146,人間狩り。
王城って、石造りのくせしてよく燃えることだ。
などと感心している場合ではない。王城に避難した王都民は外に逃げ出せたようだけど、このまま王城が使いものにならなくなると、われわれの拠点が失われてしまう。
どうにか鎮火しないと。
試しに《阿吽竜巻》で、王都内を流れている大河の水を巻き上げて、王城へと『バケツをひっくり返したがごとく』降り注がせてみた。だいぶ、火の勢いが衰える。
そばにいた騎士さんたちが歓声をあげる。騎士の一人が不思議そうに言った。
「先ほどまでは、いくら水をかけても火の勢いは強まるばかりでしたのに」
なるほど。〈火炎魔車〉のスキルによる火炎だったため、通常手段では消火できなかったわけか。ただ〈火炎魔車〉本体が死んだことで、火炎自体は消えることはなかったが、ひとまず『ただの火炎』になったと。
これで王都全焼の危機は免れそうだ。
その後も消火作業に励みながら──先ほどの騎士さんが、またも不思議そうに言うわけだ。
「一体、魔物たちの狙いはなんなのでしょうか、女王陛下。人間を殺したいようではありますが、どうにも一貫性に欠くというか」
私も同じような疑問を抱いていたが──面白いもので、他人が同じ疑問を口にすることで、私自身に見えてくるものがある。
「それは、ゲームですよ」
「ゲームですか?」
「〈攻略不可能体〉とその仲間たちは、どうやら『人間撃破数』が分かるようなんです。ただ、この意味について、私は今のいままで気づきませんでした。つまり、これは〈挑戦者〉が【覇王魔窟】攻略をするのと同じこと。魔物たちは、人間をどれだけ殺せるか競っている──」
とすると、『ゾンビによる殺し』は、ジョアンナさんにカウントされるのか。ゾンビ化現象の源が、ジョアンナさんなので。スキル発動元に、人間撃破のカウントがされるのは当然。
ただこの『競っている』仮説には弱点もある。中核都市ゾーンでは〈亜闇巨人〉が、都市の住人をゾンビ化しやすいように虐殺していた。あれはジョアンナさんを助けていたことになり、『競っている』の仮説に反する。
まてよ。そういえばゾンビは、たしかに燃えながらでも行動はできたし、人を襲ってはいた。だけど最終的には、燃え尽きるよね。それなのに〈火炎魔車〉は王都に火炎の雨を降らせた。
つまり〈四ツ魔〉がしたがっている〈魔創造人〉の判断は、〈亜闇巨人〉とは真逆。
そこには、ジョアンナさんへの妨害工作の意味合いも出てきそう。
つまり、こういうことかな? 魔物たちはチーム分けして、人間狩りを競っている?
どちらにせよ、人類──とくにこのアーテル国の民としては、たまったものではないよね。これもすべては【覇王魔窟】の管理者が変わったことにあるのだろうけども。
「あれ? 私は、〈攻略不可能体〉として、どっちのチームなのだろう?」
とくにどちらの陣営からも、誘われた覚えはない。そういえば〈亜闇巨人〉が、はじめは私に敵意を示さなかったのは、同じ陣営と誤解していたから?
「ところで〈倦怠艶女〉さんは、どうなんですかね。〈倦怠艶女〉さん聞いてますか? 〈倦怠艶女〉さーん?」
返事がない。ただの爆睡しているようだ。
とにかく王城に入ろう。玉座の間まで行き、一息つく。玉座の座り心地の悪さよ……………クッションが欲しい。
ああ、少しだけ気持ちを整理したら、こんどはゾッとした。半日前にここを出てから、これといって何も解決していないぞ。
いやいや。少しは前進したよね。〈攻略不可能体〉の一体〈亜闇巨人〉を撃破したし。ふむふむ。そこで得た強化素材で、ついに《怠惰人生》スキルを解放し、それによって13秒間も時を止めることができるようになった。《未来視》スキルもあるし、これで〈攻略不可能体〉の初見殺しスキルにもだいぶ対策できるようになったんじゃないかな。
そうそう、ちゃんとハーバン伯爵領の人たちも避難させたしね。いい仕事しているじゃないか私。
まぁ、ミリカさんは見つけられなかったし、ライオネルさんには5000万クレジットも支払わなきゃならなくなったけど。
はたして、終末を逃れたとしても、アーテル国の復興をはからねばならないとき、国庫金から5000万という大金を出していいものだろうか。最悪、ライオネルさんには500回払いくらいにしてもらおう。
ふと視線を上げると、ロクウさんが大急ぎで入ってくるところだった。
「先生! ついに玉座につかれたのですね! めでたい日ですな、今日は!」
「こら、やめなさい。アーテル国が滅びるかどうかの瀬戸際ですよ。ところでロクウさん、いままでどちらに?」
「はい。王都の地下にて、〈屍大王〉と、そいつが率いるゾンビ軍団と戦っていました。このゾンビたちは、地上を這いまわる元人間ではなく、元は悪鬼だった存在。その戦いは、熾烈を極めました」
「はぁ。頑張っていたんですね、人知れず」
私が頑張っているときは、他のみんなも頑張っているものだ。
そういえば、そうだった。これまで、さまざまな人たちが、頑張っていたじゃないか。スキルツリー開拓した魔改造鍬を持っているわけでもないのに。
私はといえば、武装Lv.8012の〈魔統武器〉である素晴らしき鍬を持っていながら、ここで悲嘆に暮れている。
これでは、ダメだよね。とにかく、ひとつひとつ片付けていこう。いまは亡きママの教えを思い出す。
『やることが多いときは、ひとつずづ、獲物を仕留めるように片付けていくのよアリア』。
いまの私の獲物とは、まさしく〈攻略不可能体〉だ。
私は玉座から立ち上がった。
「ミィちゃん、ロクウさん、行きますよ──〈攻略不可能体〉狩りです。人類か魔物。どちらが先に狩り尽くすのか、勝負しようじゃないですか」
攻略の場が、ダンジョン塔から王国に移っただけのことだ。
これは、私を中毒にさせてきたゲームに変わりないぞ。
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