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17/202

17,攻略の中毒者。

 


【覇王魔窟】8階に上がる。

 治療期間+500日前に、私の右足が食いちぎられた階だ。ちなみに右足の傷は、まだ残っています。こういう名誉の負傷痕は、残り続けるのだなぁ。


 さて。5体の〈影鰐シャドウアリゲーター〉が、影の中に潜んでいる。ルドル卿は、謎の自信満々の様子で、《炎刃》を振り回しながら歩いていく。


「はっはっはっ! 〈影鰐シャドウアリゲーター〉など、すでに私が殺しているぞ!」


 6階の〈影鰐シャドウアリゲーター〉は、ライオネルさんが半死まで追い込んだところで、ルドル卿がトドメだけさしたのだけどね。

 ライオネルさんが、ちょっとウンザリした様子で言った。


「ルドル卿。あんまり動かないでくださいよ。化け物ワニが5体も、影に潜んでいるんですからね」


「ふん。あんな鰐など、私の敵では──」


 ふいに3体の〈影鰐シャドウアリゲーター〉が、別々の影の中から飛び出し、ボンさんに襲いかかった。

 あっという間に、ボンさんは引きちぎられ、憐れ、喰われながら影の中に引きずり込まれた。


 ふむ。〈影鰐シャドウアリゲーター〉に喰いつかれていると、人間も影の中に入ってしまうのか。となると、もう生還は無理だね。

 案の定、ぷかりと影から浮いてきたのは、ボンさんの残骸でした。


「ひぃぃぃぃぃぃ!!」


 ルドル卿、いきなり顔面蒼白になって震え出す。この人、面白い人?


「ラ、ライオネルぅぅぅぅ!! なんとかしろぉぉぉ!!」


影鰐シャドウアリゲーター〉の一体が飛び出し、ルドル卿の右手に食らいつく。あっ、ルドル卿が引きずり込まれる──

 瞬間、ライオネルさんのカトラス〈バラクーダ〉が一閃。ルドル卿の右手を、肩のところで切断した。これで影の中に引きずり込まれることはなくなったけど。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!! ライオネルぅぅぅ!! 私の右腕がぁぁぁぁ!!」


 ライオネルさんは舌打ちして、ルドル卿を抱え上げた。


「俺たちは、これで退散する。やはりこの坊ちゃんじゃあ、8階はきつかったな。いや、俺が迂闊だったよ」


 私は、隣で震えているエミリーちゃんを見やった。

 ところでエミリーちゃんは、あんまり会話したくないようだったが、断片的な情報からこういうことらしい。ルドル卿の領民で、お父さんが借金したので、『ルドル卿のため働いたら借金チャラ』という契約のもと、送り出されたらしい。とりあえず、14階の生贄要員なので、まぁ生きては帰れない契約だったけど。


「エミリーちゃん。どうやら、ここでお別れみたいですね。また、縁があったら会いましょう」


「え、あの、どういう──」


 私は〈緊急脱出トンカチ〉でエミリーちゃんの頭を叩いた。【覇王魔窟】の外へ空間転移される。

 これで、今回の攻略中は、〈緊急脱出トンカチ〉が使えなくなってしまった。ここから先は、私にとっては未踏階なのに。

 だけど私には、どうやら地道にコツコツやりたいときと、スリルを求めて勢いだけで進みたいときがあるみたい。今の気分は、後者です。


「ライオネルさん。私は先へ進みますね」


「そうか。なら急いで14階の魔物について話しておこう。あいつは、おそらく初見殺しの部類に入るだろう」


「いえ、結構です」


 ライオネルさんが驚いた様子で、


「なぜだ?」


「知ってしまうと、自分で探る楽しみがなくなりますから」


 するとライオネルさんは、足元では〈影鰐シャドウアリゲーター〉が5体も泳ぎ回っているし、ルドル卿は絶賛出血中なのに、大笑いしだした。


「なるほどな。あんたは、〈挑戦者ディファイアンス〉の素質があるようだ」


「素質、ですか? あ、分かりました。それは、どうしても叶いたい夢がある、ということですね。私は、どうしても『結婚できないバグ』を──」


「いや違うね。そういう奴は、たくさん見てきた。でっかい夢を抱えて、【覇王魔窟】に挑む奴らを。だが、そいつらは長続きしない。すぐに死ぬか、諦めるかだ。なぜかって? そりゃあ過程を愉しめないからだ。

 考えてみな。1000階ものぼるんだぞ。のぼっている時のほうが多いんだ。というより、それで一生が終わるのが普通なんだ。だから、のぼっていくときを愉しめる者だけが続けられる。あんたは、その中でもぴか一だ。あんたはすでに、立派な【覇王魔窟】攻略の中毒者だよ」


「えー、中毒者ですかぁ? そんなことはないですよ。そりゃぁ、私の人生はすっかり【覇王魔窟】攻略に捧げちゃっていますけど。楽しすぎて、死なない限りはやめる気ないですけど。……うん?」


「やはり、これだけは言わせてくれ。14階の魔物は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あとは、まぁあんたなら、攻略できるだろう」


 去ろうとするライオネルさんに、私は質問してみることにした。


「ライオネルさんならご存じかもですが。魔物の中には、人間と会話できるタイプもいるんですか? 自我を持つ魔物、という感じです」


 私は〈寄生操魔パペットマスター〉のことを考えていた。

 ライオネルさんは一考してから、


「俺は長らく【覇王魔窟】にのぼっているが、そんなのにはお目にかかったことがないな。だが──これは古参の〈挑戦者ディファイアンス〉内で語られる都市伝説のようなもんなんだが。【覇王魔窟】が創られたとき、同時に6体のセーフティ魔物が創られたというんだ。別名、〈攻略不可能体〉だ」


「〈攻略不可能体〉ですか?」


「ようはチートすぎて、倒しようがないってことだ。なぜセーフティ魔物なのかというと、ようは【覇王魔窟】の創り手の本音は、人間どもに最上階まで到達して欲しくないというわけさ。願いを叶えたくないからだろ。

 だが最上階まで来たのに『やっぱり叶えませーん』じゃ、そりゃあ神としての威厳にかかわる。だから『絶対に倒せっこない魔物』を6体、上層階に配置したのさ。そいつらは、別格。特別扱いの証拠に、自我をもち、人間たちと会話できるという」


「……なるほど」


 ライオネルさんはルドル卿を抱えたまま去った。私は8階の中央で突っ立っている。いつ〈影鰐シャドウアリゲーター〉が襲いかかってくるかも分からない。


 だが、私は深く考えていた。

 そして気づいた。


 彼らは寂しいのだ。

〈攻略不可能体〉さんたちが存在するなら、寂しいに決まっている。


 自我を持っているのだから、当然だ。

 そして長い、長い年月が経ったのに、誰も来ないのだから。せっかく人間を殺すために生まれたのに。チートなのに。殺す相手が来ないのだ。だから時には、下層階にやってくるのだろう。

 私は心の中で、〈攻略不可能体〉たちに約束した。


 大丈夫ですよっっ! 私が、いつの日か、ちゃんと殺しにいきますからねっっっ!!!


よろしかったら、ブクマ、評価、お願いしますー!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] タグに百合つけてないってことは、主人公の目標は百合だけど百合にはならないってことなんですかね?
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