124,帰ってきた〈カブ畑の戦乙女〉。
自棄オレンジジュース先で知り合った、酒場の人たち(店主さんとそこのお客さん)。彼らを安全な場所まで避難させることになった。これも責任というものかぁ。
酒場の外では、通常個体ゾンビが群がっている。ここに人肉があるぞ、と盛り上がってきたようだ。
それにしてもゾンビというのは、可哀そうな存在だよね。というのも、ゾンビは人肉を食べたい。だけど人間に噛みついてしばらくすると、同じゾンビと化してしまう。ゾンビ同士は共食いしないので、『ゾンビ肉は不味い』ということらしい。
だけど、それだと人肉を食べきる前にゾンビ化してしまったらば、そこで人肉消失となる。つまり『噛んだらゾンビ化する』というシステムのせいで、人肉獲得のチャンスをふいにすること多々。
生物としては非効率だけど、もともと『まともな生物』としては設計されていないから。不憫だ。
そんなことを考えながら、《操縦》で魔改造鍬〈スーパーコンボ〉を飛ばして、ゾンビたちの頭部を抉っていく。途中で面倒になったので、手元に〈スーパーコンボ〉を戻してから、《波動砲Lv.3》で一掃しておいた。
「さ、私に続いてください」
さて、避難するならどこか。
といっても候補は二つに限られている。王城か、カブ冒険者ギルド本拠地か。護りが固そうなのは、王城。もともと敵勢力に攻め込まれた場合の籠城戦モードOKの設計だし(ゾンビの群れが攻めてくるとは思わなかっただろうけど)。
一方、カブ冒険者ギルドの本拠地は、『一般人の皆様もどうぞいらっしゃい』設計だから、建物的な護りは弱い。ただし冒険者ギルドを吸収したことからも、強者はこっちのほうが揃っている(ただし王都の騒ぎを治めるため、出払っているかもだけど)。
うーん、決めかねるので、単純に近いほうにしよっと。
「では皆さん、王城へ向かいましょう」
しばし進んでいると、お客さんの一人が言ってきた。
「〈カブ畑の戦乙女〉さま」
「はい? どこからそんな通り名が出てきたんですか?」
「え? いえ、先ほどカウンター席で自棄ジュースされているとき、独り言で『私が〈カブ畑の戦乙女〉……』とおっしゃられていましたので。違ったのでしょうか?」
「……まぁ、それでいいですよ。ところで、なんですか?」
「あの雑貨店に、俺の妻が働いているんです。まだ避難できていないかもしれないので、確認していただけませんかね?」
「……………はい」
こういうとき、「面倒だから、やーだよ」と言える人になりたい。
というわけで、雑貨店へ向かう。そこには、手作り防護壁が設置されていたので、こじ開けてみる。すると店内から、ピッチフォークが突き出されてきた。刈り取った麦や干草を持ち上げるのに使う農具であり、私の〈スーパーコンボ〉の仲間。
といっても、このピッチフォークは、魔改造仕様ではなく、ただの農具だけども。私に当たると、ピッチフォークがへし折れた。
「ゾンビではないですよ、皆さんを助けにきましたよ」
雑貨店内にも、避難できずにお店籠城していたのが、10人。酒場から引き連れてきた12人とあわせて、22人か。また大所帯になったなぁ。ちなみに、この雑貨店に奥さんがいる人は、無事に再会でき、ハグしている。それから私に向かって、
「ありがとうございます、〈カブ畑の戦乙女〉さま! この恩は一生かけて返させていただきます!」
「はいはい、それはどうもです。では行きますよ」
ところが、雑貨店内にいた別のお客さんが、「〈カブ畑の戦乙女〉さま!」と必死の形相で呼びかけてきたので、凄く嫌な予感がした。渋々ながら話を聞くと、嫌な予感は的中。近くの保育園に子供を預けているが、まだ避難できていないかも云々。
「…………じゃ、保育園コースで行きましょうか」
はたせるかな保育園には、やはり避難できず保育園籠城している人たちが30人。そのうち27人が、わいわいうるさい子供たちだ。なんという悪夢! まさかの引率の先生になってしまった!
「皆さん、離れないで。ひと固まりで移動してくださいよ。大人たちで円状になって、真ん中に子供を入れるんです。いいですか、皆さんも武器を手にとって、戦うんですよ。私は、こんな大所帯パーティを率いたことはないんですからね。あ、ほら、そこから変異体ゾンビがきたではないですか!」
獣化した変異体ゾンビが3体、路地裏から飛び掛かってきた。しかも私の位置から、最も遠いところに。《波動砲Lv.3》や《阿吽竜巻》では攻撃範囲が広すぎて巻き添え被害が出るので、《操縦》で〈スーパーコンボ〉だけを飛ばして、変異体ゾンビたちを串刺しにする。
一方、私がいる側からも、通常ゾンビが群がってきた。引率中の人たちが悲鳴をあげる。私は拳を振り回して、通常ゾンビたちの頭を潰していく。戦えというのに、引率中の人たちの戦力が0すぎる。大人が35人もいるのに全員役立たずって、どういうことだろ。悲鳴をあげるのだけは凄いけども。
「まったく、どうしてこんなことに──」
保育士の一人が言ってきた。
「あの、〈カブ畑の戦乙女〉さま!」
「はいはい、なんですか!?」
「近くの鍛冶屋に、私の弟がまだ避難できずにいるかもしれません!」
「分かりましたよ!! もう全員、助けていけばいいんでしょ!! 皆さん、行きますよ!!」
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