131,ベロニカ・ゾーン。
サンディさんが酔いつぶれたころ、ベロニカさんがやって来た。
「ダ――――リンっっっ!!!! やっぱり生きていたのね!! これも、あたしの愛の力だわぁ!!」
「うーん。愛は関係ないと思いますよ、マジです」
ベロニカさんが私に抱きついてきて、やたらと頬ずりしてくる。それから耳の後ろを舐めてきたところ、レイクさんが引きはがした。
「たとえカブ冒険者ギルドのギルマスだとしても、女王陛下にそのような無礼は許されませんぞ!!!」
「え、アリア、女王になったの? きゃはっ、それでこそアリアよ。ミリカじゃ力不足だと思っていたのよね~」
私は玉座に座りながらも、座り心地の悪さにウンザリしていた。
「残念ですけど、これはミリカさんが『王の帰還』するまでの、つなぎですよ」
「ふーん。まぁミリカのことだから、しぶとく生きてはいると思うけれど。正直、ミリカもアリアになら喜んで、王位を移譲すると思うのよねぇ。国民にとっても、それが安心だわぁ」
「いまは有事だからいいですけど、平和になったら、国民は正当なものを王位にと臨みますよ」
「本当にそう思う? 昔は、『王を殺した者が新たな王』になったそうよ、アリア。分かる? 何も『強い者が総取り』というわけじゃないのよ。王というものは、その国家の代表というだけじゃぁないのよ。この国の象徴であり、それはたとえば国土とかも体現しているの。ならば、最も強い者こそが王として君臨するべきでしょう? それこそが国家は強く、うるおい、国民の幸福度も上がるというものよ。血筋とか、政治とかで決めるのが、つくづくバカげているわけ」
「じゃあ、選挙というので決めたらどうです? 最近、南方諸国では流行りらしいですよ」
「多数決は無能を選ぶ、の理論、知らないの?」
まぁ一理ある。投票では無難なものが選出されるし、無難と無能は隣同士だ。
「ベロニカさん。話を戻しますけど、私は女王をやり続けるつもりはありませんよ」
ここのところを、ちゃんと断言しておかないと。いまはただ、オートルさんのような『棚から牡丹餅』で王位に就こうとする者を阻止するため、王位を空白しないために、私はここに座っているのだから。
「それはそうと、ベロニカさん。王都のほうは、どうです? いえ、まず騎士団からの報告を聞きましょうか。レイクさん?」
私が騎士団長に任命したレイクさんは、先ほどまで騎士たちを引き連れ、王都内を駆けまわっては、逃げ遅れた人たちを救出していたのだ。
「はい。王都内では、ゾンビの数が増えるばかりです。その中で、陛下にはこちらを見ていただきたいのですが──」
レイクさんの部下が、布にくるんだゾンビ死体を運んでくる。それにしてもゾンビがそもそも死体なのに、さらに『死体』がつくというのは、頭痛が痛いの世界だよね。
レイクさんが自身の手で布を取り払う。
さて、私にはただのゾンビ死体に思えるが。ところでゾンビ死体である以上、頭部はちゃんと破壊されている。そのため生前の顔は分からないわけだが、腐敗度からして、土葬されていたものが這い出てきたのは確実。
この国が正常に戻ったら、火葬を義務づける法律を作ろう。それを私の女王としての最後の仕事にしよう。
レイクさんが、ゾンビ死体の衣服から、なにやら銀貨を取り出した
「こちらの銀貨は、黄泉の河の渡し舟に乗ることができるよう、土葬のさい遺族がポケットに入れるものです。アーテル国の流通貨幣ではなく、古いものを使用するのが習慣なのです」
「そんな習慣は、はじめて聞きましたね」
「はい。アーテル国の南方領域のみで続けられている風習ですので」
「なるほど。つまり、このゾンビさんは南方領域からやって来たと。それが自力の『ゾンビ歩き』で来たのか、死体のときに何者かに運び込まれたのかは分からないけれども、と。とにかく、王都のゾンビが増える一方のひとつの原因は、これですね。王都の外からも、ゾンビは供給されてくる」
やはり、ゾンビ化を行っている源を断つしかない。〈寄生操魔〉ことジョアンナさんを討つのだ──しかし、私の直感からして、おそらくジョアンナさんは、〈攻略不可能体〉最強。どう攻略したものか。
「ところでベロニカさんは、カブ冒険者ギルドのギルマスとして、何か報告があるのですよね?」
「ええ、そうよアリア。あなたを愛するしもべであるあたしは、ちゃんとギルマスとしても、仕事をしていたの。これも、あなたへの愛の証明なのよ。さあ、受け取って!!」
そうしてベロニカさんが差し出してきたのは、これもまた布にくるまった物体だった。そうして布を取り払うと、とんでもない形相の死に顔を残した、女の生首だった。
「……だれですか?」
「邪教の教主だった女の生首よ、ダーリン」
「うーん」
玉座の間に、ゾンビ死体やら、凄い形相の女の生首やら持ち込むなんて。さすが終末。
「なぜに邪教教主の生首を刎ねる必要があったのですか?」
ベロニカさんは生首を床に置いて、溜息まじりに説明しだす。
「この邪教が、あたし達ととても縁のある魔物、あの〈悪鬼羅刹〉を崇めていたから、よ」
〈寄生操魔〉と〈魔創造人〉に続いて、こんどは〈悪鬼羅刹〉まで出てきたのかぁ。本当に、アーテル国が亡びるかどうかの瀬戸際だね、これは。
いや、アーテルだけではないよね。きっといま、私たちは世界が滅びるかどうかのところに立っているんだよね。
まぁ、〈悪鬼羅刹〉が外に出てきたのならば、都合がよい。ベロニカさんの体内の魔素爆弾を解除するため、ここで殺させていただこう。
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