私はアーテル国に戻る。サンディさんが待っている、〈小鬼〉の家まで真っすぐ行こうと思ったが。王城のことは、それはそれで気になる。ミリカさんに返すまでは、あの玉座には責任があるのだから。
王城に行くと、今回はちゃんとレイク騎士団長が仕事をしていた。玉座は無事。一方レイク騎士団長は、ずっと客人が待っている、と報告してきた。
「いま忙しいんですがね」
「はい、ですが──その者は、『エルフのジェシカ』と伝えれば、陛下は必ずお会いするだろうと」
「ふむ、ふむ」
ジェシカさんとは玉座の間ではなく、小さめの会議室で会うことにした。私とジェシカさんの二人だけで。
ジェシカさん、私を見るなり、満面の笑みで抱きついてきた。
「やぁ、アリア! そろそろボクが必要なときが来たと思ってねっ!」
「では、私に協力するため、戻ってきてくれたんですか?」
「もちろんだよ、アリア!!」
「あぁジェシカさん! 私は信じていましたよ!」
さて、このエルフさん、本気かな? まさか、ここまでの流れで、本気で私が『大親友ハグ』して仲間入れを歓迎すると思っているのだろうか。いやいや、ジェシカさんはそんなことは信じちゃいないだろうけれども。しかしながら、私が追い払わないことも知っているのだ。そもそも私は、別にジェシカさんを恨んではいない。信用はまったくしていないけれども。
ジェシカさんが、私を魔物化してくれたことから、全ては始まったわけだ。それが私にとって幸福なことだったのかは置いておいて、それでも感謝の念は抱いている。
だからこそジェシカさんをここで、無条件に撃破したりはしない。とはいえ、信用のおけないエルフっ娘であることは紛れもない。
「ところでジェシカさん。女神アリエルさんを奪われたようで、気の毒ですね」
ジェシカさんが顔をしかめる。
「むむむ。それを知っていたの?」
確証があったわけではなかったけど、これで確かになったね。
ジェシカさんたちエルフ勢力も、狙いがアリエルさんだったのではないか。その推測が正しいとした上で、さらに考えてみる。ところがジェシカさんたちとは、まったく別口であるクラウディアさんが、エネルギー体となったアリエルさんを操っているのだ。
ということは、ジェシカさんたちは失敗したことを意味する。私を利用して、『後見人』として、せっかく【覇王魔窟】に入り込んだのにね。
「それでジェシカさん。何が望みなんですか?」
ジェシカさんは単刀直入に言う。
「とりあえず、アリエルが欲しいなぁ」
「ふーむ。そうですねぇ」
ここで『保険』をかけておくのも、手かもしれない。
ただし、その『保険』に足もとをすくわれないように気をつけいと、だけどね。
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