128,こつこつサンディさん
私が頑張っているときは、別の誰かも頑張っているものだ。
たとえばサンディさん。
ところで〈つなぎの女王〉に就任したところで、私は騎士団に、王都内に取り残された王都民を救出するよう指令を出した。
それとは別口で、2時間後、サンディさんがやって来た。30人ほどの避難民を連れながら。そして玉座の間に来るなり、愚痴っぽく語り出した。
「荷が重いって! アリアちゃん! 私には〈攻略不可能体〉の幹部の〈四ツ魔〉とか、荷が重いって!!」
「え? 〈四ツ魔〉の一体とバトルしたんですか?」
私が意外に思ったのは、管轄権(?)的なものだ。
この王都への攻撃は、ジョアンナさんこと〈寄生操魔〉によるものだ。一方で〈四ツ魔〉は、〈魔創造人〉の幹部。この王都内に現れるのは、ほかの〈攻略不可能体〉への干渉になるのでは?
いや、その発想は、【覇王魔窟】的すぎるのかも?
つまり【覇王魔窟】では、他階層への干渉は許されていなかったけども、ここは外の世界。〈擬態幻魔〉と〈魔創造人〉が協力関係だったと思われる証拠もあるし。ただこのときの協力関係では、ある程度の、互いへの不干渉は感じられた。
一方、このジョアンナさんが侵攻中の王都内に〈魔創造人〉の幹部まで来たというのは、かなりガッツリと関わっている気がする。それだけ、仲がいいのかな? ふーむ。
「なにはともあれ、サンディさん。撃破、おめでとうございます」
「どうして勝ったと思うの?」
「まぁ五体満足ですし──」
それに、サンディさんの愚痴の言い方が、『苦労したけど勝ったんだよ。話を聞いてよ』という感じだったし。
サンディさんは、王城所有の葡萄酒をごくごく飲んでから、言った。
「美味しくないぞ! 王の酒のくせに、美味しくないぞ!」
「ミリカさんは、お酒とかあんまり飲まないみたいですし?」
「話すよ、アリアちゃん! わたしが、どれだけ死ぬ思いだったかを! というか、一歩間違ったら死んでたよ!!」
ということで、サンディさんは話し出した──
●●●
半日前、サンディさんは鍛冶屋にいた。
依頼に出していた右手の義手の防具強化が終わったという話で。こうして戻ってきた右手義手は、魔法金属オリハルコン製になっていた。素材として提供したオリハルコンは、王政府より譲ってもらったものだ。つまり、ミリカさんから頂いたと。
そのオリハルコンを加工できる腕利き鍛冶屋は、世界でも数えるほど。その一人が、この王都にいてもおかしくはないよね。
かくしてサンディさんは、右手の局地的防御力を格段に上げて、ほくほくだった。その証拠に、奮発して高級な蒸留酒の酒瓶を買ったくらいである。
そうして帰宅中、見た。ゾンビが、通行人の肉を喰らっているところを。サンディさんは「うわぁ。今日はいい日になると思ったのに」と嘆きながら、ゾンビの頭部を右手で殴り破壊した。
そう、オリハルコンの右手である。防御力だけでなく、右拳の攻撃力も各段に上がったのだ。
その後、こつこつと目に入ったゾンビたちを、オリハルコン右拳で殴り破壊する。こつこつサンディさん。
そんなとき、サンディさんは『それ』と遭遇したのだ。すなわち〈四ツ魔〉の一体と。ただし、はじめて遭遇したときには、サンディさんには正体も何も分からなかったわけだけども。
ところで──このとき、サンディさんの相棒〈魔統兵器〉である、聖杖〈愛と抱擁〉は武装Lv.1022。そのスキルツリー開拓内容は、
◇◇◇
【打撃領域】(打撃Lv.15※右拳打撃Lv.40)
《聖なる一撃》→33%で、聖知状態にする一撃。
《遠方良好打》→最大50メートルの距離から強力な一撃を与えられる。
【防御領域】(防御Lv.28※右拳防御Lv.40)
《護りの姿勢Aパターン》→物理攻撃に対する護りの状態。
《護りの姿勢Bパターン》→状態異常攻撃に対する護りの状態。
《護りの姿勢Cパターン》→自然現象操作の攻撃に対する護りの状態。
【逃走領域】
《遁走バースト》→敏捷性が50倍となる。効果は300秒間。逃走限定スキルではない。
《煙幕》→煙幕を出す。逃走に効果的だが、逃走限定スキルではない。
《音無し世界》→スキル発動者が出す、一切の物音を消し去る。
《あなたは忘れる》→敵からの、スキル発動者への意識がなくなる、または薄れる。
【必殺領域】
《神の槍》→敵の防御力を無効にする必殺の一撃。発動する時刻を、最低5分前には設定する必要がある。
【友好領域】(害意緩和Lv.25)
◇◇◇
逃走スキルに傾倒しているサンディさん。ただ興味深いのが、そうして解放した逃走スキルが、どれもバトル時にも有効ということ。そして稀少アイテム〈神の槍〉を強化素材として吸収したことによって得た、必殺の一撃《神の槍》。
〈四ツ魔〉とバトルするにあたって、これで申し分なかったのか、どうか。それはすぐに分かることなのだ。
面白かったらブックマーク、下の評価よろしくお願いしますー!




