144,探索中。
ライオネルさんの探索スキルには、いくつか種類があった。
「最上級で5000万クレジット、上級で500万クレジット、中級で50万クレジット、下級で5万クレジット、というところだが?」
ミィちゃんが愕然とした様子で、私に耳打ちする。
「師匠。この男、まさかと思いますが、カネを請求しているのでしょうか?」
「それでこそライオネルさんです。ですが、私の手持ちはありませんよ。あとで女王陛下御自身に請求してください。それでいいですか、ライオネルさん?」
「だが、いまはあんたが女王だろ、嬢ちゃん? 国庫金も自由にできるはずだぜ」
「ふむ。では最上級を買いましょう。いまは一秒でも早く、ミリカさんの居所を知りたいので。後払いでいいですね?」
「嬢ちゃんを信じるぜ。取引には信用が大事だからな。さて、まずはこの広大なるアーテル国のMAPを開こう。といってもラザ帝国と比べちゃ、小さな国だがなぁ」
そんなことをいったら、ラザ帝国さえも、この惑星に比べたら小さなものだと思うけども。
とにかく、ライオネルさんが探索スキル《探索β》を発動すると、私たちの前に、輝線で構築されたアーテル国の詳細MAPが出現する。
ふむ。この手のMAPスキルがあると、【覇王魔窟】攻略も楽になるよね。だけど私は【探索領域】を開眼できそうにない。ならば強化素材に頼るしかないけれど──ライオネルさんは、強化素材を提供してくれる気はないよね?
「嬢ちゃん。物欲しそうな顔で、俺の人体素材を見るのはやめてくれないか? だいたい、俺は強化武器タイプなのだから、人体素材なんてものは存在しないぞ」
「ライオネルさん…………被害妄想も甚だしいですよ」
ライオネルさんが右手を動かすと、アーテル国のMAPが動く。拡大したり縮小したり。ミィちゃんが、いらいらした様子で言った。
「師匠から多額の依頼料をふんだくったのだ。もっと真面目にやったらどうだ? 千回刻みにするぞ?」
「気の短い嬢ちゃんだな。いいか、《探索β》の発動条件は、おれが探索したい人物を知っていることだ。ミリカ女王のことは当然よく知っているが、捜索に成功するためには、間違いのないようにイメージする必要がある。お前さんも、離れ山まで行き、そこで見つけたと思ったら、なんとミリカ女王のそっくりさんだった──では笑うに笑えまい?」
「笑うとも。貴様の肉を千回刻みにしながら」
「なるほど。それは大笑いだろうな。そして──お前さんが邪魔してくれたものだから、スキルが不発に終わったようだ。いやまてよ──ははぁ、そういうことか。アリアの嬢ちゃん。どうやらミリカ女王は、もうアーテル国にはいないようだ。くそったれ。周辺国家は、ラザ帝国も含めて、俺は不慣れなんだがな」
私は別の可能性に行き当たった。だが、もしもそうだとすると──私は強制的に、初心にかえることになるが……。
いや、まだそうと決まったわけではない。ここは答えを焦って出さずに、ライオネルさんの探索スキルが、ひとまずの成果を出すのをまとう。
ところでミィちゃんは、すでにライオネルさんをどう切り刻んだものか、という顔で見ている。
「やる気はあるのか、貴様貴様?」
ライオネルさん、少しばかり顔色が悪い。《探索β》スキルの連続発動は体調にくるのかもしれず、単純にミィちゃんからのプレッシャーのせいかもしれない。
「やる気だって? もちろんあるとも。だから、そうカッカすることはないぞ拷問娘」
「なに? ミィの職業が、なぜ拷問吏だと分かった?」
「人体を股から裂く刃を〈魔統武器〉にしている小娘は、拷問吏か処刑人に決まっている。そのうえお前さんは、拷問法の千回刻みをやたらとやりたがっているからな」
《探索β》によるMAPは、さらなる広がりを見せる。ラザ帝国を含めた周辺国へと。だがミリカさんが見つかることはなかった。ライオネルさんはどっと疲れた様子で、近くの椅子に腰かけた。額の汗をぬぐい、ミィちゃんを注意深く見ながら、私に言った。
「どうやら失敗したようだ。依頼料は払わなくていいぜ」
ミィちゃんが鼻で笑う。
「当然だ」
だが私は、全額5000万クレジットを支払う、と言った。
ミィちゃんが目を丸くする。
「なぜですか、師匠?」
「ライオネルさんは消去法という方法で、ミリカさんの居所を明らかにしたからですよ──」
私はアーテル国内の、ほぼ北方領域のある一点を指さした。私のカブ畑があった、その近くを。
「【覇王魔窟】です」
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