160,凡ミス。
「我が《魔物創造》スキルが、融合体を作るだけだと思ったら間違いだぞ。さぁ、真の恐怖を味わうがいい!!」
と〈魔創造人〉。
何か仕掛けてくるようだ。精神的には優位に立っているが、相手は小物臭がしても〈攻略不可能体〉。どんな初見殺しスキルを隠し持っているか分からないのだから、ここは早々に決めにいこう。
私は《怠惰人生》を発動し、時を止める。すでに発動している《耕作:熟練者》のスキル実が収穫可能になるのを待つ。
しかし──ふむ。スキル実の成長が止まった。おかしい。《怠惰人生》で時間停止状態の中でも、《耕作:熟練者》は発動可能であり、スキル実は成長するはずなのだが。
そして私は、とんでもない失態、まさしく凡ミス中の凡ミスをしでかしたことに気づいた。ここまでの凡ミスは、そうそうできるものではないよ。
つまり、順番を間違えたのだ。少し考えれば、分かることだったのに。
『《怠惰人生》で時を止めてから、《耕作:熟練者》を発動する』は可能。これまでは、そうしてきていた。
だが今回、とくに深い考えがあるわけでもなかったのに、『まず《耕作:熟練者》を発動し耕地を作った状態で、《怠惰人生》を発動して時を止めた』。
この流れだと、耕地におけるスキル実の成長も、『時間停止』の影響を受けてしまう。これでは《怠惰人生》の13秒の間は、スキル実の成長は起こらない。
計画変更。時を止めてしまった以上は、できるだけプラスに活用しなくては。というわけで、時が止まっているなか〈魔創造人〉に接近し、《地滅終打》を発動。5秒のチャージ後、通常攻撃100倍の一撃。さらにもう一度、《地滅終打》を発動。
それから時が動きだす前に、《嫌がらせ祭》も発動した。これは『睡眠・麻痺・行動鈍化の状態異常』を敵に与えるデバフ打撃スキル。ただし敵のレベルが高ければ、残念ながらすべてのデバフ効果が成功するわけではない。
〈攻略不可能体〉が相手では、あんまり期待は持てないところだよね。
さて《怠惰人生》が解除されて、時が動き出す。
良いニュース、《耕作:熟練者》も再開され、スキル実が成長を再開する。悪いニュース、このバトルでは、《怠惰人生》はもう使えないでしょう。
〈魔創造人〉は無防備な状態で、《地滅終打》を2発もくらったのに、これというダメージを受けていない。うわぁ。やっぱり基礎的な防御力がバカ高いんだなぁ。状態異常にもかかっていないようで、なんだかなぁ、という感じだよ。
さらに〈魔創造人〉は妙に嬉しそうだ。
「ほう。貴様、いまなにか、おかしなスキルを使ったようだが──おかげで、我が愛しき赤子〈零無〉が、素晴らしい成長を遂げた」
雷撃が落ちたような衝撃とともに、漆黒の球体が現れる。その球体は、いやこれは目玉だ。巨大な闇黒の目玉から手足が伸びる。あー、キモ可愛い。
これが〈魔創造人〉が《魔物創造》スキルとやらで創り出した魔物、その名は〈零無〉ちゃんかぁ。
次の瞬間には、私の魂は虚無に漂っていた。まさしく、これが死というものかぁ。健やかに眠っているときのようなものだよね。だけども、まだ死ぬのは早い。
まばたきする。このポイントか。
目の前では、〈魔創造人〉が発言している。
「我が《魔物創造》スキルが、融合体を作るだけだと思ったら間違いだぞ。さぁ、真の恐怖を味わうがいい!!」
私の《未来視》がまたも発動していたわけだ。それにしても自動発動というのは、『いま見ているものが未来なのか現在なのかも自覚できない』ので、不便というか、心臓に悪め悪めだよね。
しかも《未来視》が発動したタイミングで、すでに《耕作:熟練者》は発動されている。よって、ここで《怠惰人生》を発動して時を止めても、『時を止めている間にスキル実を収穫まで成長させる』のチート展開はできない。
さて──それよりも問題は、〈魔創造人〉が《魔物創造》スキルで作りだすことになる、〈零無〉とかいう魔物だ。
あれが生まれて、私は速攻で殺されることになる。しかし、一体どんな即死チートだったのだろう。
ところで〈零無〉が生まれる直前の〈魔創造人〉の言葉も気になる。『おかげで』という言葉を使ってきたが──私が、〈魔創造人〉に何かをしてあげただろうか? 私がしたことといえば、《怠惰人生》で時を止めたくらいだけれども──
もしや、それかな?
《魔物創造》では、『スキルを発動してから魔物が誕生するまでに、敵から受けたスキルを、生まれる魔物に付与することができる』ということ?
あのとき(といっても《未来視》で見たありえた未来だけれども)、〈零無〉に《怠惰人生》を使われ、時を止められた。
そして時間停止の中で、私は殺されてしまった。ふむふむ、これなに辻褄はあうよね。
つまり、いま強力なスキルを〈魔創造人〉に使っては、それが〈零無〉という魔物に力を与えることになってしまう。だから間違っても《怠惰人生》など使ってはダメなのだ──
では、すでに発動してしまっている《耕作:熟練者》は、どうなるのだろう? うーむ。一手目で大きな過ちをおかしたせいで、いよいよ詰んできたような。
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